第8話 またアエルに相談してみた
「……で、嫌いな食べ物がつまったお弁当作戦は大失敗だったのですね……」
「うん。これでもかってくらいに考えて、いっぱい嫌いな食べ物詰め込んだんだけどね」
「結果的に美味しかったと……?」
「そう言われちゃった」
「むしろ微笑ましく思いますし、ミリアナ様が羨ましいです」
いつものカフェで、アエルと一緒に反省会という名のお茶会。
アエルが尊敬の眼差しのような視線を送ってくるが、私にとってはむしろ痛々しい……。
むしろ、『あーあ、本当に婚約破棄されてしまったんですね』という流れになって慰めてもらいたかった。
「それで、最終的にどのようになったのですか?」
「ひざまくらしてもらって寝ちゃった」
「婚約破棄どころか、もうそれってただのノロケですよね!?」
アエルは、むくりと頬を膨らまながら呆れたような目をしていて、妬いているようだった。
だが、私は真剣に悩んでいる。
このままではレインハルト様に対して、自我が強くなってしまい結局私が独占したくなってしまうんじゃないかと。
そうなれば、レインハルト様は一生最愛のシャーリャ王女様と結ばれることはなくなってしまうのだ。
「もっとひどい悪女にならなくては……あぁもうっ……!」
「うーん……、全くもって理解ができませんね」
アエルにはどうして婚約破棄してもらうようにしたいのかは話していない。
レインハルト様の評判を下げてしまうようなことは絶対に言いたくないからだ。
だからアエルが不思議に思っても仕方がないことである。
「あれから他にも方法は考えたんですけどね……」
「教えてほしい。こんなこと他の人には相談できないし、あなただけが頼りなのよ……」
アエルが大好きすぎて仕方がない。
こんなに良い子と仲良くするなとか、両親たちはもっと色々なところに視野を向けて欲しい。
「これは本当に嫌われるタイプの人がやることなのですが……」
「うんうん、それでいい!」
「束縛してみては?」
「束縛?」
アエルの提案は私の予想にもなかったようなものだった。
恋愛小説にもこの手の話で思い当たるような節が見つからない。
「はい。これは小説云々ではなく、異常に束縛をされると気持ちが重く感じてしまったり、相手に対して冷めてしまう傾向があるのですよ」
「なるほど……」
「たとえば、ミリアナ様は料理が大好きですよね?」
「うん、毎日やっていられるくらい好き!」
「もしも、その料理をするなと両親に命令という名の束縛されたらどう思います?」
「え……生きてらんないから家を出ていく!」
「すでに発言そのものが悪女のような気もします……」
自分の好きなことを制限されるなんてとんでもない話だ。
なるほど、最後の一言を除き、アエルの言いたいことはわかった。
つまり、私もレインハルト様に束縛をしてしまって、やりたいことができない環境にしてしまえばいいわけだ。
「あの……、念のためにお伺いしますけれど、恋愛においてどんな束縛をすればいいのかはご存知でしょうか?」
「うん。今回は大丈夫! バッチリプランは浮かんだから」
「……ならよかったです」
アエルは心配そうな表情をしていた。
そりゃ今度こそ完璧な婚約破棄を告げられてしまうのだからな。
無理もないか。
「アエル、ありがとうね!」
「いえ。今度こそはご武運を」
このあと、アエルと小説でざまぁされた残念な経費節約をするキャラの話をしたり、日頃の雑談をしてから解散した。
今回も有意義な時間だったなぁ。
♢
さて、それではさっそくレインハルト様の束縛をする計画をしますか。
今回はその場で口頭で行動しなければならない。
失敗しては意味がないため、なにも知らないお父様相手に実験することにした。
「お父様! 仕事ばっかやってないでいい加減に休みましょう!」
私が突拍子もなくそう告げると、お父様は大きくためいきを吐いてから、その表情が怖くなってきた。
そして、私の目の前まで近づく。
「ばっかもーーん!! 私が仕事をしなければフランフール家は潰れるのだ! そんなことを言う暇があるならば少しは貴族としての嗜みをだな……」
「は……はひぃぃぃーー……」
そのあと、約一時間。
お父様の説教は続いた。
最後に、『だが、ありがとうな』とだけ言ってくれたが、きっと怒りすぎたことを反省して謝罪の意味もこめて言ってくれたに違いない。
私はいっぱい泣かされて大変な思いをした。
つまり、今回の予行練習は完璧なのである。
明日レインハルト様と会って束縛するのが楽しみだなぁ。
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