第5話 つんどく速報ライター☆イマガワです。

 ざっくり言うと


・トンデモ系SF小説

・『愛憎系の昼ドラ』と『月刊ムー』が好きな人向け

・蛭子能収の不条理マンガを彷彿とさせる


 大学で考古学を専攻する直人は、ひょんなことからテレビに露出する島崎敬子と顔見知りになる。


 弱みを握った筒井と直人は敬子に近づき、秘密をばらされたくなければ『1度だけ、オレ達と関係を結べ』、強引に迫った。


 SMクラブに連れていかれ、後ろ手に縛られた敬子は、撮影された写真を元に、ゆすられ……。


 フィアンセを裏切っている自分に自己嫌悪する敬子は、伊豆の恋人岬に身を投げてしまう。


 敬子から何もかも遺書で知らされた友人、高橋真理子は、心に復讐の炎を燃やす。   

 宇宙人あり。考古学の話あり。

 SFチックで、ちょっぴりエログロな物語です。


 本書のKindleストアにおける内容紹介が、この物語の全容です。あれ以上でもなければ以下でもない。冒頭から結末まで━━小説の内容を過不足なく説明している、良い『梗概』です。


 と、いうわけで。著者みずから販売ページにおいて堂々とネタバレしているので、制約を気にせずに作品レビューを書きたいと思います。


 対象読者:『月刊ムー』が好きな人


 「驚きついでに教えてあげるけど、ここにブルース・リーが住んでいるのよ」

(中略)

 

 彼は死んだことになっているが、実はアメリカ軍部のたっての要望で拉致され、ここで献体(サンプル)として、生活しているのだという。軍内部では有名な事実らしく、知らない者はいないとのことだった。


 アルティメットの拳闘場で、55キロの部で、月に一度、デスマッチを行っているのだという。


 何の為って?

「それは、最強の遺伝子を後世に残すためよ」

             『皆殺しの歌~200万で戸籍を売った男』から引用


 米国アリゾナ州にあるダルシー基地の地下研究所における、会話の一部です。

 遺伝子操作の研究がおこなわれている秘密基地内を案内しているのは、高橋真理子。2032年の未来からやってきた若い女性です。


 3519年の地球滅亡を阻止するため、真理子は現代日本にやってきました。未来人でありがなら、なぜかスパイも兼ねています。


 案内を受けているのは、河合直人。三十代の男性です。じつは犯罪者であり……数年前、ある女性を自殺に追いやったことがあります。この野郎が『200万で戸籍を売った男』です。


 敬子という悲劇の女

 自殺した女性━━島崎敬子と、直人はおなじ大学に通っていました。出会いは、考古学教授・鷲尾修三の講義です。


 のちに。

 敬子は、鷲尾教授の息子である鷲尾達也と婚約します。


 しかし……敬子は誰にも言えない秘密を抱えていました。長きにわたって、実兄と肉体関係を交わしていたのです。


 ヒカルと敬子━━実の兄と妹は、深く愛し合っていました。

 一方で、敬子は婚約者である達也のこともおなじくらい愛していました。


 婚約者がありながら、実兄とシティホテルで密会する日々。

 そんな爛れた関係を偶然に目撃した人物がいます。


 2人がかりで敬子をもてあそぶ

 実兄と実妹による禁断の━━密会現場を目撃した者。


 それは、筒井というバイセクシャルの男性です。(元は異性愛者だったが、同性愛者の皆さんに性的暴行を受けて以来、両刀使いになった)


 バイセクシャル筒井は、敬子の同級生である河合直人とは友人関係にありました。目撃話を聞きつけた直人は、敬子を脅迫します。バイセクシャル筒井と共謀して、肉体関係を強要するのです。


 媚薬や性具でさいなまれ続けた敬子は、恥辱にまみれながら悦楽の沼へ沈んでいきます。


 さらに、要求は肉体だけに留まらず━━数百万円~1千万の恐喝へとエスカレートしていきました。


 もしも、敬子がカネを用意できなければ「風呂に沈める」とまで脅迫されます。

 溺死させるという意味ではありません。


 台東区千束4丁目あたりの特殊なお風呂屋さんが集まっている街で性的労働に勤しんでもらうよ、という意味です。


 バイセクシャル筒井による金銭要求に加えて、敬子は妊娠の兆候を感じていました。


 筒井や直人たちから何度も精を放たれていたので、それは実兄や婚約者の子であるはずもなく。絶望した彼女は……悩み苦しんだ果てに、みずから命を絶つのです。


 悪人の末路

 敬子が自殺したあと。バイセクシャル筒井は多額の借金がもとで、フィリピンの臓器マーケットに売られていきます。くわしくは本編を読めばわかりますが、酷い最期を迎えています。


 筒井が東南アジア方面で失踪したあと。亡き敬子の無念を晴らすため━━未来人&スパイである真理子は、親友の仇(かたき)である直人にハニートラップを仕掛けて、アメリカの遺伝子研究所へ訪れるように仕向けます。直人を、非人道的な遺伝子実験の検体に仕立てあげるためです。


 そもそも、真理子に復讐を依頼したのは、鷲尾教授です。

亡き敬子の婚約者だった達也の父、大学における恩師でもあります。


 鷲尾教授は考古学の権威であり、石板の解読によって『3519年に地球が滅亡する』ことを察知した人物です。その分析力を買われて、レビュー冒頭にも登場したアリゾナの遺伝子研究所に所属しています。


 じつは、鷲尾教授は━━息子の婚約者である(自殺した)敬子のことがちょっとだけ好きでした。暴行犯である筒井のことを、決して許すつもりはない。こうして、非人道的な遺伝子研究を活用した恐るべき復讐譚が幕を開けるのです。


 感想

 で、結局どんな話なんだ?……と詰め寄られても困りますが。

 とにかく、登場人物たちが複雑に関わりあいながらも絶妙なバランスを保っているので、トンデモ&猥雑な内容の割には、楽しめる作品に仕上がっています。


 本書『皆殺しの歌~200万で戸籍を売った男』を、ひとくちに例えるならば……。


 メロドラマ、特に東海テレビ制作の昼ドラ(愛の嵐・真珠夫人・牡丹と薔薇……等)に顕著な『俗情と劣情をかきたてる』展開━━それに加えて、蛭子能収の不条理漫画に月刊ムーの要素を付け足したような、そんな感じの小説です。


 率直に言ってメチャクチャな話ですが、個人的には嫌いじゃない。

 けっして、お愛想ではありません。なぜなら、当ブログにおいて、数々のトンデモ系の作品をご紹介しているからです。


 本書『皆殺しの歌~200万で戸籍を売った男』のようなクセのある世界観や独自理論によって構築されているフィクションは、凡庸なやりとりを描いた作品よりもよっぽど目を通す甲斐があります。


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