第4話私が助けられて、彼が目を覚ますまで(2)

私はその日から、毎日龍星さんの病室を訪れることにしました。



事故の翌日、1人で初めて彼の病室に行くと、


妹の紗理奈さんがベッドの横で彼の手を握りながら、とても小さな、でもどこか力強い意志を持った声で、、


「にぃになら大丈夫だよ。絶対に戻ってくれるよね。私、まだにぃにといっぱいしたいことあるんだよ。だから...起きて」


と彼に語りかけていました。


彼女が私の存在に気づくや否や、顔をしかめて

「何をしにきたの!この悪魔!

あんたのせいで………………にぃにが……

私は絶対にあなたを許さないから!!」


それは、兄を傷つけられた妹として当然の反応でした。


だから、私はただただ

「......何も弁明の余地はありません。ただ、私が助かったのは、お兄さんのおかげです。それに対して、私は心より感謝をしています。」


と深く深く、車椅子姿の私は頭を下げながら紗理奈さんに伝えた。


この時の私は必死に泣くことを我慢していた。私よりもよっぽど想像できない程の痛みや苦しみを味わっているのは彼とその家族なのだから。


すると、紗理奈さんは涙目で、それまでの口調を変えるように、

「………………にぃには優しいから。

多分、あなたがホームから落ちた時、誰よりも真っ先に飛び出したんだよ。名前すら知らないあなたを助けるために、、、、。」


私は黙って頷くことしか出来なかった。

「ーーー」



「…………もし、にぃにが起きてたら、なんでもないように笑って、あなたの感謝を受け取ると思う。」



「ーーー」


「でも、私たち家族は違うの。

あなたが助かって、にぃにが怪我をすることに何も感じないほど薄情じゃないの。」


それは、兄を本気で想っている妹の心の叫びだった。


だからこそ、私はそれに応えないといけないと思い、

「......今の私にご家族の皆様に謝罪する資格はありません。ですが、きっと彼が目を覚ました時に、改めて、謝罪と感謝を伝えるために、龍星さんに救っていただいたこの命を今度は彼と彼のご家族のために使っていくつもりです。」



それは、彼の状態を医者から聞いた時からずっと決めていたことだ。


ーーーその決意を私の両親に話すと、最初は驚いていたが、私の真剣さが伝わったのか、最後には了承してくれた。ーーー



その言葉に、紗理奈さんは、


「…………その言葉忘れないでね。

にぃにのために今は信じてあげる。

でも、たとえ事故であなたに非はなくても、私はあなたを許さないから。」



「その言葉を頂くだけで十分です。

もとより、許されることだとは思っていません。これからの私を見ていてください。」



その後、お見舞いに来た彼の父と母にも同様に話した。


すると、父の健さんは

「君の覚悟はわかった。では今後の行動を見て、俺は君のその謝罪と感謝を受け取るかどうかを決めさせてもらう。」



と言い、横で静かに聞いていた、母の由里子さんは


「申し訳ないけど、私は妹の紗理奈と同じ気持ちであなたを許すことは多分できません。

でも、それと同じくらい......」


そう言うと、私を抱きしめて、

「…………りゅうせいが助けたあなたが無事でよかった。その命をこれからも大切にしてちょうだい。」



と優しく私にそう語りかけた。


その言葉に、私は目尻に涙をためて、

「......はい。必ずこの救っていただいた命を大切にして生きていきます。」



そう、彼の母、父そして自分に対して決意した。




ーーーーーーー


それから、私は毎日、龍星さんの病室を訪れながら、自分が出来ることを毎日しました。


彼が起きることを懸命に祈りながら、、、



その影響で、出席日数が足りず、高校は1度留年してしまったのは秘密です、、、。



そして、事故からちょうど3年経った今日

あなたが目を覚ましたのです。



あなたが目を覚ました時、私は心から嬉しさが溢れ出すとともに、自分の中にあった強烈な罪悪感が少し薄れるような感覚が私を襲いました。



妹の紗理奈さんが言ったように、目覚めた彼は最大限に私に気を遣いながら、なんでもないように、私の感謝を受け取り、謝罪はいらないと言ってしまう。



あなたの心優しい性格と、誰にも心配をかけさせまいとする姿勢に…………


私がここで、彼を独りにしてはいけない、

なぜか私はそう思った。



ーーーーーー



私の話を彼は最後まで静かに聞いていた。


「そうだったのか…………。

あの日からもう3年か。だいぶみんなに迷惑をかけていたみたいだな。みんな、わるかったな!俺が寝ている間心配かけて、」


そう、彼は自分のことよりも他人を優先で考えてしまう。


私は彼の言葉を聞き、そう感じた。

すると、父の健さんが、

「親が子を心配するのは当たり前だ、バカ野郎が。なに、こっちに謝ってんだ!

俺たちは龍星が戻ってくれただけで、満足なんだよ。」


と、どこか先程の涙を堪えながらもそう言う。


続くように、母の由里子さんと妹の紗理奈さんも彼に対して、労いの言葉をかけて言った。



そんな雰囲気の中、私は事故のあの日から彼に伝えたかった言葉を改めて言う。


「龍星さん、あの事故の日私の命を救っていただき、本当にありがとうございます。


そして、この救ってもらった命を私はあなたのために使いたい。これからのあなたが背負う困難を私にも背負わせてください。」



「「「「ーーーー。」」」」


4人とも呆然としていた。


すると、紗理奈が頬を赤く染めて、

「えぇー!? 水希さん、今にぃにに告白したのー!!?」


私は、その言葉に顔を真っ赤に染めて、


「…………はい。私の全てをかけて龍星さんを支えたいと思って……。」


健さんは、よくやった!と叫び、由里子さんはキャーっと歓喜の声を上げ、紗理奈さんはやられたというよな表情を浮かべていた。


だが、その言葉に一番驚いていたのは他でもない、龍星本人だった。


「えっーー!?俺にそんなことしてもらう義理はないよ。せっかく助かったのなら自分の好きに使ってくれ。」


とその言葉に、私は満面の笑みをこめて、

「はい、そのつもりです。これが今の私がやりたいことなんです!」


と言うと、彼も頬が赤くなり、


「.....後悔するよ?俺といるの。」


「大丈夫です。あなたの隣にいることさえ出来れば私はとても幸せなんですから。」



「......わかったよ。よろしく頼む。」



こうして、私たちは恋人となったのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いかがでしたか?



とりあえずこれで『2人の出会い』は終わりです。

次回から『これからの目標』に移らせていただきます。

ここまで読んで頂きありがとうございます!


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では次回、お楽しみください。

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