第10話 超級冒険者、ライムハルト
検問で身分証明書を見せてあっさりと王宮の入り口を通過した。
田舎育ちの私にとっては、王宮というとてつもなく大きな建物と、その周りの広場のような庭を見て感動していた。
シャーゴット王国の中で一番賑わっている王都、そしてその中央に位置する王宮。
私は今、国の中心部分となる名誉ある場所へ来ているんだ!!
時間があったら王都のギルドへも足を運んでみたい。
きっと、依頼の数もとてつもない数あるはずだし。
ライムハルト陛下とパーティーを組んだら、登録するときに行けるから楽しみだ。
期待を胸に馬車を降り、騎士の案内で王宮内に入る。
応接室のような部屋へ案内された。
「こちらでお待ちください」
さすが王宮だ。
応接室だけでも私の住んでいた家くらいの広さがある。
椅子に腰掛け、用意していただいた紅茶を飲みながら待つ。
そして……。
「待たせてすまない。私がライムハルト=シャーゴッドだ」
見た目は王服ではなく、どちらかというと騎士の格好だ。
腰には二本の剣を装備し、それを隠すように白のマントを覆っている。
マントからは魔力を感じるので、何か付与がついた防具のようだ。
すぐに立ち上がり、殿下の前で跪いた。
「お初にお目にかかります。ソフィア=エンブレムです。この度は、私のような者をパーティーメンバーに招待していただきありがとうございます」
「うむ、ひとまず一度座りたまえ。私はこう見えても堅苦しいのを好まなくてね。楽にしてくれたまえ」
「かしこまりました」
さすが超級冒険者だというだけのことはある。
挨拶している間、私はライムハルト殿下の隙を探したが、全く見つけられなかった。
誰にでも会話をしたり自然体でいるときは、どこかしらに隙が生まれる。
だが、殿下にはそれがない。
常にどんなときでも戦闘態勢でいるようだ。
再び腰掛け、殿下は正面に座る。
「ふむ……。噂通り、いや、それ以上の魔力を感じる……」
「……!? 魔力は常に外に漏れないように隠しているつもりでした。それでもわかるのですか?」
「あぁ。誰にでも体内に秘めたオーラというものがある。そこからソフィアの魔力が溢れているのを感じるのだ。ただ、ソフィアのステータスを予め確認させていただいているので、ズルしていると言われればそれまでだがな」
「いえ、ズルとは思いませんよ。本当に感じていただいてるのかと。殿下の隙のなさも驚かされました」
「ほう」
初対面だというのに、いきなり戦術や力の話ばかりしている。
しかも話していて、とても楽しい。
「ソフィアよ、率直に伝える。私と共にパーティーを組み、尚且つ婚約者として私のそばにいてくれぬか?」
「え? えぇ!? 婚約!?」
初めてお会いしてから一時間も経たずにプロポーズされてしまった……。
確か、このお方は自分よりも強い人間でないと結婚しないと聞いたことがある。
それよりも、出会って時間もろくに経過していない相手から、いきなり告白されること自体が疑問だった。
「殿下のようなお方にそのようなお言葉をいただき、大変光栄ではありますが、いきなり言われましても心の準備と私の気持ちも整理がついていません」
「無論わかっておる。その上で考えていただきたい」
「失礼ですが、理由をお伺いしてもよろしいですか?」
今から理由を考えるようでは、いくら殿下だとしても婚約したくない。
本当は誰でもいいんじゃないかと疑ってしまうくらいだ。
だが、思いの外殿下はすぐに答えてくれた。
「まずソフィアの魔力。間違いなく世界の中でも5本の指に……いや、世界一かもしれぬ。続いて初見での会話。戦闘や能力の会話を、初めてまともにできたのだ。このような相手は初めてで嬉しかった。その次にその容姿……。この部屋に入った瞬間、人目見て意識してしまったよ。まだあるが……」
「あ、ありがとうございます……」
物凄く考えているし、私のことを見てくださっていた……。
疑ってしまった自分を恥じる。
「私より強い者でないと婚約する気になれないと世間に流しているが、あれは嘘だ。そうでも言っておけば、縁談の申し込みを諦めてくれるだろうと思い、そのようなことを言って広めていたのだ。私は自ら選び、共に冒険者として活動していけそうな者と幸せになりたいと思っていた」
ライムハルト殿下のような超級冒険者より強い者なんて、貴族界でも王族の中にもいるわけがない。
冒険者をやっていなくてもそれくらいのことは理解できるだろう。
殿下がそう言っていれば、縁談の話もそうそう来るはずもない。
「私は超級冒険者の資格があるのでな、各冒険者のステータスを拝見する権利を持っているので見てきた。その中でもソフィアがダントツで魔力が特化していた。だから一度お会いしてみたい、ずっとそう思っていたのだ」
「お気持ち大変嬉しく思います。私も、共に冒険者として活動できる相手と結ばれたいと思っていました」
「本当か!?」
ライムハルト殿下は、期待に満ちたような表情をしている。
だが、私はいくら相手の地位が格上の存在でも、易々と受け入れるわけにはいかなかったのだ。
「はい。ですが、婚約の件は少しお時間をいただけませんか? 望まぬ縁談だったとはいえ、一度は過去に婚約していた身。今度はしっかりと考えた上で返事をしたいのです」
「うむ、承知した。むしろ、そこまで考えてくれて嬉しい。冒険者パーティーの方も時間が必要か?」
「いえ、そちらは是非お願いいたします。殿下の強さはお会いした瞬間によくわかりましたので」
一見矛盾しているように思うが、ここにきた目的は冒険者パーティーに加入するかどうかだ。
何様のつもりかと思われてもおかしくはないと覚悟していたが、ライムハルト殿下の表情は穏やかだ。
怒っているような気配も全く感じられなかった。
「感謝する。それではこれよりギルドに出向き、正式に共通のパーティーになる登録をしようかと思うのだが構わぬか?」
「はい。よろしくお願いいたします」
この日、私は超級冒険者のパーティーに加入した。
噂は一気に広まり、王都ではいきなり有名人になってしまった。
遠い故郷の村にもそのことがすぐに伝わったらしい。
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