第6話 フレイの姉


 フレイには姉、メムロが存在していた。


 メムロはフレイがいじめられていれば、すぐに駆け付けてくれた。

 彼女もハーフにもかかわらず、いつでも強気であり、腕っぷしも半端なく強かった。

 

 そんな彼女の口癖はこうだった。


「怖くなった時にはいつでもお姉ちゃんがやってくるから」


 フレイにとってありがたかった。

 だが、いつでも、は長く続かなかった。数年後、彼女は人間によって、ダンジョンに送り込まれた。ダンジョン内では優秀な成績を収め、フレイの家庭は経済面でも優遇されるようになった。


 メムロのその言葉はフレイを支えてくれていた。

 だが、いつでも、は長く続かなかった。

 数年後、彼女はその腕を買われ、人間たちによってダンジョンに送り込まれる。ダンジョン内では優秀な成績を収め、フレイの家庭は経済面でも優遇されるようになった。


 あまりの強さにダンジョンを一人で攻略しているという連絡まで入ってきた。

 

 フレイにとって彼女は英雄だった。

 自分もそうなりたいと憧れた。彼女がそばにいない今、フレイはいじめをどうやって乗り越えるか考えた。


 そして、彼が思いついたのは、予言することであった。

 予想し、何もかもを先回りする。状況を考え。そんなことをしているうちに彼はいじめを受ける機会さえなくなった。


 メムロの脅しもあったのかもしれないが、もう目を付けられることもなくなった。

 この能力で今まで彼は活動できていた。


 そんな生活が三年ほど続いたとき、彼は攻略ギルドにスカウトされた。

 もう何もかもを予想できる、予言できる、そんな風に思っていた。


 そんな最中の出来事だった。


 事件が起きる。


 メムロが行方不明となった。


 フレイはそんな記憶をたどると、いつの間にか着いていたのは、人間街の共同墓地であった。

 姉がいなくなった記憶をたどっていたフレイ。いつの間にか着いていたのは、人間街の共同墓地であった。


 進んでいくと端の方に花の置かれた墓地があった。

 それはセリナの両親のものであった。

 

 自分が守った場所。

 そう思うと、吐き気が増してくる。


 予言を身に着けてからと言うもの、予言できないもの、ありえないもの、予想もつかないことが恐ろしく感じてしまっていた。


 自分の変身した巨大な美女、そして禁止級ダンジョンボス。

 怖い。恐ろしい。

 そんな感情が巡る中で、話しかけてくる声があった。


「フ、フレイくん……怖いなら、私を外せばいいとおもうよ」


 テミスの声であった。

 フレイは彼女の言う通りだと感じていた。怖いのなら、恐ろしいのなら、外せばいい。ただ、この腕輪を外す決心がつかなかった。そして結局繰り返しのように呟いていた。


「外さない。外れないで……」


 言葉だけの決意で何もすることはできなかった。

 そんな中でフレイの背中をノックするものがいた。


「よ」


 その声の主はギルドマスターのヒノであった。先ほど会ったばかりの彼は申し訳なさそうに唇の端をきっと締めていた。そして、彼はうつむきながらパクパクと口を動かし始め、ぼそぼそと呟いた。


「ごめんな、さっきは」


「別にいいですよ。僕が度胸無しなのは確かですから」

 

彼の顔をフレイがちらりと見ると、深刻そうな顔でうつむいているのがわかった。

 何かを言いたげであり、パクパクと口を動かしている。


 その様子にただならぬ雰囲気を感じ、フレイは聞いた。


「なにかあったんですか?」


「あ、いや、何でもない。そ、それよりもだ。考えといてくれないか? あのパーティに入ること。彼女たちはかわいそうでさ。パーティは基本的に何人でもいいんだが、1人や2人でダンジョンボスを攻略できるわけがないだろ?」


「それは……」


 ダンジョンボスがどれほどの相手か、何度も戦ったことのあるフレイにはわかっている。

 だが、簡単には頷けない。そんな自分が情けなく感じてしまう。

 結局、自身のやっていることは姉の真似事で。追い付けず。戦えない。


「まぁ、君の姉メムロさんは別次元なのはわかる」


「え」


 考えが読まれたようでフレイはハッとした。だが、彼の立場を考えれば、なんとなくそれも分かり、目を細めた。


「俺が彼女の担当医だったころ、メムロさんが禁止級ダンジョンボスに一人で挑んで次々に撃破していたのを目の前で見ていた」


 ヒノは元々、カテゴリー3として姉の担当医となって活躍したとフレイは聞いていた。そして、二人で冒険し、ボスを撃破していたということも聞いていたが。彼から聞くと、より信憑性が増してくる。


 姉は明らかにあのような禁止級とは戦えるような装備ではないのに。


「僕は……戦える力があるのに……」


 右腕にはめられたままの無機質な腕輪を気にしていないふりをして、フレイはそのまま墓から逃げ出すようにして駆けていった。


「お、おい!」


 ギルドマスターから慌てたような声が聞こえたが、振り返ることはしなかった。

 

  *   *


 フレイがいなくなり、彼を追ってギルドマスターも消え、残された黒髪のグラマラスの少女エデンと金髪の細身の少女レイアは会話し始めた。


「いなくなったな」


「……はい。もう、誰も戦おうとは思わないのかもしれませんね」


「だったら、私たちだけでやる?」


 エデンはレイアの弱気な声に平然と返した。

 

「でも。まだ、この活動して三年ですよ……?」


 レイアの声にエデンは口調を強めた。


「じゃあ、奴隷に戻るの?」


 その言葉にレイアは震えながら、首を横に振った。


「でしょ? だったらやるしかないよ」


 エデンはつぶやく。その顔には決意が込められていた。きっと目を細める。

 彼女にレイアは微笑んでいた。


「ま、まぁ、大丈夫ですよね。フレイさんがだめでも、あの人がいますし」


 彼女がそうつぶやいたとき、ふと地響きが起きた。そして、甲高い鳴き声が響き渡った。その甲高い声は異常な大きさであり、街中に響き渡る。

  地響きによってこのギルドにあるものが次々と落ちていく。


「何が起きた?」


 エデンがギルドの外へと出ていくと、遠くの方に蛇の首があふれ出していた。あふれ出すという言い方なのはその蛇が次々に巻き起こる水柱のように存在していたのである。

 それが、甲高い声を上げ、移動しているのである。

 土煙をあげていることから、地中から現れたことがうかがえた。


「来た」


「禁止級ダンジョンボス、ヒュドラですね」


 レイアの声にエデンはにやりと笑う。


「今度は私たちが狩ってやる」


 彼女たちが上に来ていた民族衣装を脱ぎ去ると、下に出てきたのは鎧であった。

 この鎧は前に狩られたピュートーンと呼ばれている大蛇の怪物の皮膚から作られたものである。これを身に着けることでたいていのダンジョンボスによる攻撃は防ぐことができた。


 受付にエデンは向かい、エデンとレイアの民族衣装を職員に渡し、声をかけた。


「あれ、よろしく」


 職員は彼女の心が読めるかのように白く輝く矢、そして巨大な弓を持ってきた。また、職員二人がかりで白く巨大な盾を持ってきていた。

 これらはちょうど一週間前にちょうど狩られたキメラの牙から削り出されたものであった。


 すべての武器はダンジョンの恩恵で成り立っている。

 強敵を制し、その素材をもとにして作られた装備をもって、新たな強敵へ立ち向かう。

それがギルドに所属してダンジョンに挑む者たちの教えであり、知恵であった。


 エデンは弓と矢を受け取り、レイアは彼女の身長以上あるその盾を軽々と持ち上げる。


「さ、行こうか」


 ギルドハウスを出たエデンとレイアは駆け出していく。



【あいさつ文】

 お世話になっております。やまだしんじです。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。よろしければ、作品のフォローや↓の☆☆☆を★★★にする、または感想や応援レビューなどをしてくださると大変うれしいです。執筆のモチベーションにもつながります。

 これからもよろしくお願いいたします。


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