パチンコと慟哭

kinoko489

読み終わった後もう一度動画を見てください

「いい加減にしてよ!!なんであなたはいつもそうなの!?」


「うるっさいなぁ!別にどうだっていいじゃないかそんなこと!こっちは毎日仕事に行ってお前の分まで稼いできてるんだぞ!」


「・・・っ!!だいたい・・!」


「もういい!」


「ちょっと!どこ行くつもりよ!?」


「どこだっていいだろうが!」


   ────────────────


また、やってしまった

俺は外に出て扉を閉め、そう後悔する

俺とあいつは結婚して3年。もう浮ついた気持ちもすっかりなくなり、夫婦喧嘩も増えてきた

その原因はいつも些細なことだが、どうしてもぶつかってしまう


また、やっちゃった

私はあの人が閉めた扉の前で座り込む

あの人を思う気持ちは、結婚したあの日からずっと変わっていない

本当は仲良くしたいのに、どうしても強く当たってしまう


   ─────────────────────


しばらく歩くと、俺はいつもの場所にたどり着いた

そう、パチンコ店だ

パチンコはいつも俺の心を癒してくれる

騒々しい店内の空気と、勝った時の爽快感は、代えがたいものだ

俺は店に入り、いつもの台でパチンコを打つ

うん、今日も絶好調だ


   ────────────────


私は決めた

今日の晩御飯は、あの人の好きなものを作ってあげよう

そして仲直りをして、また楽しい日々を過ごそう


   ────────────────


しばらく歩くと私はいつもの場所にたどり着いた

そう、近所のスーパーだ

時代遅れのポップスが流れる店内で、あの人の好きなものを思い浮かべながら商品をかごに入れていく

どこか安心感を覚える店内で、あの人のためを思ってする買い物は楽しいものだ

うん、幸せだな


  ────────────────


俺がパチンコ店に入ってそれなりの時間が過ぎた

今のところ勝っているのでそろそろやめ時かな

そう、思っていた

「~♪」

腿に響く振動と聞きなれた着信音

うるさい店内で、なぜかその音は耳に強く響いた

着信画面には友人の名前があった

俺は訝しみながら応答ボタンを押す


「もしもし?」

「もしもし!?おいお前今どこにいるんだよ!お前の奥さんが、奥さんが…………車にはねられて、亡くなったって……」


友人の絞り出すように吐き出した言葉に、俺はそれが冗談の類ではないことを知る

俺は通話を切り、半ば転びながら店から駆け出る

騒がしい店内から静かな街道に出て、人は変わらず歩き、世界は回り続けていることを知り

そして俺は気が付いた

俺はあいつを、彼女を!!


愛していた


浮ついた気持ちは無くなったのではない

穏やかな愛情に変わっていただけだったのだ

なのに俺は、俺は!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パチンコと慟哭 kinoko489 @kinoko489

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る