イクスプローオンライン―海の漢に憧れたテイマー―

凍鳥 月花

プロローグ

第1話 ゲーム紹介

「ここがエットタウン。始まりの街か」


 筋骨隆々とした男の目の前には大きく綺麗な噴水がある。日の光が水飛沫に当たりキラキラと輝いている。まるで男の気持ちを表しているようだ。足元は石畳で建物の雰囲気とマッチしている。ファンタジー系ゲームの味を引き立てている。


 男の周りには、同じようにログインしたてのプレイヤーで溢れかえっていた。皆、よく似た農民服を着ている。現状はインナーだけの状態。腰にはインベントリーの役割をする革製のポーチ。ここから取り入れしてもいいが、基本自動で出入りする。


 今は正式サービス開始時刻から数分すぎた時間だ。

 長期休日の最初の日に開始するあたり、運営はよくわかっている。


 このご時世、VRゲームをするのには、銀行口座と健康保険証が紐付けされているマイナンバーカードの登録が必須だ。健康診断は一年に一回更新しなければならない。フルダイブが日常的に普及され、今まで以上に健康などに注意しないといけなくなった。お金を引き下ろすにも、指紋はもちろん、脳波や脳の電気信号、静脈や虹彩といった認証が必要になっている。

 最初のロット数は一万人。二週間後には更に一万人が追加される。


「攻略組を目指します! パーティーお願いします」

「一緒に街を周りませんか!?」

「誰かフィールドに行きませんかー!!」


 パーティープレイはMMOならでは。パーティーメンバーは最大六人。


「少し街を見て周るか。ちょうどここが街の中心だし」


 ゲームらしくプレイヤーの視界の左上にはプレイヤー名、HPとMP、さらには満腹度が表示され、右上はゲーム内外両方の時刻が、右下には東西南北が記載されたミニマップが示されている。


 男の名前はボイル。ハードボイルドが由来だ。


 この中心から東以外は、大通りが各門まで一直線に続いている。門までかなり距離があるが、ちゃんと見えるのは門が通常より大きいからだ。まさにゲームらしい立地。南の大通りは屋台が多く活気がある。西の遠方には、自然豊かな山岳が窺える。


 自身や装備のステータスは見える。ただ、敵のステータスは見えない。見えるのはHPバーくらいだ。

 プレイヤーはキャラクター制作時にセット可能な一二個のスキルを選ぶ。戦闘に関する武器スキルと、防具を着るためのスキルは必須だ。実質好きに選べるのは一〇個となる。


 これ以降はスキルレベルを上げたときにもらえるSPスキルポイントを消費して新スキルの取得や既存スキルを成長させる。初期段階では、ポイントを消費しないで自動的に上がるものが多い。


 セットされていないスキルは控えになる。スキルの付け替えは戦闘時以外どこでもできる。

 また、スキルの組み合わせを登録し、状況に応じて即座に組み合わせを変更できるマイスキルセット機能もある。


 レベル上げは、各スキルに沿った言動をするだけ。武器スキルはその武器を使いモンスターを倒す。生産系なら製作することで上がる。


「どこもかしこも人でいっぱいだな。それにしても、NPCはマーカーがないと見分けつかないな。流石最新のゲーム! AIも凄いもんだ」


 千差万別ありとあらゆるスキルの中からボイルが選んだ初期スキルは、【槌業Lv.1】【下級金属防具Lv.1】【下級槌の心得Lv.1】【下級槌の攻撃強化Lv.1】【打撃強化業Lv.1】【下級酒造Lv.1】【下級採取Lv.1】【下級漁獲Lv.1】【下級採掘Lv.1】【水泳業Lv.1】【夜目業Lv.1】【育成業Lv.1】だ。


 槌はモーションも大きいが攻撃力も高い。剣系よりかは求められるプレイヤースキルは低い。

 剣先で視線誘導や関節、鎧や鱗の隙間を狙っての攻撃は何気に難しい。その辺、槌は何も考えず振り回しても威力は高い。


 心得は、それに関した行動の補助だ。命中率や成長ボーナス、扱い方が上手くなる。強化は字の如く。指定効果範囲が狭いほど効果が高い。


 金属鎧は戦闘中の移動速度が遅くなるが、優れた防御力がある。それは皮や布系にはない長所だ。現実では重く蒸れてサウナ状態だが、そういう不快感はゲーム故ない。

 それに武器や防具は、攻略が進めば進むほど性能が高くなる。


 スキル以外の武器や防具も装備できるが、効果はない。故にダメージを与えられず、防御力も皆無となる。安全な街中で、世界観を楽しむために、防具や服装を変えるのもいいだろう。


 【採取】は陸生の、【漁獲】は水生のアイテムを取るのに必須なスキル。ボイルの趣味である釣りも、このスキルに統合されている。また鉱石系を取るには【採掘】が必要になる。素潜りには【水泳】が必要。


 ボイルは見えづらい水中を、より見やすくするため【夜目】を取ったが、夜の森でも見やすくなる。

 そしてそれらのアイテムで酒を造る。ボイルは酒好きでもある。


 食事や酒を気にしだした年頃。暴飲暴食もリアルに比べれば、ゲーム内は影響が少ない。

 若いころは夜通し飲んでも二日酔いしない体質だったが、老いには敵わない。それ故に、ボイルにとって酒が楽しめなくなるのは他人よりも辛い。


 世の中、好きなだけ食べ飲みするだけのVRソフトもあるが、現実の味と比べると数段落ちる。ボイルはこれが合わなかった。飲んでも食べても違和感だらけで、一向に楽しめなかったのだ。


「よしっ! いい感じに食べ物屋もあるし、NPCたちも普通に食べているな。これならファンタジー食材で酒飯しゅはん道楽ができるぞっ!!」


 ゲーム内で飲むならロマンを感じられる食材で、一から自らの手で酒造する。

 これがボイルの指標一つだ。


 そして【育成】はモンスターテイムを可能にする。テイム後はパーティーメンバーにすることもできる。

 またホームに生産施設があり、それに一致する生産スキルを持つモンスターはアイテム加工もできる。初期のテイム枠は三体。【育成】をカンストさせても、テイム枠は最大で一二体まで。


 テイムモンスターがパーティーにいる場合は、部屋やテント内でしかログアウトできない。

 テイム方法はモンスターを弱らせたり、アイテムをあげて仲良くなったり戦闘以外の強さを示したりと色々だ。その上で契約可能になれば、そのモンスターに応じた魔石を使って、初めてテイムできる。魔石は、モンスタードロップの魔石の欠片を一〇個集め魔石作成で可能だ。どの生産スキルでも初期から覚えているアーツだ。


 魔石のランクは欠片の平均ランクで決まる。強いモンスターほど高ランクの魔石が必要になる。


 低ランクから育てると、テイム時や進化時にスキルを選べることもある。モンスターが進化し、ランクが上昇しても新しい魔石は必要ない。契約魔石も同時にランクアップするからだ。

 最初から強い個体はスキルを選択する余地がなく、育成の楽しみがない。それは強いモンスターになればなるほど顕著にあらわれる。


「そろそろギルドの場所を確認して、アレを聞かないとな」


 ここまで聞くと優遇されているスキルと思うが、そうは問屋が卸さない。

 テイムモンスターはプレイヤーと比べると、三割にステータスが抑えられる。そのためか、他のプレイヤーとパーティーは組みづらい。テイムモンスターを入れるなら、普通に他のプレイヤーを入れる。またテイム後は種族に応じて必要なアイテムがある。これは食べ物だったり剣や防具などの装備品だったりと色々だ。人に例えるなら、これは食事だったり風呂だったりする。これを疎かにすると、好感度が下がり指示を聞かなくなる。最悪テイム解除にもなる。


 同種は三体までしかテイムできない。自発的でも能動的でもテイム解除となれば、それ以降同属のモンスターとは契約できない。簡単に説明すると、同時にスライム三体とハイスライム三体はテイム可能。解除後はスライム属がテイム不可となるため、どちらとも契約できない。

 運営曰く、弱い個体を捨てるような厳選ガチャはやめてほしいとのこと。


 一体のテイムモンスターが死んだ場合、プレイヤーペナルティーの五分の一がテイム主に付与される。要するに、テイムモンスター五体のフルパがプレイヤー含め全滅すれば、デスペナルティーはプレイヤー二人分になるということだ。また、テイムモンスターにも五分の一のペナルティーを受ける。


 デスペナルティーは、一時的なステータスの減少だ。復帰位置は直前に訪れたセーフティーエリア内のポータルになる。


 ハード一個にアカウント一つ。キャラクターも一つだ。マイナンバーで管理されているため、ハードを変えても意味がない。個人の善悪はゲームに関わる限り付きまとう。


「ここがギルド館か。それにしてもデカい」

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