小さな自分へ、大きな自分から
CHOPI
小さな自分へ、大きな自分から
「もう、そんな季節か」
帰宅途中にある、近所の雑貨屋のディスプレイを眺めるたびに、同じことを飽きもせず呟くようになった気がする。例えば春のイースターの卵。例えば夏の風鈴や扇子・団扇。そしてこの間はオレンジ色のカボチャの置物。それが終わって今は、赤・緑を基調とした華やかなオーナメントの数々。……一年の流れは早いもので、もうクリスマスの小物がたくさん売られ始めている。
カレンダーを見てはため息が止まらない。ついこの間までイベント物はハロウィンだったじゃないか。それが終わった途端にもうクリスマス。そうなれば(気が早い、とは思うのだけれど)お正月が後ろに透けて見えているも同然で。これから来る怒涛の年末年始のイベントシーズン。やってくる少し長めのお休みは嬉しいけれど、その前に来る繁忙期が今から怖くて仕方がない。
毎年やってくる繁忙期。本当に死にそうに『ヒィ、ヒィ』と言いながら、どうにかこうにか気力だけで何とか仕事をこなして休みに入る。前までは大好きなものは見ないフリをしていたけれど、今はやっぱり大好きなものを見ないフリする方がしんどくて。恐らく今が、少し余裕のある最後の時期。
「……たまには気合い入れるために、好きなものでも買おう」
そう思い立って、仕事が早く終わった日、久しぶりに少し大きめの電気屋さんへと足を運んだ。クリスマスが近くなる、ということは、おもちゃコーナーが充実し始める、ということだ。だから、本来対象であるはずの子どもたちを差し置いて、だいぶ早めに自分へのご褒美探し。
「あ、あった!」
特撮ヒーローのおもちゃコーナー。ヒーローや敵の怪人のソフビもあるし、変身アイテムも充実している。その中に特に大好きなヒーローの姿もあって、それを見るだけで心が躍った。
普段、どんなに好きなものとはいえ、周りの目を気にしてしまう自分は、堂々とおもちゃを買う勇気がない。いい年の大人がおもちゃを買ったところで、誰も何も言わないと思うけれど、自分の中の“世間の声”が『えー、いい
目の前に積まれた、変身アイテムの箱の山。そこから一つ手に取って、しげしげとパッケージを確認する。こういうパッケージを眺めるときは、心はもう、すっかり童心に戻っているものだ。
「……買っちゃおう!」
だけど現実、戻っているのは心だけで、ある程度の財力を持った大人に変わりはないので。あぁ、ごめんよ、世間の子どもたち。一足お先に、自分はこれを買わせてもらいます。
レジに並んで会計を済ます。『プレゼント用ですか?』の言葉に『はい』と返す。……まぁ、あの、噓では無いはず。だってこれは、自分の中にいる「ヒーローが大好きな、小さな自分」にあげるもの、なので。
電気屋から出て帰路につく、その足取りの軽いこと。まだまだ年末までもう少しあるけれど、これを買った自分はしばらく最強暗示がかかっている。『今ならどんな仕事も、なんでもかかって来い!』と威勢よく心の中で呟くと、少しだけ冷静な大人な自分が『少し落ち着け』なんて言いながら、苦笑しているのがわかった。
小さな自分へ、大きな自分から CHOPI @CHOPI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます