第20話 加賀美ナル編 下

ある日の放課後、部室に向かう道中、加賀美ナルと廊下で出くわした。

加賀美ナルは缶のコーヒーを手に持っていてスマホを見ながら歩いている。すれ違う瞬間、加賀美ナルが顔を上げる。目があった。

次の瞬間、加賀美ナルが何かに躓いたのか、僕の方に倒れかかってきた。ホットの缶だったらしく、左腕に熱いコーヒーを浴びる。


「熱ッ!?」


「大丈夫?火傷したかもしれないからすぐ保健室に行こ?ナルが連れて行ってあげる」


加賀美ナルは僕の腕を強引に引っ張り、そのまま保健室に連れてきた。

保健室には運悪く、誰もいない。もしかしなくてもこれはまずいのでは?

加賀美ナルが僕を保健室のベッドに連れ込む。


「……僕は葵さんの彼氏だ。君には興味ない」


僕ははっきりと拒絶の意思を伝える。


「状況がわかってないみたいだけど、ここでナルが「助けて!!襲われる!」って叫んだらどうなると思う?大丈夫。村雨にはできないような事、いっぱいシてあげるから……」


加賀美ナルはそう言って僕をベッドに押し倒そうとする。

そっちがその気なら……

僕は制服のシャツに手をかけて、ボタンごと引き千切る。ズボンのベルトも緩める。そして、


「助けてー!!!襲われるー!!!」


僕は全力で叫んだ。それにより加賀美ナルが怯んだ隙に叫びながら逃げた。

その後僕は駆けつけてきた教師に事情を説明する。この状況ではどう見ても僕が被害者。加賀美ナルは言い訳も虚しく生徒指導室に。


「いや~、お見事。あの状況で流されないどころか逆に加賀美ナルの企みを利用するとは……見直したッス。流石葵さんの彼氏っス」


離れて様子見していた日陰さんが近づいてきた。


「次はこちらの計画に協力してほしいんスけど……」


日陰さんに連れられ、僕は新聞部へ。

日陰さんが調べた加賀美ナルの男性関係と今回の事件に被害者A(僕)の独占インタビューを添えたフルコースを売りつけた。


「ゲスい勘違い陽キャには当然の報いっス」


前髪で両目隠れてて分かりにくいけど日陰さんが邪悪な笑みを浮かべているのがはっきりとわかる。御影さんが教えた勘違い陽キャ対策は日陰さんの性格の悪さや腹黒さとかを伸ばす英才教育だったようだ。




日陰side



ひたすらに存在感を消し、加賀美ナルを監視する……



「野郎を監視中……現在地、一階の食堂の自販機っス」


『朱神君の方も特に異常はなし。このルートだと部室に向かうと思う』


耳に着けたインカムから風上さんの声が流れたっス。

私は昔から影が薄いってよく言われたっス。

出席の確認でいるのに気付かれなかったり……これはあんまり思い出したくないっス。

鳥丸先輩から与えられた役割は加賀美 ナルの監視、野郎が行動を起こし次第即座に対応できるようにっス。

風上さんは私と通信機で連携をとりつつ小型ドローンを使っての朱神の位置情報の把握と証拠映像の撮影。

しばらくして野郎はブラックのホットコーヒーを買ったっス。

野郎はかなりの甘党でブラックなんてもん天地がひっくり反っても買わない筈っス。


「野郎…ブラック買ったっスけど……」


『加賀美の手口の1つね、こっちも加賀美の取り巻きが朱神の後をつけているのを確認……確実に行動を起こすわね。』


風上さんが言う手口と言うのは相手にわざとぶつかり熱々のコーヒーをぶっかけ保健室等の人気がない所へ誘導し冤罪をかけるというものっス。

その証拠にすれ違い際に奴らのチャットのやり取りを見て確信へと変わったっス。



〈 ゲキマズコーヒー買った~


               葵の彼氏尾行中ナウ 〉


〈 今どこらへん?


          陰キャ部向かってるっぽいww 〉


〈 マジ草なんだけどww


〈 早くあいつの人生終了する所見たいわw



この距離で気付かないとはかなりの間抜けか…私の存在感が無さすぎるせいか…願わくば前者であってほしいっスけど……

こういうスパイの真似事とかが自然なレベルで上手いとその影の薄さが今は役にたってるから人生ってわからない物っスな。



しばらくして野郎と朱神が意図的に鉢合わせるとテンプレのように熱々のコーヒーを朱神さんにぶっかけ、


「熱ッ!!」


「大丈夫?火傷したかもしれないからすぐ保健室に行こ?ナルが連れて行ってあげる」

吐き気を催す言葉を並べ強引に保健室へ連れていく野郎。

既に保健室は野郎の取り巻きの1人が保健の先生を誘導し完全な無人にしているっス。

野郎と朱神が保健室へ入った所を確認し通信をいれたっス。


「準備は?」


『いつでも!』


小型ドローンに装備された超高性能マイクは周りの音を完全に遮断し特定の会話だけを拾う物を使っているっス。

そんなもん何処で入手したかは不明っスが。

あとは朱神さんがその場の雰囲気とかに流されないか心配っスけど、そうなったらなったで最初から葵さんにはふさわしくない男って事で容赦しないっス……

二人のやりとりはインカムを通じて私と風上さんに流れ……静かにその一部始終を聞いたっス。


『……僕は葵さんの彼氏だ。君には興味ない』


『状況がわかってないみたいだけど、ここでナルが「助けて!!襲われる!」って叫んだらどうなると思う?大丈夫。村雨にはできないような事、いっぱいシてあげるから……』


逆にその方が証拠として決定的っスからその展開になって欲しいっスけど……

するとまさかの予想外の事態が起こったっス。


「助けてー!!襲われるー!!」


なんと朱神さん自ら全力で叫び、保健室から脱出。

その後駆けつけた教師に事情を説明し、


「た、助けてください!!変な女子に身ぐるみ剥がされそうになったんです!」


「ダァニィ!!」


後から野郎が、


「ち、違うの!ナルが乱暴されそうになっちゃって……」


などとかなり苦しい言い訳を並べるがそのまま野郎は生徒指導室へ連行されたっス……


日陰side 終


加賀美ナルside

世界はナルを中心に回ってる。ナルは可愛いから何しても許される。そのはずだったのに、どうしてこんな事に……ナルは悪くない!ナルが一番可愛いはずなのに、みんな村雨葵の事ばっかり!ナルの方が可愛いのに……


加賀美ナルside 終


日陰side 再


その後計画通りにこれまで入手した証拠と犯行映像を新聞部へ流し、これまで野郎の被害にあった者達のインタビューや証言を元に記事が書かれ、翌日……一連の事件と加賀美ナルの男性関係についての記事が校内新聞の一面を飾ったっス。

加賀美ナルは不純異性交友で停学、その取り巻きも加担したとして停学。

更に新聞部の一部が犯行映像や犯行の計画をやりとりした音声を編集してとある動画サイトに無断で投稿したらしくその動画がかなりの反響を呼び、加賀美ナルは停学明けと同時に姿を見せることなく転校していったっス。

事の顛末を知った黒崎先輩はありえないほど爆笑していたっス。

一応これでクラス内での日陰さんに対する嫌がらせなどの問題については解決したようっス。

その後朱神さんは加賀美ナルにホイホイついて行った事、私は加賀美ナルの嫌がらせについて相談せず一人で解決しようとした事について葵さんにお説教されるのだけどそれはまた別の話。これだけ活躍したのにマジっスか……(^_^;)


日陰side 終




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