解決のとき?
「全く、暗いし地図は意味わからないしで随分と時間がかかってしまいました。
普段と何一つだって変わらない
だけれど
「無事とは、少し言い難いかな……?」
「なっ!? 一人って話だったろ……!! いやっ、それよりなんでそんなに何にもないみたいな風で……!!」
彼女がどこから割って入ってきたのかは誰にも分からなかった。
辺りに人影らしい人影は今の今まで存在していなかったのだから。
「……、ッ――!!」
すると耳からインカム型のイヤホンのような小さな機材が零れ落ちる。
「クソッ!!」
忌々しそうに吐き捨てると同時に構えなおして、ダンッ!! パァンッ!! バァンッ!! と立て続けに撃鉄を鳴らす。
即座に振り返った
弾丸は音もなく空中で何かにぶつかり、ぽとりと地面へ落下する。
明らかに物理法則がおかしかった。
「なんっ……!! なんでっ、こんなところに龍がいる――!?」
目の前で起きた超常現象の正体を即座に看破し、そして絶叫する。
「クソッ!! こんな、こんなはずじゃ……!!」
僅かに後退りをしつつ懐から丸いモノを取り出して、やけくそのように
投げつけたモノの正体は先ほど
だけれど――、
「私が普段から服を着たままで水浴びをするような習性があったならば、これにも意味はあったかもしれませんね。生憎とそんな習性は持ち合わせていませんが……」
投げつけたモノは溌希の前で不自然に何かにぶつかって、破裂する。
当然中に入っていた液体窒素は飛び散るはずなのだが、破裂した球体から飛び出した液体窒素もまた
これが『龍の防衛能力』。
「ははは……、ふふっ……、ふはははは……っ!! くそっ、なんで、どうして、どうして、こうなった……」
自嘲的に笑いながら夜闇を見上げてそうごちる。
逃げる気も抵抗する気も一切なくなってしまったのだろうことが伺える。
「別にあなたのことを痛めつけようとは思いません。が、捨て置き見逃せるわけもないので、拘束させてもらいますよ」
「随分待たせちまったよな、悪い。って……、もう終わってんのか」
遅れて
「流石にやばかった。大マジで間一髪だったよ……」
「悪いな。ちょっと予想外に長引いちまったんだ」
助け起こされた
「さっきは一つ聞かせてくれって言ったけど、前言撤回だ。あなたには聞きたいこと、確かめたいことが山ほどある」
「……、どうして君は一人じゃないんだ……」
「その疑問に答えれば、こっちの疑問にも答えてくれるか?」
「今更何をどう隠したところで君のポケットに入ったままの録音機が何もかも記録しているんだ。隠し立てする意味はない」
「やっぱり気が付いていたか……。俺が一人じゃなかった理由は簡単だよ。
コートのポケットから小型の録音機を取り出して軽く振って見せながら静かに目を伏せ、問いかけに答える。
「……、それじゃあ君たちはワタシが怪しいと分かっていたということか……? いつだ」
「いや、誰が怪しいかなんて分からなかった。ただ襲われた状況的から捜査班として動いている人員の構成を把握出来ている何者か、というあたりは付けられた。だから後はばらけてブラフを混ぜつつ危険を承知で誘いに乗れば自動的にどこかにはぶつかるだろうっていう出たとこ勝負に持ち込んだというわけ」
「はっ、ハハハハ、ウフフフ、ふふふ。まんまと一杯食わされたよ」
完全な予想外の出来事があるとすれば、
「それじゃあこちらの疑問にも答えて貰うぜ」
「ふ、ふふふ、フフフフ。いいとも答えようじゃないか。なんだい? 何から聞きたい? 全てお答えしようじゃないか」
凄むような
「今回の件の本当の首謀者の名前」
一度小さく目を閉じて、一呼吸間をおいてから
瞬間、
「そんなことをわざわざワタシに問いかけてくるということはもう気が付いているってことだろう?」
「俺は俺の予想が外れていて欲しい。だからあなたに問いかけている」
それはゾっと肝の冷える声色だった。しかしだというのに、何か縋るような震えも感じさせられる。
躊躇っているような感じがあるわけではない。
ただ目を閉じて、何かを思い出すように静かに少しの時間が流れる。
その場にいた誰も彼を急き立てるようなことをする気にはなれなかった。
そしてたっぷりと時間を使って、
「……ワタシだよ。今回の首謀者にして、本当の黒幕は、このワタシ、
噛みしめるように、自分に言い聞かせるようにそう言った。
「それは本当にあなたの選択か? それとも……、」
「そう、ワタシの選択だ。他の誰でもない、このワタシの。『龍の瞳』によって、思考を誘導されているわけでもなければ、情に絆されて誰かを庇い立てしているわけでもない。ワタシ自身の望みのために、彼女を殺すための計画を立てたんだよ。そのために『龍の瞳』まで使ってね」
「『龍の瞳』を使った……? 一体どうやってあんなものを手に入れたというんだ」
龍の瞳。
その名の通り、龍の眼球を抉り出したモノ。
それ単体、単独では大きく煌びやかで美しい宝玉でしかない。
だけれど、その眼球にある特殊な細工を施すことによって凶器の産物『龍の瞳』へと変貌する。
特定の細工が施された龍の眼球は光を回折することで特殊な波長を作り出す装置として機能する。
回折された光の波長は眼球を通して人の脳に対して強烈な刷り込み効果を喚起させてしまう。
分かりやすい表現に置き換えるならば催眠光線発生装置とでも言えばいいだろう。
それが『龍の瞳』と言われるモノの正体。
「『龍の瞳』を使って
「……っ、」
「そんなものを持ち出してまで彼女を殺すに足る理由があるのか? そこまで周到に算段を付けて殺害を実行させるほどの……」
「ワタシは一六年前の事故の時、あの場所にいたんだよ。あのときの事故が原因で意識不明のままの子たち、後遺症に悩まされている子たちは大勢いる。みんながみんな君みたいに元気に生きていけているわけじゃないだ」
「あなたも、あの場所にいた……?」
「そうさ。ワタシは実習生としてあの実験の手伝いをしていたんだ。だからその贖罪がしたかった。龍である
「だから、彼女を殺したのか」
「そうさ、……そうさ!!」
恨み辛みや妬みではない理由があった。しかしだとしても、彼の行いが正当化される理由にはならない。
ただ誰も何も言えなかった。
糾弾することも、同情することも、慰めることも、叱ることも、出来はしなかった。
「……、
夜闇の雑木林の中で一人の男の悲痛な叫びと共に『答え』が白日の下に晒された瞬間だった。
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