第2話 レインハルト様に好きな人がいたようだ

「すまん。遅くなってしまった」

「お仕事お疲れ様です」


 レインハルト様の息が上がっている。

 少し乱れてしまってはいるが、普段は滑らかなウェーブがかかっていて綺麗な金色の髪。

 私よりも顔一つ分くらいはありそうな高身長で、近づいたらいつも顔を上に向けないとその表情が見えない。

 国宝級の宝石が動いているかのような容姿を見るたびに思う。

 ただただ、かっこいいと。


「今日は良い顔をしていないな」

「はひ!? そんなことはありませんよう~」


 必死に誤魔化していたつもりでも、一瞬で見抜かれてしまった。

 やっぱり私のことをしっかり見てくださっているのだなという事故妄想によって、困惑していた顔はどっかへ消えてしまった。


「ふむ、元に戻ったか……」


 これだったらさっきの出来事も不安になることもなかったな。

 私は軽い気持ちでシャーリャ王女と挨拶し、少しだけ会話したことを報告した。

 もちろん、婚約をなくすようなことは喋っていない。


「そうか……シャーリャが来ていたのか。くそ……、もう少し早く仕事が終わっていれば……」

「は……はい?」


 普段だったらたわいもない会話で終わらせることができていた。

 だが、今の私は少し敏感に反応してしまう。


「まぁ今でなくとも良いか。ところで、シャーリャは元気にしていたか? ここ最近全く会いにきてくれないからな……」

「はい? はいいっ!?」

「前に話したことがあるだろう? 俺が小さいころ、お互いの両親が忙しくてな。シャーリャのお守りをしたり子育て奮闘記のようなことをしていたと」

「存じてますが……」


 レインハルト様がシャーリャ王女と仲が良いことは知っているし、今までだってそういう会話も何度かあった。

 本来ならば気にするようなことでもないのだが……。


「あ……いたいな」

「はぁぁぁぁぁい!?」


 私が大きめの声で叫んでしまうと、正気を取り戻したかのようにレインハルト様がハッとした。


「すまない。ミリアナの前でこのような話をするべきではなかったな」

「そうですね……。さすがに驚きました」


 シャーリャ王女が言っていたことも、満更嘘ではなかったのかもしれないと思わざるを得なくなってしまった。


「あの……、ひとつお伺いしてもよろしいですか?」

「あぁ」

「シャーリャ王女様はレインハルト様のことが大好きだと思います」

「知っている」


 もうダメかもしれないと思いはじめてしまった。

 私は、むしろ満面の笑みでなにげなく聞いた。


「レインハルト様もシャーリャ様のことが大好きですよねっ♪」

「…………? あぁ、もちろんだ。少々正確に難があるがやはり子供のこ──…………、だから王女としてしっかりと──…………、シャーリャを支えたい」


 それ以降、レインハルト様の言葉が私には届かなかった……。

 最後にシャーリャ王女を支えたいという言葉だけははっきりと聞こえてきたが。


「これでは私たち……」

 自信なさげの小声だったため、これ以降は勇気を出してしっかり聞くことにしようか……。

「絶対上手くいきませんよね……?」

「あぁ……そう思う」


 レインハルト様は即答でそう言ってきた。

 私と、レインハルト様との婚約が破綻するきっかけになった会話だった。

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