火神と愚かな贄
月見 夕
火神顕現
宵闇に煌々と燃え盛る炎の中で、それは脈動した。
川縁で護摩を囲んでいた僧たちは一様に色めき立ち、汗を流して再び手を合わせ一心に祈る。不浄を焼き尽くすその紅蓮の炎に己の煩悩を投じ、また死者への弔いの言葉を紡ぐ。
やはり
火神の元に届くように。
いま一歩、僧たちが火に向かい足を踏み出したその時。
一抱えの子供ほどであった炎は陽光のような眩い光を放ち、周囲の僧たちを呑み込んだ。
金色の炎は一瞬にして護摩木を、僧たちを悲鳴も残さず灰に変える。彼らは望み通り苦しみも煩悩もない無の世界へ旅立った。
炎は
生まれたばかりのそれは自問した。
――我は何者だ。
虚空に投げかけられた問いに、答える者はいない。
僧たちが火神と崇めたその火の化身は、後に人々の間で仏教の守護神であり
今しがた喰った僧たちの祈りと煩悩だけが、腹の内に渦巻いていた。知っているのはそれだけだった。次第にそれらへの渇望が湧き起こる。
――我は何者だ。
答えを求めるように、光の鳥は大空へと舞い上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます