第20話 ケチつけられた
「お前の身につけている手袋、魔道具だろう。俺がそれを身につければ圧勝なはずだ。それを俺によこしてもう一度やってもらう」
「こりない人ね……」
「やれやれ、呆れを通り越して何も言えん。ソフィアよ、彼の言うとおりにしてやるがよい」
周りのギャラリーも呆れているようだった。
ライムハルト殿下の言うとおりにしようか。
流石にここまでダルムに言われると、私の堪忍袋も破裂しますよ?
私は手袋を外し、それをダルムに渡し、彼はすぐに装着した。
その瞬間、ダルムの表情がニヤニヤしているので気持ち悪い。
おそらく勝てる自信というよりも、私が身につけていたものを手に取って喜んでいるのだと思う。
これは私だからとかではなく、女相手なら誰でも同じ表情になっているのだろう。
再びお互いにテーブルの上に手を乗せた。
「ではもう一度。レディー、ファイト」
「ぐぅうううううう!! な……なぜだ!?」
もう容赦はしない。
片手同士の対決だが、思いっきりダルムの腕をテーブルに叩きつけてやった。
──ドガジャーーーーーーーーン!!!!
「ぎぃややあああああ!!!!」
先ほどよりも激しい音と、ダルムの悲鳴がギルド内で響く。
周りからは拍手と大歓声が送られた。
「さすがソフィアさん! スカッとしました」
「もうこんなやつ相手に回復魔法かけなくていいっすよ」
「ソフィア様はこの街の誇りです!!」
大人気なかったかな。
だが、これでもう、ダルムが妙なケチをつけてくることはないだろう。
回復魔法をかけようかと思ったが、ライムハルト殿下に止められた。
「もうしばらくこのままにしておいた方が彼のためだ」
「え……でも」
「うぅあ……し……しにそう……たすけ……て」
もしも死んでしまったら、私は殺人犯になってしまうではないか。
流石に焦ってしまうが、ライムハルト殿下は落ち着いている。
「代わりにこれを与えよう。どんな怪我も数日かけて回復できる薬だ」
「いいのですか?」
「あぁ。先ほどソフィアの回復魔法を経験していた。この薬で回復させ、いかにソフィアの回復魔法が優れているかも身を持って経験するが良い。さすがに理解できるであろう」
言われるがまま、回復魔法はやめて代わりにライムハルト殿下が薬をダルムに飲ませた。
「ぐぅうう……苦しい……」
「君はソフィアの魔法が無能だと言って追放させたのだろう? 王都でも貴重価値も高く上位品の薬を其方に飲ませた。ソフィアの魔法はこの薬よりもはるかに優れていることをいい加減に理解したまえ……」
ライムハルト殿下が厳しくも優しく、ダルムに向かって声をかけていた。
ダルムも意識はあるのでしっかり聞いていただろう。
放っておけばいいのに、どうしてライムハルト殿下はここまで彼に教えようとしているのか私には判らなかった。
「さて、予定より遅くなってしまったが向かうか」
「はい」
ギルドのドアを開け、徒歩でダンジョンへと向かった。
♢
「ライムハルト殿下にお聞きしたいのですが、どうしてダルムにとって為になりそうなことをしてあげたのですか?」
「簡単なことだ。私は相手が誰であれ、冒険者を無駄死にさせたくないのだよ。彼がもし、あのまま己の力も理解できず自惚れ、危険なダンジョンに入れば生きては帰れまい」
「なるほど……」
「それに、ソフィアを甘くみている姿を見て腹立たしくなってしまったよ。この際、ギャフンと言わせた方が良いかと……」
個人的感情もあったのか。
このことに関しては、それだけ私のことを想ってくれていて嬉しかった。
「あの男と手を握っているところを見ていたことと、手袋を装着した際に彼がニヤけていたことには少々腹立たしかったがな」
「妬かないでくださいよ……」
「うむ。妬く以前に、まだソフィアと婚約しているわけではないからな。だが、このダンジョンできっと必ず……」
今度はライムハルト殿下が薄ら笑いを浮かべていた。
こちらに関しては、別に嫌な気分にはならない。
むしろ、嬉しかった。
このダンジョンに入って、最深層にたどり着く頃にはきっと恋仲になっているのだろうな……。
ライムハルト殿下がバッサバッサとモンスターを倒していく姿を見て、きっと私は惚れるのだろう。
期待しながら、ダンジョンへと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。