第18話 シャーリャ王女の相談2

 白紙と言われても、レインハルト様の本当の気持ちを知ってしまっている。

 このままシャーリャ王女を責めても仕方のないことだし、ひとまずシャーリャ王女をなんとかしようか。


「頭を上げてください。王女様ともあろうお方がそんな態度をしなくていいですよ」

「ミリアナさん……どうしてそんなに優しいのですか」

「起こってしまったことをどうこう責めても仕方ありませんよ」

「ミリアナさん……許してくださるのですか?」

「まぁ責めても仕方のないことですし、気持ちなんて簡単に変えられるものではありませんよ」


 シャーリャ王女はものすごい笑顔を見せながら私の両手を握ってきた。

 ちょっと大袈裟な気もする。


「さすがミリアナさんです! あんなに酷いことを言ってしまったのに、全く動じずに冷静でいられたのですね……」

「ん?」

「これからはミリアナさんのことをお姉様と呼ばさせてください」

「はい?」

「ダメですか……?」


 今にも泣きそうな視線を向けてくる。

 まぁ私は困るわけではないのだしいいか。

 それよりもシャーリャ王女の悩みを聞かないと。

 一旦用意していただいた紅茶をすすりながら冷静になろうか。


「ところで相談とはなんですか?」

「お姉様にならなんでも話せそうです。実はこのままだと、王女を辞めて悪女になってしまうんじゃないかと思っているんです」

「ぶふふっふふう!!」


 シャーリャ王女が意味不明なことを言うもんだから、私は口の中に入っていた飲み物を盛大に吹いてしまった。

 アエルが驚いたときの気持ちがよくわかる……。


「それくらい深刻なんですよ」

「いや、もう深刻という次元じゃなくて、ヤバすぎですよ!」

「レイハルのことはきっぱり諦めようと思っているのですが、今まで一緒にいた時間が長かったからか、なかなか忘れることができなくて……」


 これはやっかいなことになってきた。

 一旦状況を整理したい。


 私はレインハルト様を愛しているし婚約関係である。

 レインハルト様は実はシャーリャ王女のことが好き。


 一方、シャーリャ王女はレインハルト様のことが好きだが、忘れようとしている。

 そのためには悪女になってやるくらいの爆弾発言をしていた。

 つまりこのまま放置していたら、シャーリャ王女は『復讐じゃあぁ』とか言い出して私かレインハルト様に毒を盛ったり、下手をすればどっかへ消えてしまうんじゃないだろうか。

 そんなことになってしまえば、レインハルト様が悲しんでしまうじゃないか。


 断固として阻止しつつ、考えを改めさせなければならない。

 だが、そのまえにまずはシャーリャ王女のこれから勧めるべき選択肢を増やしたほうがよさそうだ。


「私が好きな小説では、振られてしまったヒロインの女の子は一人の男性に執着しすぎていましたね。好きと言うよりも依存みたいな。その子は新たな出会いを作ったら他にも良い異性がいるんだと気がついて万時解決していましたね」

「ふむふむ……」


 よし、ちゃんと聞き入ってくれている。

 それではシャーリャ王女にやってもらいたいことを提案しようか。


「別の小説だと、むしろ好きな人を諦めてなるものかー! というヒロインがいましてね、主人公の男の子を奪って駆け落ちしていましたよ」

「んーー……」

「あ、逆のパターンで、小説の国王が意中の女性に振り向いてもらうために、国の法律自体を変えてしまったとかいうのも」

「へぇ……そんなこともあるのですね」

「まぁ小説ですけれど。でもシャーリャ様は王女だし、国の仕組みを変えてしまうことはできますよね」


 これでシャーリャ王女が、『王族の結婚は王族同士でないとできない』などと提言してしまえば、丸く収まる。

 しっかりと聞いてくれているし、きっと彼女も気がついているはずだ。

 だが、もう一押し念のために言っておくか。

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