第28話 夏休みはVRゲームとともに
ボードゲーム部の部室にて、
今、僕は何故か日陰さんに問い詰められている。悲しそうな表情の葵さんとブチギレてる日陰さん。
「見損なったっスよ朱神さん!!まさか浮気だなんて!!!」
「え~……っと、なんの事でしょうか?」
あまりの剣幕にたじろぐ僕だが、一切心当たりがない。浮気なんてしてない。我が心と行動に一点の曇り無し、全てが正義だ。それだけは誓って言える。
「とぼけるんじゃあねーっスよ!!ならこの前の休日に町で夜海さんと一緒にいたのはなんなんスか!!寝言言いたいなら寝かしつけてやるっスよ!!!」
ヤバい……怒りのあまり日陰さんが某リーゼントのスタンド使いみたいになってる……
それにしてもこの前の休日に夜海さんと一緒にいた?もしかしてアレの事か……
「実は……」
僕は事情の説明を試みる。
以下回想
「レッチリ君……、新型のフルダイブ機器のモニターに興味ない?」
篝さんが○ックでハンバーガーを食べながら僕にそう提案してきた。
篝さんの親の会社、夜海コーポレーションは日本のフルダイブ技術研究においてトップの企業だ。
篝さんも親から頼まれてモニターとかするらしいけど、こういうテストはなるべく人数が多い方が良いから僕とその知り合い数人にモニターをしてほしいみたい。
バイト代も出るらしいから僕はボードゲーム部のみんなを篝さんに推薦した。
回想 終
「という事なんです。誤解させてしまい申し訳ありませんでした……」
事情を説明し終えた僕は日陰さんと葵さんに頭を下げた。
誤解は解けたようだが部室は違う意味の沈黙に包まれた。それまで騒動を傍観していた御影さんや烏丸先輩達までも。
「とりあえず、夏休みの期間中にボードゲーム部のみんなで最新フルダイブ機器のモニターのバイトをしたいなと思いまして……ハイ……」
事後承諾にはなるが、僕は本題に入る。
「いや~、ナハハ。夜海コーポレーションからのバイト依頼ってスゲーっスね。私は朱神さん
を信じてましたっスよ……」
「嘘だ!!!!!!!」
僕は全力でツッコむ。
日陰さん明らかに目が泳いでるし!!白々しいにも程があるよ!!!
「でかした、朱神コウ」
御影さんが鷹揚にそう言った。
「浮気じゃなかったんだ……良かった……」
心底安心した様子の葵さん。心配かけてしまったが、信じてもらえたようで何より。
今年の夏休みはVRゲーム三昧になりそうだ。
その後、ついに待ちに待った夏休み。
僕達ボードゲーム部の面々は電車で反傘町から少し離れた夜海コーポレーション本社ヘと向かっていた。新型VR機器のモニターの為に。
5泊6日の予定で宿泊先のホテルまで手配してもらって実質的にはちょっとした旅行だ。
「ようこそ~。この度は5泊6日ゲーム三昧の旅に参加いただきアリガト~!!」
夜海コーポレーション本社前でテンション高く僕達を迎えるガイド役の篝さん。いや、篝火さんだ。
正直、葵さんと顔を合わせた時はかなりヒヤヒヤしたが(実際、篝さんの失恋の原因は葵さんだから)篝さんはガイド役を完全にもう一人の人格である篝火さんに任せて自分からは葵さんに関わらない事にしたようだ。
正直、めっちゃ便利そうで羨ましい。
僕も古代エジプトで作られたピラミッド型パズルとか手に入れてもう一人の人格とか欲しいかも……
「(闇のゲームの始まりだぜ!!)」
心の中でなんとなくそうつぶやいてみる。
うん、僕のキャラじゃないね。むしろ篝さんの方が似合いそうだ。
そんな事を考えていた時、夜海コーポレーション本社ビルから一人のがっしりした体格でスーツの男性が出て来て僕達の前で立ち止まる。
「蒼春学園ボードゲーム部の皆さんですね?」
男性は穏やかな態度で僕達にそう尋ねる。
「はい。あなたは夜海コーポレーション社長の
御影さんが外面を完璧に取り繕って挨拶をした。この人、性格悪いけど外面は良いからね。
「ご丁寧にどうも。篝の父です。……おや、おやおやおや……今は篝ではなくて篝火の方ですね?篝はこんなに社交的ではありませんから」
図星を突かれて篝さんが赤面する。僕以外の全員が困惑した。
「失礼、篝は二重人格でして。篝火は篝の理想とする社交的で明るい自分の側面が別人格として表に出た状態です。篝はどうも篝火に面倒な事を押し付け気味でして……まあそんなところも可愛らしいのですが……」
親馬鹿を発揮しつつ篝さんの事情を説明する漁火社長。
なんだろう、普通なら娘の事をよく理解していて立派な親なんだろうけどこの人はなんか怖い。
常に冷静な態度と穏やかな口調が合わさってなんか、ボン○ルド卿みたいな感じ……
「お父さんは黙ってて!!」
「おやおや、照れているんですか。篝は可愛いですね」
赤面しながら親馬鹿全開の漁火社長をなんとか黙らせようとする篝さん。しかし逆効果のようで漁火社長は少しも動じていない。
「話が反れましたね……では親馬鹿は程々にしておいて、どうぞこちらへ」
さっきまで僕達の存在を忘れていたらしい漁火社長は膨れっ面の篝さんと一緒に本社ビルの中に僕達を案内する。
エントランスホールを通り抜けてエレベーターに乗り、5階のフルダイブ機器が用意してある部屋に入った。
「ではあとはそこにあるソフトをご自由に。体験後はアンケートに記入をおねがいします」
それだけ言うと、漁火社長は部屋を出た。
で、そのソフトはと言うと……
幽幻百夜オンライン(和風ファンタジー系VRMMO。徹底的に和風にこだわり日本文化や時代考証の解像度が高い為、海外でも一定のファンがいる)やクロムエッジ&バレット(僕も遊んでるSF系VRMMO)、究極のマゾゲーと名高いグリード・オンライン、剣と魔法の王道ファンタジーのロストレガシーテイルズとか色々。
たぶん篝さんは全部遊んだんだろうな。容易に想像できる。そして、これから5日間これら全てを好きなだけ遊べる。
さあ、どれを遊ぼうか?
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