第7話 料理の山
しばらくすると使用人らしきお方が、大量の料理が乗っているワゴンを引きながら入ってきた。
そしてテーブルの上に、次から次へとワゴンに乗った料理が置かれた。
「遠慮なく食べたまえ。むろん、これだけ全部食べることは不可能だろうから残してもかまわぬ」
「良いのですか!? お金も持っていませんが……」
私は、念のために食べて良いのかどうか確認をした。
「好きなだけ食べてよい」
「ありがとうございます! いただきます!」
私は貴族としての嗜み、そしてテーブルマナーも知らないので、とにかく勢いよく次から次へと口の中へ頬張っていく。
食べることの喜び、空腹感が久々になくなるほどのご馳走、遠慮なくバクバクムシャムシャいただいた。
そして、テーブルに用意された料理は、全て残さず食べ尽くした。
私のお腹が破裂しそうなほど苦しいが、なんとか残さずに済んだ。
「ごちそうさまでした」
「フードファイターなのか君は……」
ジュエル殿下が呆れたような表情をしている。
「いえ、残さず食べるというのが私の流儀ですから」
「ほう?」
「食べ物は貴重品です。料理をしてくれた方や食べ物を生産してくれた方にも、残さず食べた方が良いかと思っています」
それから口には出さなかったが、残さずに食べたいとこだわる一番の理由として、今までの生活環境が原因である。
ろくに食事を摂れなかった日々だったので、食べ物へのありがたみは痛いくらいにわかっているつもりだ。
食べられるときに食べておく必要があったのだ。
「ふむ、どうやら私の方が君に教えてもらったような気もする。今後心得ておこう」
「はい?」
「ところで、久しぶりの雨を降らせた根元はやはり君か?」
「はいっ!?」
ジュエル殿下が意味不明なことを言いはじめる。
何を言っているのか全く理解できないので、私はジュエル殿下に向かって変な声で返事をしてしまった。
「君は聖女なのだろう?」
「聖女? 私がですか!?」
「違うのか?」
「ちがいます」
聖女になる条件として、死の直前からの生還と運だと聞いている。
私は昔、突然の火事によって死にそうになったことがある。
そのときに私の大好きだった家族は皆死んでしまった……。
私の記憶が曖昧なのだが、炎の中でなぜか生き延び、死の直前からの生還という条件はクリアしている。
だが、試しに聖なる力がなんなのか、どうやったら聖女なのか調べたり実験してみたが何も起きなかった。
つまり、私は聖女ではない。
そのことを詳しくジュエル殿下にも説明した。
「あの突然の雨は明らかに自然の力ではなかったと思うが。君がアイリスだと知ってからは、死の淵から生還したアイリス君が聖女として力を解放したのかと思っていた」
「それで助けてくださったのですね。ご期待に添えず申し訳ありません」
「勘違いするな!」
「ひっ……も、申し訳ありません!」
またしても恐怖を感じてしまう。
ジュエル殿下の口調はやや荒いところはあるが、実際に喋ってみた感じだと、想像していたよりもずっと優しい。
だが、私の長年の恐怖心へのトラウマが、些細なことでも敏感に反応してしまうのだ。
「君が聖女でなくとも王宮へは招待しただろう。あくまで道端でキノコを生で食べるような者を野放しにしてはなるまいと思ったまでだ」
「そうでしたか……。お心遣い感謝いたします」
「ところで、先ほど聖女としての力について語ってくれていたが、君の発言には一つ間違いがある」
「え?」
生還した少しあとに調べたことだから、私がまだ十歳くらいの情報だ。
誤りがあったとしても不思議ではないが、ジュエル殿下は何を根拠にそんなことを言うのだろうか。
「聖女になれる条件で、君は死に際からの生還と運と言っていたが、正確には『死に際からの生還してからうん年後に力が発動する』だったはずだが」
「そうなんですか!?」
「君が調べたのは『市販されている聖女の豆知識』という本ではないか?」
「そうですが……」
あの本は、義父様がもしかしたら私が聖女かもしれないと期待して買ってきてくれた本である。
義父様から無理やり読むように命じられ、私はほぼ全てを読み尽くした。
だが、肝心の義父様は読書嫌いらしく全く読まなかった。
「あれは聖女になれる条件にカッコして暫定と記載されているページの最後に『うん』と記載され、次のページに『年後』と書かれている。重要な部分でページめくりだったはずだ。まだ小さかった頃に読んだのなら間違えても不思議ではないだろう」
「知りませんでした。……って、もしかして私……!?」
「聖女かもしれんな」
「ぐうぇっぷ……!」
ジュエル殿下の情報が正しいとしたら……。
私が聖女!?
いやいやいや、故意ではないが、食べ過ぎが原因で人前でゲップをしてしまうような女が聖女なわけがないだろう……。
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