第5話 【突発コラボ】ずんばにスーパーマリオ併走!

「こんバニ! DStars3期生の川崎ばにらバニ! みんな~、今日は配信内容を告知と変えておおくりするバニ!」


 配信冒頭でさらっと内容変更を告知する。

 ハプニングもリスナーが気づかなければそれでいい。

 配信は勢いが大事なのだ。


 コメント欄には挨拶の「こんバニ」に混ざって、「なになに?」「どういうこと?」というコメントが流れる。どうやらうまく誤魔化せたらしい。


 そんな私の背後で――。


「みんなおあよー! ずんだだよー! ごめんね、今日は『カービィ』の『夢の泉』をやろうと思ってたんだけれど、配信内容を変更してお送りするよー!」


 ずんだ先輩も彼女のリスナーに配信内容の変更を告げた。


 サイドテーブルのノートパソコン。

 その中では「青葉ずんだ」が朗らかに笑っている。

 コメント欄の挙動は私の配信とほぼ同じ。


 いや、流石に察しのいいリスナーは気がつく。

 今の時代――2窓・3窓(複数のウィンドウで動画を同時視聴すること)なんて当たり前。私とずんだ先輩の配信を同時視聴するリスナーだって当然いる。


 コメント欄に「もしかして」「まさか」という言葉が徐々に増えてくる。

 中には明確に変更内容を指摘するものまで。


 空気が暖まった所でネタばらし。


「なんと! 今日は突発コラボでございます! 先日、金盾配信に駆けつけてくれた『青葉ずんだ』先輩と、突発コラボをするバニ!」


「今日はねぇ、突発でコラボをしちゃおうと思います~! お相手は、金盾配信で凸した――そう『川崎ばにら』ちゃんだよ~! びっくりしたぁ~?」


 コメント欄に歓喜の声が溢れかえる。「やっぱり」「そうだと思った」という簡単なものから、「コラボ早くない⁉」「金盾配信質だったので助かる!」などなど。

 急な配信変更にもかかわらずリスナーは突発コラボに好意的だった


 ただし――。


「ちょっと待ってみんな? なんで『そうだと思った』ん?」


 ずんだ先輩はきっちりリスナーに「圧」をかけた。


「もしかして――ばにらちゃんの配信を見てたの?」


「突発コラボだよ?」


「怒らないから正直に言ってみ?」


「なぁ、ずんだ以外の女の配信を見てたの?」


(えぐいことするバニ……)


 今のご時世、2窓・3窓は当たり前。

 とはいえ他の女にうつつを抜かすのは許さない。

 厄介な女ムーブでずんだ先輩は自分のリスナーに釘を刺した。


 これが普通のVTuberなら「めんどくせーな」でチャンネル登録を外される。だが、そこは希代の「圧」使いのずんだ先輩。

 彼女はこの一連の流れを「芸の域」まで昇華させていた。

 現に今も、接続者数が跳ね上がっている。


 なんて訓練されたリスナーたちだ!

 すごいなオモチスキー(青葉ずんだのリスナーの愛称)!


 なんにしても最初の掴みは成功だ。


「先日の金盾配信で約束してたからそうかなって……?」


「それでもちょっと早いと思わん?」


「今ならまだ――右手の中指だけで許したるでな?」


 いや、流石にやりすぎでしょ。

 どんだけ追い詰めるんですか。


「怖い怖い怖い! 怖いバニですよ、ずんだ先輩!」


 たまらず、私は大声で先輩の配信にツッコミを入れた。

 もちろんDiscordのボイスチャンネル経由で。


 それをきっかけに、突発コラボは本当の意味でスタートする。


「なにやってるんですかずんだ先輩! リスナービビりちらかしてますやん!」


「でゅははははは! ごめんごめん冗談だよ! いじめてごめんね! というわけで、コラボ相手の川崎ばにらちゃんです!」


「こんバニ! DStars3期生の川崎ばにらバニ!」


「ばにらちゃんのリスナーのみんなもおあよ~。DStars特待生の青葉ずんだだよ。今日はよろしくね」


「いやぁ、今日は急なコラボにもかかわらず、ありがとうございますバニ」


「そんなそんな! ずんだも早くばにらちゃんと遊びたいと思ってたんよ?」


「えー? それほんとバニか?」


「ホント、ホントよ! ばにらちゃんとゲームするの楽しみだったの! あぁ、どうしましょ、いったいなんのゲームしましょって!」


「……嘘くせえバニ」


「ばにらちゃん? もしかして、ちょっと調子乗ってる?」


「圧怖ッ! コラボ楽しみにしてた人の反応じゃないバニよ!」


「でゃははははは! ごめんてごめんて! 謝るから怖がらないで!」


 冒頭のかけあいもばっちり。

 という所でお喋りはいったん終了。


「そろそろ本題に入ろっか。それで、今日は何をするのばにらちゃん?」


「ずんだ先輩と言えばレトロゲーム。今日はそのレトロゲームで――ずんだ先輩を、ぎったぎったのぼっこぼこにしてやろうと思ってきたバニよ! 覚悟するバニ!」


「な、なんだってゅえ~~~~!(棒読み)」


「あ、もうちょっと感情こめてもろて」


 話は肝心の「突発コラボ」の内容に移った。

 さて――しれっとコラボをはじめたが、こうしたのにはもちろんわけがある。


 私の手元には相変わらず配信用のゲーム機がない。

 となるとずんだ先輩からゲーム機を借りるしかないのだが――実に厄介なことに、最近のゲーム機はアカウントと紐づけられている。


 万が一にもずんだ先輩のアカウントが表示されたらまずい。また配信事故だ。

 さらに「もしかして、ふたりはリアルでも交友があるの?」と、「百合営業」に特大の燃料を投下してしまうことになる。

 それだけは避けねば。


 どうしようかと悩む私に、ずんだ先輩が提案したのが「アカウントと紐づけなくても遊べるレトロゲーム」を使った配信だった。


「ミニファミコンがあるわ! これでとりあえず場を繋ぎなさい!」


「けど、配信内容を変える理由が必要じゃないですか?」


「確かに」


 どうしてわざわざレトロゲー配信に変えたのか。


 既に私は配信内容を告知してしまっている。

 丁寧にサムネイルまで作ってしまったあとだ。


 それを覆してまでレトロゲー配信をする理由――物語が必要だ。


「ねぇ、ずんだ先輩?」


「なに? 泣き言なら聞かないわよ?」


「もしかしてですけど、ミニファミコンも2台買ってあったりしません?」


 物語のヒントはずんだ先輩の配信部屋にあった。


 不測の事態に備えて同じ配信機材を揃えているずんだ先輩。

 当然、ゲーム機だって2台あるんじゃないか。

 そんな私の推理は見事に当たった。


 黒い髪を揺らして頷くずんだ先輩。

 突っかかって来ないのは、何が言いたいのか彼女もすぐに理解したから。


「レトロゲー併走コラボにしませんか? 先日の『コラボの約束』を逆手に取るんです。私とずんだ先輩がミニファミコンで併走勝負をすることになった。そういうことならリスナーは納得しませんかね?」


「……納得すると思うわ」


「そうなると、ずんだ先輩の配信まで変更しちゃいますけど――?」


「今更でしょ、そんなの!」


 かくして私たちは、2台の配信設備と2台のミニファミコンを使い、併走コラボをすることにした。リスナーを納得させるにはこの配信しかなかった。


 いや、大人しく「オフコラボ」にすればよかったんじゃないかって?


 流石にそれは、お互いに枠を取っている手前ファンに申しわけない。

 できない相談だった。


 嘘です。


 金盾放送事故からのオフコラボは「匂わせ」がキツすぎる。

 リスナーが「これはガチの百合やで!」って期待しちゃう。

 暗黙の了解でオフコラボだけは選択肢から外したのだ。


 想像してみてよ。


 VTuber生命が終わりかねないピンチを救われた二日後に、救ってくれた先輩の家に遊びに行ってあまつさえ一緒に配信するだなんて。

 そんなのどう考えたって「てぇてぇ」しかないじゃん。


◇ ◇ ◇ ◇


「それじゃばにらちゃん、どれで勝負する~?」


「それはもちろん! やっぱりファミコンと言えばアレでございますよ!」


「アレって~? もしかして――アイスクライマ~?」


「違うわ! そんなマニアックなゲーム、誰も知らないバニよ!」


「なんでぇ! ポポくんとナナちゃん、スマブラ出てるじゃない!」


「出てますけど! そうじゃなくてですね! ほら任天堂と言えば!」


「任天堂と言えば~?」


「やっぱり世界の『マリオ』でございますよ!」


「あ、マリオね~!」


「というわけで! 今日はずんだ先輩と『スーパーマリオブラザーズ』の併走対決をやっていこうと思うバニ!」


 ルールは簡単。

 1時間でどちらが先までステージを進めることができるか。


 禁止事項は「どこでもセーブ」以外に特になし。

 ワープあり。鳩(リスナーがコメントで対戦相手の進捗を報告すること)あり。煽りあり。なんでもあり。


 とにかく1時間後に先の面にいた方が勝ちとした。


 実にシンプルな併走勝負。

 お互いのゲームの腕前&知識が勝敗を決する、ゲーム配信系VTuberらしいコラボだ。当然、私のファンもずんだ先輩のファンも喜んでくれた。


 ただし――。


「ちなみに、ばにらちゃんは『マリオ』はやったことあるん?」


「前に『ワープなし』の『どこでもセーブ』ありで、『全クリ配信』したことがあるバニです。それ以外では、これが2回目バニな」


「あらあら~? じゃあ、『マリオ初心者』ということですねぇ~?」


「なんバニか『マリオ初心者』って」


「ちなみにずんだは『マリオ』は初代から64まで、最低3回はクリアしてるでな。これは初心者のばにらちゃんにハンデが必要かしらぁ~?」


「煽ってくるバニなぁ! 大丈夫バニ!」


「けどばにらちゃんの『全クリ配信』て、10時間くらいかかってなかった?」


「配信ちゃっかり見てるんじゃねーですか! そうバニよ! 悪かったバニか! レトロゲーみたいなアクションは、苦手なんだバニ!」


 そう。


 実はレトロなアクションゲームを私はあまりやったことがない。

 ゲーム配信系VTuberだが、やるのは最新のゲームがメインなのだ。

 レトロゲーもするけれど、主にRPGしか触れてこなかった。


 なによりミニファミコンに触るのがこれがはじめて。

 小さなこのコントローラーではたしてうまくプレイできるだろうか。


 つまり――この勝負は私にとって圧倒的アウェー!


「まぁ、ハンデが要らないって言うなら、ずんだは別に構いませんけどぉ~!」


「余裕バニな、ずんだ先輩! 絶対にキャンて鳴かしてやるバニ!」


「鳴くのはいったいどっちバニかねぇ~♪ それじゃあ、リスナーのみんなも待ってることだし、そろそろはじめよっか!」


「バニ! それではそれでは! ずんばに『スーパーマリオ』併走、開始バニ!」


 私とずんだ先輩はDiscordのボイスチャットを切った。


「言ってくれたバニなあのワンころ! ばにらがレトロゲー苦手だって分かってて、煽ってくるなんて! 下剋上するから、みんな見ててくれバニ!」


「強がっちゃってまぁ、かわいいですねぇ、ばにらちゃんてば。まぁ、金盾配信でずんだが救ってあげたんだから、泣かせちゃってもいいよね!」


「「絶対に勝つ!!!!」」


 通信が切れた瞬間に相手をディスるのも忘れない。

 併走配信の様式美だ。


 まぁ、背後にいるんですけれど。

 お互いに丸聞こえなんですけれど。


 かくして、リスナーたちをしっかり焚きつけて私たちは併走配信を開始した。


 まずはステージ「1-1」。

 ここはチュートリアルステージだ、あぶなげなくクリア――。


「でゅあああ! てめぇクリボー! 邪魔だぁ!」


(……あ、言ってる傍から死んでるバニな)


 と思ったのに、いきなりずんだ先輩の悲鳴が響く。


 レトロゲーが得意なずんだ先輩が「1-1」で苦戦するはずがない。

 きっとコラボのことを考えてあえてミスったのだろう。おそるおそる後ろを振り返ると――青い顔をしてずんだ先輩が固まっていた。


「嘘でしょ。ミニファミコンのコントローラー小さすぎじゃない」


 マイクに拾われないように小声で悪態を吐くずんだ先輩。


 あ、これ、ガチで失敗した奴だ。


 どうやらずんだ先輩もミニファミコンでの「スーパーマリオ」ははじめてらしい。

 プレイする環境が変わればゲームの難易度も変わってくる。


(これはもしかしてワンチャンある?)


 希望を抱いた矢先――私もジャンプのタイミングをミスって、穴に落下した。


 仲良くふたり揃って「1-1」でゲームオーバー。

 なんとなくだがレトロゲー併走コラボは泥仕合になりそうだった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 はたして「川崎ばにら」と「青葉ずんだ」のどちらが勝つのか? どうやって勝つのか? 気になったらどうか評価をお願いいたします。m(__)m

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