第18話 腕相撲を申し込まれた

 今の私なら、強化魔法をダルムにかけたとしても、私が勝てると思っている。

 腕相撲をやってみてもよかったが、ライムハルト殿下がいる手前、遠慮しておいた。


「すまぬソフィア、待たせたな。……そちらは?」


 ライムハルト殿下がやや小走りに戻ってきた。

 視線は私でなく、話をしていたダルムの方にギロリと向けている。


「紹介しておいた方が良いですね。こちらはダルム=ファイスレットさんで、元パーティーメンバーであり元婚約者です」

「あぁ、君がそうなのか」


 ライムハルト殿下の威圧が完全に消えた。

 あぁ、すでに相手をするまでもないと思っているのか……。

 少しばかり、ダルムに同情してしまった。


「ソフィアよ、この男は誰だ?」

「え……」


 ダルムがまぁまぁの声をあげて発言するものだから、私は言葉を失った。

 周りにいた冒険者達、受付のアーニャまでもが固まってしまう。

 先ほどライムハルト殿下のことをアーニャに紹介していたので、冒険者達も顔と名前が一致しているのだ。


「おっと、失礼。私はライムハルト=シャーゴッドと申す」

「──!?」


 ダルムが凍りつくように固まった。

 顔色も更に真っ青になっていく。


「ま……まさか。ここにいるということは、ソフィアは首になったわけじゃないというのか!?」

「ソフィアを捨てるわけなかろう。彼女ほど頼れるパートナーは探しても見つからないだろう」

「お……お言葉ですが、彼女と一緒に何か依頼をこなしたのですか?」

「いや、これからダンジョンに向かうところだ。最下層を目指す」


 ダルムは何を血迷ったのか、笑いはじめた。


「いやいや、超級冒険者ともあろうお方が見る目がないかと。ソフィアは私よりも実力は下ですよ? すぐにクビにした方が良かったと気がつくでしょう」


 冒険者相手に対してでも随分と失礼な発言だ。

 しかも、王族相手にこのような発言をしてしまうなど……、一体何を考えているんだ?

 だが、ライムハルト殿下は顔の表情を一切変えずに冷静だった。


「ファイスレット家は確か聞き覚えがある。君の父親は有能な冒険者だったはずだが……。どうやら遺伝しなかったようだな」

「殿下とはいえ、失礼ですよ」

「覚えておくがよい。ソフィアはずば抜けた魔力を持っている。しかも、この数日間で魔力、力共に更に強化された。君などとは次元が違う。力の違いもわからないような者が吠えるでない」

「く……ソフィア! やはり俺と腕相撲をしてもらう! ここまで言われて引き下がるわけにもいかない」


 超級冒険者のライムハルト殿下にこれだけ言われても、まだ気がつかないなんて……。

 仕方がないか。

 私は渋々受け入れることにした。

 ただし、手袋を身に付けてからだ。

 直接触れたくない……。

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