第36話告白する俺の思い ① (水希と龍星)
いよいよ龍星の登場です!!!
ようやくこの場面を書けたことに少しばかり嬉しさを覚えつつ執筆させて頂きました。
ここから数話を読んで、龍星の心情の変化を少しでも感じていただければ嬉しく思います。
では、本編をお楽しみください!!!
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(龍星視点)
紗理奈が勢いよく部屋から飛び出して行ったあと携帯にひとつのメッセージが届く。
『電話をするけど、一言も声を出さないで静かに聞いててね。』
それは紛れもなく妹からだった。
最初はどういう意味か分からないでいたが、少しするとメッセージ通りに電話がかかってきた。
大人しく言う通りに耳を傾け聞くことに集中していたら、電話の先で彼女、水希の声がするのがわかった。
そこからは俺は胸を抉られるような気持ちで彼女の話に耳を傾けていた。
(俺が眠っている間に、水希にこんなにも辛く苦しいことがあったなんて…………)
この瞬間、俺自身が誰かに同情に近い感情を抱いていることに驚気を隠せずにいた。
これまでは誰かが苦しそうにしていたとしても、慰めや労るような言葉を掛けようとも本心からではなかったのだ。
にもかかわらず、水希に対して抱くこの感情に名前をつけようと思うとわからなくなるのだ。
(これは…………同情なのか、それとも……別のものなのか。)
確かに胸にあるのは、彼女に、水希に悲しい思いをして欲しくない、泣いて欲しくないと言う思いだけだった。
(あぁ…………そうか、これが……)
まだ、あやふやで確かなものなんて無いかもしれない。それでも目を覚ましてからこれまで苦しい時、しんどくてどうにかなりそうな時、誰よりも俺のそばにいて支えてくれたのは水希だった。
その瞬間、俺の中の気持ちが自然と整理されていくように感じた。
ーー彼女が、これまでやっていたことが自己満足でも罪滅ぼしだと自分を責めるのなら、俺が全て変えてやる。ーー
そして、紗理奈が俺と電話で繋いでいると水希にばらしたのを聞き、水希に精一杯、優しく、そして最大限の覚悟を持ち、
『もちろん聞いていたよ。
それで水希、2人だけで話がしたい。』
と、告げたのだった。
ーーーーーーー
(水希視点)
私は今、龍星くんを乗せた車椅子を押しながら、近所にある公園に向かって歩いていた。
周りには、ポツポツと立った街灯と月の光が私たちを照らしていた。
龍星が聞いていた、と紗理奈ちゃんに言われ、彼からお話したいと言われたけど、中々勇気が出ずに、気がつけばあたりは真っ暗になっていた。
そして、やっとの思いで決心をして龍星くんに連絡をする。
こんなにも遅い時間になっても、龍星くんは一言も文句などを言わずにただ一言
『ありがとう』
と、だけ送られてきた。
自宅から車椅子を押して出てきた龍星くんの後ろに立ち、黙って押す。
彼も最初はびっくりしたみたいだけど、すぐに私のなすがままにしてくれる。
そこから今まで一言も話さない。いや、私からは何も言う資格すらないのだ。
なんたって、彼を騙し続けたのだから。
(もし、彼が私を拒絶するのならあまんじて受け入れよう。)
これが、ずっと考えた結果だった。
たとえ今までのように傍にいてもいいと言われたとしても、潔く私は居なくなろう、とも。
そんな事を考えていると、龍星くんが
「ここでいいよ。」
と言われ車椅子を押すのをやめる。
止まった場所は本当に街頭すらなく、街の真ん中にある公園のはずなのに、そんなことを忘れるくらい星と月の輝きが美しい場所だった。
「水希」
反射的にビクッと身体を震わす。
これまで幾度となく聞いていた私を呼ぶ彼の声。
それが、今はどこか怖い。
「…………はい。」
すると、彼は車椅子を反転させて私の方に顔を向けながら
「水希、わかっていると思うけど紗理奈に話していたことは全部俺も聞いていた。」
「…………はい。龍星くんを騙すような形で…………恩を仇で返すようなマネをして本当に申し訳ありませんでした。」
それは、私の嘘偽りのない本心から出た言葉だった。彼を今の状態してしまったのは私だ。そんな私が今、息をして、会話をして、そして泣けるのは紛れもなく龍星くんのおかげだ。
そんな彼に私はただの自己満足で近づき罪滅ぼしのつもりで彼のそばにいたのだから。
(どんな罵詈雑言を浴びせられても受け止めよう。彼の憂さ晴らしができるのなら、私はどんなことでも受け止めよう。)
そんな考えが頭を過ぎる。
だが、月光に照らされる龍星くんの表情はいつもみたいに優しく、もしかしたらいつも以上に、これまで見た事もないほどの優しさを含む表情で、
「俺は正直、水希の話を聞いてて胸が張り裂けそうになるくらい悲しかった。」
「……そうですよね。本当に本当に……私はなんてことを…………。申し訳あり……」
そんな水希の言葉を遮るように、いや言わせないようにするために
「多分水希が思ってるのとは違うよ。」
「…………え。」
困惑する水希を宥めるかのように龍星は続ける。
「俺がこんなにも悲しくなったのは君が俺の事でこんなにも罪悪感を抱き、自分のこれまでの行いを全部、自己満足として片付けているからだよ。」
「……!!」
彼の言葉を聞いた瞬間、先程から流れる涙が堰を切ったようにとめどなく流れる。
「俺が義足を使ってもう一度立つって決めた時のこと、水希は覚えている?」
「……ぁい。」
私は言葉にならない口を必死に動かし、何度も頷く。
(忘れるわけない、あんなにも絶望の暗闇の中で、一欠片の光を手にして、もう一度頑張ると決めた強い強い彼の選択を。)
「あの時1番に支えると言ってくれたことも誰よりも気を遣いしてくれた献身的なサポートも全部、君の自己満足だったの?」
「……………が……ぅ。」
「毎日毎日、苦しいリハビリの時にかけてくれた言葉の一つ一つも罪滅ぼしでかけたものだったの?」
「…………ち…………ぅ。」
「俺や紗理奈、他のみんなと楽しく過ごしていた思い出がすべて、君の自己満足の罪滅ぼしの行いでしかなかったの?」
「……ち……がうよ」
「ようやく、君の本当の言葉が聞けたよ。」
そう言い、龍星は左手を優しく彼女の頬に伸ばす。水希もそれに気づいて、腰を下げて地面に膝をつける。
「水希がこれまでやってきた全てが自己満足なものじゃないのは俺が知ってる。」
「………………ぅん。」
「その友人が水希に何を言ったなんか関係ないよ。君の人を思う優しさを俺は知ってる」
「…………うん。」
「だから、大丈夫。君が僕や紗理奈に頭を下げる必要なんてないんだよ。」
「……………………ありがとうございます。」
「いいんだよ。俺の前で泣いても。
これからはそんなこと気にしなくていいから。」
そう言うと、水希の体を龍星がめいいっぱい抱きしめる。
それから、私の涙が枯れるまで彼は優しく包み込むようにしながら時折背中を摩ってくれた。
「……もう大丈夫です。」
私は恥ずかしさのあまり、龍星くんの顔を直視できずにいた。
そんな私を見て、龍星くんも微笑みながらも
「水希、今度は俺の話を少し聞いてもらってもいいかな?」
それは、少しの躊躇いと大きな覚悟を含んだ一言だった。
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いかがでしたか?
作者は書いてる途中、龍星ってこんなに変わったのか……と思わず考えてしまいました。
そして、水希の優しさに心打たれる……
まあまあそんな感じで連載させていただきましたが、ここからふたりの関係がどのように変化していくのか…………。
そんなところもぜひ、お楽しみ下されば幸いであります。
このお話が面白い!!続きが気になる!!と思ってくださった方は、フォロー、応援、コメント、☆☆☆などなどよろしくお願いします!!!
それでは、次回お楽しみに!!
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