第8話【ダルム視点】全員調子が悪すぎる
相変わらずマインは手伝ってくれないので俺1人で戦っている。
かなりの攻防を繰り返し、ようやく1体の小型ゴブリンを退治することができた。
報酬でモンスターはコインへと変化した。
これをギルドに持っていけば……パン1個くらい買えるお金に交換してくれるかな。
こんなに苦戦したのは初めてだった。
これだけ働いたんだから、パン10個分はいただけないと割に合わないんだよなぁ。
「きゃーーーーー!! ダルム! こっち側にも小型ゴブリンが現れたわ! なんとかしてーーー!」
マインの悲鳴が聞こえた。
俺はすでに息が上がっているのでもう戦いたくないんだ。
「すまん、休憩しないと動けないからマインが戦ってくれ! これくらい相手ならマインなら倒せるだろ?」
「うぅ……ミーン! しっかり後方支援しなさいよね!」
「任せてお姉ちゃん!」
マインの動きがぎこちない……。
彼女の戦いっぷりはほぼ初めて見るが、なんというか、俺より弱くね!?
マインってもっと強いはずだと聞いていたんだけど。
小型ゴブリンの持っている棍棒のような武器がマインの身体に直撃してしまった。
「ぎゃーーーっ! 骨が折れたーーー!! もう動けないーーーっ!!」
「お姉ちゃん!!」
「マイン!!」
ミーンの魔力が手から輝き、それがマインの身体を包む。
回復させているところを確認して、すぐに俺が戦闘に参戦した。
疲れているとはいえ、深傷を負ったマインよりは俺の方が動けるからな。
本気の本気で戦って、なんとか小型ゴブリンを討伐できた。
だが、俺はかなりのダメージを負うことになった。
マインの怪我はミーンの魔法で回復できているだろうし、このまま奥へと進むか……。いや……。
「お姉ちゃん? 治らないの?」
「まだ痛い……。ちょっとこのままじゃ進めない」
「おかしいなぁ。私の魔法も調子が悪いのかなぁ~」
まさかミーンまで調子が悪いとは。
命には変えられないだろう。
「仕方がない。一旦地上へと戻ろう」
「「えぇ……」」
ミーンがマインを支え、俺は自力で歩くのが精一杯だった。
くそう……。
いくら調子が悪いとはいえ、どうして第5層程度でこんなに大苦戦してありえないくらいの深傷を負うことになってしまうんだ……。
♢
帰り道、1人の冒険者とすれ違った。
持っていた薬草を分けてくれたので、俺とマインの深傷はある程度回復して、1人で歩けるくらいにはなった。
なんという優しい冒険者なんだ。
こいつらを助けるためにも、俺は警告をした。
「ありがとう、助かったよ。アンタも気をつけた方がいい、ここのダンジョンのモンスターは異様に強い奴らが多い!」
「え……そんなことはないと思いますけど」
「嘘じゃないんだ! 5層の小型ゴブリンが調子が悪すぎる俺と互角だったんだよ!」
必死に説明するが、冒険者たちはなぜか呆れているように見えた。
「確かあなたダルムさんでしたよね? 今日はソフィアさんは一緒じゃないんですか?」
まさか俺ってこの街のギルドで有名人だったのか!?
少し機嫌が良くなってしまった。
「俺ってそんな顔広かったっけ? そうだけど、ソフィアはもうここにはいないよ。パーティーから離脱してもらったんだ」
「え!?」
冒険者はやたらと驚いていたようだが、やがてクスクスと笑い始めた。
「ついに捨てられちゃったんですね……心中御察し致します。ソフィアさん無き状態では、暫く探索は4層までにして無理をしない方がいいですよ」
「な!?」
「じゃあ僕たちは先を急ぎますのでこれで。お大事に」
俺の忠告は無視され、スタスタと奥へと進んでしまった。
一体なんだったんだあいつ……。
まるでソフィアのことを高く評価しているような口ぶりだったな。
「でも良かったね~。ダルムったらギルドでは有名人みたいだし」
ミーンが俺にしがみ付きながら喜んでくれている。
「そう? 私の怪我を治してくれたことには感謝するけど、なんかアイツ嫌な感じだったわ……。まるでダルムのことを舐めている感じだったし、私たちのことなんてガン無視だったじゃない」
「あぁ、俺もそう思ったよ。でもさ、しっかりと忠告したんだし、これでダンジョンの奥へ進んで自爆しても文句は言えないから」
「ふふ……まるであの人は死んでしまうような口振りね」
「当たり前じゃん。俺たちがこんなに苦戦したダンジョンだぞ? あんな男1人で生き残れるわけないだろ」
薬草を分けてくれたことには感謝する。
だが、忠告を無視して進んでいってしまうようなヤツを止める必要はないだろう。
ご愁傷様と心の中で思いつつ、俺たちは地上へ向けて引き返した。
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