第13話 人間とレアの民族

「ポン!」


「お、なんだぁ、エデンちゃん。それだとタンヤオかい?」


「とりあえず上がらないとだめだし」


 一つのテーブルの周りに四人の男女。男女とはいっても、エデン以外は中年の男であったが。


(とりあえず、一九牌は未だ安全でしょ。とりあえず、オーラスでビリ、でも親なのが私なんだから、何としてもここは上がらなきゃ)


 エデンが自身の思いに従って、九萬を出した時であった。

 隣から「ロン」と力強い声とにやにやした笑みを浮かべる眼鏡をかけた中年の男がいた。


「ざんねーん。七対子っす」


「な……鳴きもせず、や、やりやがってぇ」


「この状況の七対子は普通鳴かないっしょお、エデンちゃん」


 そのまま男に金を持っていかれ、最終的にはエデンがビリとなってしまった。

 負けるとイライラしてくるが、トータルで見れば、とんとんだろう。エデンはそう言い聞かせ、自身を落ち着かせる。


「エデンちゃんさぁ、今度、もっと稼げるギャンブルやらない?」


 ギャンブルと言う言葉に彼女は弱かった。

 

「ど、どんなのです?」


「コロシアムっていうんだけど。いやぁ、最近、すごい女の子いるって聞いてね。スタスついに危うしよ」


 眼鏡の中年のその一言を聞いた彼女はうつむくと、席を立った。


「あ、ちょっと用事思い出しまして。ここで帰りますね」


 何か呼びかける男の声が聞こえたが、そのまま彼女は振り返ることなく、雀荘を去ってしまった。

 そして、その足がだんだん速くなっていき、家についてからもどんどんと足音を立てたまま、部屋に戻ってきた。


 部屋ではレイアが掃除をしており。


「あ、お帰りなさい」


「ただいまっ!」


 ぼんと音を立てて、ベッドに飛び込んだ。


「あー腹立つ」


「どうしたんですか?」


 顔色をうかがうレイアに、エデンはまた不機嫌そうにつぶやく。


「……人前じゃないんだから敬語はやめてよ」


「あ、すいま。ごめんなさい」


 まったく、と言いかけたエデンにレイアは顔をしかめる。

 結局のところ、この関係においてもレアの民族と人間に差があるのは変わらない。


「コロシアムなんて誘われたんだよ。まったく」


 エデンの言葉にレイアは口を滑らせた。


「コロシアムか……行かないの? ただでギャンブルなんてよくない?」


 レイアの声にエデンはあからさまに表情を悪くする。


「何言っているのさ? あんな人の常識を疑うギャンブルだよ!?」


 声を荒げたエデンにレイアは視線を落とした。それでも彼女は言葉を続ける。


「なんで、エデンは私とも対等に話すの? レアの民族とも。私たちはただの奴隷じゃないの?」


 その言葉にエデンは体を震えさせていた。


「それは……ちょっとお風呂入ってくる」


 エデンが扉を開けて出ていく音が聞こえて数十秒。静かになった部屋で、レイアはひとり、ため息をついた。

 自分はずるい。人間とレアの民族差なんて、自分たちが生まれるずっと前からのことなのに。まるでそれをエデンに押し付けるようなことを。


 エデンはほかの人間たちと違い、レアの民族を奴隷扱いしない。それはきっと、彼女が優しい人間だから。

 それを分かっていたとしてもレイアには不安になっていることがあった。それは自分が重荷になっているのではないかと言う疑問。


 禁止級ダンジョンボスについてもそう。エデンの家は金持ちだ。彼女の両親は人間軍の軍部で活動しているとも聞き、忙しく帰宅はなかなかしない。エデンは一人っ子。彼らはポジションとしても非常に優れているらしく、この今、レアとエデンがいる家自体、豪邸と呼べる代物であった。


 だからこそ、ただのエゴにはなるが、レイアはエデンに命がけの仕事をしてほしくはなかった。財力もあり、将来も期待されている。そんな彼女に。


「私が絶対にあの人のこと救うから」

 

 ある日、エデンがレイアに言ったことが思い出される。

 そんな思い出に、ため息をつくと、彼女はゴミもないのに掃除をしていた。




「セリナに手紙が来てたよー」


フレイが呼びかける返事に対し、セリナは「わかったから、部屋の前に置いといて」と言葉を残す。ここ一週間の彼女はずっとその調子であった。

以前にも研究で部屋にこもり気味になることはあったが、今回は事情が違うだろう。

フレイがティタン変身していたのがバレてしまったのだから。


フレイの咄嗟の判断によって、セリナは無事であった。

だが、帰路ではお互いに言葉を交わすことはできず、戻ってからはこの様だ。


 今みたいにフレイの言葉へ返答することはあっても、セリナの側から話しかけてくることはなかった。彼女がそうする理由はわかりきっている。フレイを疑っているのだ。


 あの日に読んだ古代文明の文献。あれが正しいのなら、ティタンはになる条件は二種 類。

 ひとつは、契約を結ぶ方法。フレイとテミスはこれだ。

 もうひとつは、死体に取り付いて操る方法。おそらく、他のティタンたちはこれだろう。


 セリナとは長い付き合いであるため、ちゃんと話せば自分がまぎれもなくフレイ本人であることは理解してもらえるはずだろう。

 それをしなかったのは、セリナを守るためだ。

 事情を知ってしまったら、彼女にも命の危険が及ぶかもしれない。


 だからあえてフレイは触れなかった。


「まぁ、仕方ないか」


 ベッドに寝そべりながら、腕輪を眺めていると、すぐ横に気配があり、そこにはテミスが立っていた。


「ほ、本当にごめんなさい……」


「別に気にしなくていいよ。僕が決めたことだからさ」


 契約を受け入れたのは自分自身。誰も傷つけたくないから自分が傷つく決心をしたのである。


「それよりも今はアスラのことだよ。他の元アスラパーティのメンバーに関してもそう。この前の巨人同士の戦いもおかしい話だし」


 天候を操る巨人と水を操る巨人の出現。レイアとエデンにそう聞いていたが、自身以外にティタンがいることに驚いたのと同時に、元パーティが全滅した可能性があることに彼は焦燥感を駆られていた。


(あの時、自分が何としても彼らを止めるべきだった)


 そんな後悔は巡ってやまない。

 だが、アスラに話を聞くことはできていなかった。

 聞きづらいというのが第一ではあった。彼らはフレイにとって敵になるかもしれない存在。しかも巨人同士で戦っていたということからもティタン内で派閥があるのではと考えてしまう。フレイは確実に敵だと確信していた。


 余計に踏み込んだ質問は難しくなり、フレイはため息をついた。


 

 

 そんな彼の声を隣の壁から耳をつけてセリナは聞いていた。


(やっぱり何かと話しているの?)


 話しているということは彼は契約を受け入れたということ……?勝手に自己完結しようとし、彼女は首を横に振った。


(そうとは限らない。彼が死体にされて、無理やり独り言を)


 いや、まさか。彼があの巨人として活躍しているとは考えたくなかった。誰からも報酬をもらえることなく、誰と協力するわけでもなく、たった一人で戦う彼を考えたくはなかった。


 正義感は素晴らしく聞こえるが、その実、報酬を求めなければただの自己犠牲である、そんな感情を抱き、セリナは脳内がパンクしそうになった。

 とりあえず、と彼女は思い、扉を開ける。そこには一通の封筒があった。

 封筒を開くと、地図のようなものと数枚の写真が添えられている。それはどれも兵器の写真のようであった。文字数が最も多くなっている便箋を見て彼女は目を見開く。


「人間軍に招待……?」



【あいさつ文】

 お世話になっております。やまだしんじです。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。よろしければ、作品のフォローや↓の☆☆☆を★★★にする、または感想や応援レビューなどをしてくださると大変うれしいです。執筆のモチベーションにもつながります。

 これからもよろしくお願いいたします。

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