第7話【レインハルト視点】
『絶対上手くいきませんよね……』
『あぁ……そう思う』
俺は余計なことを言ってしまった気がした。
あのあと、ミリアナの様子が明らかにおかしかった。
俺がなにを言っても上の空だし、まるで人生の全てが終わったかのような魂の抜け殻のような状態だったのだ。
他にも心当たりがある。
俺は勘違いをしていたのかもしれないな。
「レインハルト様もシャーリャ様のことが大好きですよねっ♪」
ミリアナが楽しそうな表情で俺にそう訴えてきたんだ。
本来、婚約者相手にたとえ親戚であろうとも異性のことを評価するのはあまり良いことではないと聞いたことがあった。
だが、ミリアナは活発だし貴族界からは時折恐れられるくらいの存在でもある。
つまり、ここは俺も正直にハッキリ伝えた方がいいと思っていたからあんなことを言ってしまったんだ。
「あぁ、もちろんだ。少々正確に難があるがやはり子供の頃から面倒をみているとどうしても正しき道に導いてあげたくなってしまう。だが、俺には手に負えるような状況ではないほどのワガママでなんでも欲しがってしまう王女になってしまった。それでもやはり妹みたいな存在でもあってな、だから王女としてしっかりとした人間になれるように今度会ったときはビシッと言ってやりたいんだ。むろん、好きとは言っても親戚として、赤子の頃から面倒を見ていたから妹としてだがそう意味では……、シャーリャを支えたい」
俺がそう言ったあと、ミリアナは放心状態になってしまった。
王族のことをこれだけ詳しく話したのはミリアナが初めてだ。
おそらく、シャーリャのことを話してしまったからショックを受けてしまったのだろう。
だが、それは昔の話だと言えるくらいになんとかシャーリャを更生しないとだな。
いや、それだけではない。
そもそもが、こんな話をミリアナにするべきことではなかった。
咄嗟に『あぁ……、(俺の発言が)痛いな』と口ずさんでしまった。
その後だった。
「絶対上手くいきませんよね」
ミリアナがこんなにも弱気なことを言ってくるものだから、俺もつい自信なさげに言ってしまったのだ。
「あぁ……そう思う」
やはりこんな話をしたら、俺がシャーリャの更生なんて上手くいくわけがないと思われているのだろう。
その返事を即答で弱気でしてしまったものだから、ミリアナを幻滅させてしまったのだ。
俺はなんて弱気な男なのだろうか……と。
♢
翌日、ミリアナに昨日の弱気になってしまった件を謝罪しようと張り切って、彼女が到着するずっと前から庭園をうろついていた。
ミリアナが到着し、早速謝ろうとしたところ……。
「気にしていませんから、どうか謝らないでください」
こんなに情けない俺を許してくれるとでもいうのだろうか。
ここであーだこーだ弱音や言い訳を言えば更に怒らせてしまう可能性もある。
俺は、素直にミリアナに従うことにした。
果たして、婚約者として俺はしっかりとできているのだろうか。
ミリアナは俺のことをどう思ってくれているのかが時折不安になることがある。
彼女は気がついていないかもしれないが、破天荒な性格と大胆な行動は貴族界の男性陣には人気がある。
いや、女性陣からもファンがいると聞いたことがある。
だからこそ、俺はもっとミリアナにふさわしい男にならなければいけない。
そう考えていて、昨夜はほとんど寝れなかった。
だが、嬉しいことをミリアナが言ってくれたのだ。
「レインハルト様は一段とひどい顔ですね! え……と、ヤバすぎですよ」
(俺のことをしっかり観察してくれている!!)
会う前に、寝不足だとバレないように入念に下準備をして顔を洗ったり目の熊をごまかしたり……。
とにかく色々とやった。
それでもミリアナは俺のわずかな変化にも気がついてくれたのだ。
これは俺のことをしっかりと見てくれていたということで間違いない!
「ミリアナよ……」
「は、はい?」
「実はそのとおりなのだ。ありがとう」
「はぁぁぁいいい!?」
どうしてミリアナがこのあと、昨日のような魂の抜け落ちたような状況になっていたのかは最後までわからなかった。
俺はもっともっとミリアナのことを知っていく必要があるのかもしれない。
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