事件は終わった?

「以上が今回の件のことの顛末になります」


「ふんふん。随分と大変だったみたいだね、ご苦労様」


 龍特使局の局長室で奈也人ななと溌希はづきは局長である二戸にと左文字さもんじへ今回の件を報告書という形にまとめてを提出する。


 これでようやく本来奈也人ななとに期待されているであろう仕事と向き合うことが出来るようになったという訳だ。


「随分包帯を巻いているみたいだけれどね、身体の方は大丈夫かい?」


「ご心配ありがとうございます。一応日常生活に支障はない程度には回復しているので問題ありません」


「それなら良かったよ。うん、良かった良かった。時に、これから特区の公式アカウントとしてSNSで発信をしていきたいんだけれどね、それってこういうのでいいのかな?」


 報告書に一通り目を通し終えた局長がノートパソコンをくるりと回転させて二人へと見せる。


 そこには龍公特使局の建物の外観写真が添付された『予想外の大きな事件も起きましたが、これから局員一同誠心誠意頑張って行きたいと思いますのでよろしくお願いします』という下書き投稿が映し出されていた。


「……、差し出がましいかもしれませんが、もっと簡素な報告だけにしておかないと、上げ足を取るような形でかなりバッシングを喰らうかもしれません」


 奈也人ななとの勘と経験が文面はもっと事務的にせよ、と告げる。


「えぇ!? そうかなぁ?? 私はこれで良いと思うんだけどなぁ……」


「インターネットは闇の世界なので、上げ足取って噛みつけそうな部分があればなりふり構わずに全力出してきますから……」


 基本的にSNSの世界は治安が悪い。


「世紀末だねぇ……」


「初回投稿はこれくらいが妥当かと」


 下書きを添付ファイルごと全て消して、『ご報告が遅れました。こちら龍特使局公式SNSです』とだけ入力してノートパソコンを二戸にとの方へとくるりと返す。


「流石に簡素過ぎないかい?」


「今は少し良くない意味で注目が集まっていると思うので、しばらくは事務的な投稿で目立たないようにした方がいいかと思います。行政の公式アカウントで、炎上広報みたいなことをするのは相応しくないですし……」


 少ししょんぼりした様子を見せる二戸にとに対して、それでも首を横に振って見せる。


「そこまでいうのであれば、仕方ないね。それじゃあ、これから通常業務頑張っていこうか!!」


「はい!!」



 その三日後の夜、『龍の生態を研究する』チャンネルの公式SNSにご報告と題した写真付きの投稿があった。


『わたくし管理人、『七人たたら』改めて太刀上たちかみ奈也人は龍特使局の局長補佐として任命されたことをここに報告させていただきます』


 短い文面に添えられていたのは龍生特区、龍特使局、局員用のピンバッチを写しただけの映えなど全く意識していない簡素な写真。


 それは間違いなく新しい一歩を踏み出した、その軌跡だった。

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