第10話


「月見里くーん。あがって良いよー!」


「はい!」


 大学の生活に慣れてきた俺は、バイトを始めた。週5でシフトを入れている。

 大学の講義が終わった後に、バイトをして家に帰る。それがルーティーンになっていた。


 そう。俺は朝奈から逃げるようにバイトを始めた。

 あれから何度も考えた。

 朝奈にとって何が正解なのか。

 でも、答えなんて見つからなくて、考えれば考えるほどに辛かった。


 だからバイトだった。

 忙しくて、考える暇なんてなくて、それが自分にとって一番楽だったから。


「お先に失礼します。お疲れさまでした!」


 ふらふらの身体で帰宅し、熱いシャワーで身体を流し寝るだけ。

 本当にこれで良いのだろうか。こんな喧嘩の様な別れ方で。

 思えば朝奈と喧嘩をしたことなんてほとんどなかった。思い出せるのは、あのクリスマスの夜くらいだろうか。


 ****


『ゆうくん! どこにいるのイルミネーション終わっちゃうよ?』


『ごめん、もう少しかかるかもしれない。でも急ぐから!』


 装飾されたツリー、眩しい位にライトアップされた町。肌寒いのに、外を出歩く人が溢れかえっている。今日はクリスマスイブだった。


「最近いつもそうじゃん。この前だって、お出かけしようって言ってたのにキャンセルになったし、今日だって待ち合わせしてたのに!」


 朝奈とはカップルの間で、人気のイルミネーションを見に行く約束をしていた。しかし、俺は彼女との待ち合わせ時間に遅れている。


「本当にごめん......」


「わたし楽しみにしてたのに......」


「朝奈ごめ──」


 ピーピーピーという音だけが耳に残る。朝奈に電話を切られてしまったようだ。

 彼女は今日を楽しみにしていたんだ。オレだって楽しみだった。

 なのに俺は──


「最低じゃないか......くそ!」


 喉を突き刺すような冷たい風を受けながら、聖夜の街中を全速力で駆け巡った。






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