パンと弾丸とダンジョンと

カジカガエル

《第一部》ようこそ東京大迷宮へ

Ꮚ・ω・Ꮚメー(1:ようこそ東京大迷宮へ)

 メェ (ようこそ東京大迷宮へ)

 メエェ(我々はプランタ・タルタリカ・バロメッツ)

 メメェ(君のチュートリアルを担当するナビゲートモンスターだ)


 東京大迷宮にやってきた私を迎えたのは三匹の空飛ぶ羊でした。

 もこもこした綿の身体に、ぬいぐるみのような顔と巻き角。四本の短い足を生やし、ふわふわと宙に浮かんでいます。

 直径でいうと三〇センチくらい。

 身体の色は一匹ずつ違って、白、黒、灰色の三色。

 プランタ・タルタリカ・バロメッツ。

 木綿の存在が広く知られていない頃のヨーロッパの人間が「綿が取れる植物」の話を聞いて想像した伝説の植物をモチーフにしたモンスター。

 見た目は羊ですが正体は木綿なので植物系。

 冒険者の間ではバロメッツとだけ呼ばれているそうです。


 メェ (まず意思確認からはじめよう)

 メエェ(君は冒険者を志す者だろうか?)

 メメェ(違うのならそのまま引き返したまえ)


 音として聞き取れるのはメーだけなのですが、なにを言っているのかわかりました。

 東京大迷宮のナビゲートモンスターの声は一種の暗号になっていて、対話したい相手にだけ意味が伝わるそうです。


「冒険者を志望します」


 メェ (了解した。新たな挑戦者の来訪を心より歓迎する)

 メエェ(末永い活躍を願う)

 メメェ(では早速ホームエリアに案内しよう)


 ここは東京大迷宮池袋エリア地下第一層。

 アンデッド災害以前の駅を利用したゲートの階段を下りてすぐの場所となります。

 最初の階段を下りたところでダンジョンに入ったことになり、初回はバロメッツのようなチュートリアル担当モンスターが現れますが、駅の改札を抜け、探索エリアに入るまでは攻撃的なモンスターなどは出てこないセーフティーエリアになっているそうです。

 東京大迷宮の出入り口は全部で千以上あるのですが、関東最大の要塞都市大宮との交通の便から東京大迷宮の玄関口といえば池袋がメジャーで、その門前町にあたる池袋地上市街の復興も進んでいます。

 この地下第一層も賑やかで、生産・流通クラス保持者が営む冒険者向けの商店などが軒を連ねています。

 ダンジョンと言うより、冒険者の行き交う地下街と言った雰囲気です。


 メェ (ホームエリアは冒険の準備をしたり、休息を取ったりするためのスペースだ。初期状態では冒険者ひとりにつき二〇平米の部屋を提供している)

 メエェ(設備や規模はPPを支払うことで拡張できる。まずは入ってみよう)

 メメェ(ところで、インターネットなどの扱いには慣れているだろうか?)


「あまり得意ではありません」


 触ったことはありますが。


 メー (では思考式オペレーションで行こう。我々に向かってホームエリアに移動と指示してくれたまえ、念じるだけでいい)


言われたとおりに念じてみると、地下街の風景が白く塗りつぶされるようにかき消え、兵舎の一室のような構造の窓のない部屋に置き換わりました。

 シンプルなベッド、デスクに小さなキッチン、バストイレなどが用意されているようです。


 メェ (ここが君のホームエリアだ)

 メエェ(自室代わりや倉庫、工房として使うことができる)

 メメェ(さっそく冒険者登録をはじめよう。掛けたまえ)


 指示通り、デスクとひとそろいになった椅子に腰を下ろします。


 メェ (まず冒険者名を教えて欲しい)

 メエェ(本名でも仮名でも構わない)

 メメェ(発音困難なものや公序良俗に反するものは避けて欲しい)


「カタカナでソルとしたいのですが、大丈夫でしょうか」


 このあたりは事前に決めてきました。

 登録の必要は無いそうですが、年齢は一五、性別は女性です。


 メー (問題ない)

 メエェ(冒険者名ソルで冒険者登録を行って良いか?)

 メメェ(イエスオアノー)


「イエスで」


 メェ (了解した。それでは冒険者名ソルで登録を進めていこう)

 メエェ(次はステータス画面を確認してみよう)

 メメェ(ステータスオープンと念じてみたまえ)


「ステータスオープン」


 発音は必要ないようですが、声を出して念じてみると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がりました。


 冒険者名 :ソル

 PP    :100,000

 バイタル :グリーン

 メンタル :グリーン

 ステータス異常:

 アンデッド因子感染症(潜伏型/余命30日)


 ステータス異常の項目が目に入ったようです。

 バロメッツたちはびっくりした様子で綿の体を膨らませました。


 メメメメ!?(余命ヨメーが!?)

 メェッ!(無ぇメーっ!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る