運命の邂逅と1stラウンド



「西条、今日放課後暇か?」


「あぁ、悪い佐々木。今日は委員会がある」


「あぁ、桐島キリシマとのお楽しみか。じゃあまたな」


「うっせ。おう、悪いな」



ある日の放課後、俺は図書室に向かった。

この学校は必ず委員会に所属する必要があり、俺は図書委員に所属している。

その仕事内容は週に1度だけ図書室で受付をすることだ。

座っているだけでいいので楽なんだよな。


そして、

図書委員を選んだもう一つの理由が──



「やっほ、優貴。頑張ろうね」


「なにをだよ。座ってるだけだろ」


「えへへ」



図書室の受付は2人でやるのだが、

先に着いて待っていた美少女、

美玖が笑いかけてきた。


そう、俺は美玖と示し合わせて図書委員になったのだ。

これなら違和感なく学校で2人でいられるからな。


...とは言っても、今の俺にはあまり嬉しくはないが。



「ふんふ〜ん♪」



美玖は上機嫌に机の下で俺と手を繋いでいる。

位置的によっぽど近くまで人がこなければバレないので、いつものことだ。


だが──



「あ...」



特に会話もなく、ただ手を繋ぎながらそれぞれ思い思いに時間を潰していた時、突如として美玖がパッと繋いだ手を離した。


それに違和感を覚え前を向くと、ここ最近で不本意ながらも見慣れた人影がこちらに向かってきていた。



「よっ。図書委員やってるって言ってたから会いにきたよ」


「あ、た...小林コバヤシ先輩...」


「ん?どうしたんだよ美玖。いつもみたいにって言ってくれないのか?」


「あ、その...」



ででーん!

間男キター!

おまっ、大胆だな....

美玖が真っ青になって俺の方ちらちら見てきてるがな。

しっかし俺がいるのに堂々とよくきたなぁ?

喧嘩売ってんなら買うぞ?あ?


てか...ん?



「あ、悪い悪い。秘密だもんな。

ごめんな、そこの君。俺と美玖が仲良いことは内緒にしといてくれると助かるよ」


「はぁ...?」


「ちょっ...!誤解されるようなこと言わないでください!」


「はは。じゃあまた連絡するよ。ばいばい」



俺をチラッと見た間男さんだが特に変わった反応はなかったように見える。

てことはあれ、間男さん、美玖の彼氏が俺って知らない?

いやいや下手したら美玖に彼氏がいることすら知らないんじゃないか?




「あのね、優貴──」


「今の人、誰?」


どの口がって話だが、自分でもびっくりするくらい冷たい声が出てしまった。


「た、ただの先輩だよ!なんか最近、凄く馴れ馴れしくて困ってるんだ。本当だよ?別に何もないよ?」



誰って聞いただけなのにすっごい言うじゃん。

もはや白状してるようなもんなんだけどなぁ...



「美玖が男を名前で呼んでるなんて珍しいな」


「ち、違うよ!呼んでなかったじゃん!」


「でもさっきいつもみたいにって──」


「あ、あの人が勝手に言ってるだけだよ!」



さ、流石に苦しくないか?

こんなことならあの間男さんにはもうちょっとボロ出してから去って欲しかったな。



...はぁ。

でもこの隠しようなら糾弾しても俺を捨てて間男に行ってしまうことはないだろう。

美優さんに勇気づけられたし、とりあえず自分を棚に上げて目先の問題を片付けるとしようか──


「西条君、この本を借りたいわ」


そうそう、こんな声で優しく慰めてくれたんだよなぁ。

不思議と元気が出るって言うか、流石の包容力。

あぁ柔らかかったなぁ──


って、へ?


「み、み、美優さん!?」


「ふふ。なにをそんなに驚いているの?」


「い、いえ、失礼しました。あぁこれですね!」


差し出された本は以前俺がおすすめした本だった。


「この前おすすめされた本が凄く面白かったから、今回もあなたのおすすめに従うことにしたわ」


「よかったです。はい、どうぞ」


「ありがとう。またね」



あぁ、びっくりしたぁ。

そう、美優さんは普段はあんな感じで落ち着いた話し方なんだよな。俺と2人の時は「えへへ」とか言って凄く可愛くてそのギャップがまた──



「優貴?」



ずっと黙っていた美玖からの突然の問いかけに思考を遮られる。


「──今の人、荒川アラカワ先輩だよね?いつの間に仲良くなってたの?」


ひゅえっ...

美玖から聞いたことのない低い声が飛び出てきた件。


「い、いや...この前俺が受付した時におすすめの本を教えただけだよ?」


そう、俺と美玖はクラスが違う関係上、基本はいつも2人だがたまに別々になる時があるのだ。幸い本の話しかしてないし、特に変なところは──


「ふぅ〜ん。それくらいでさんなんて、名前で呼んじゃうんだ?」


し、しまったぁ...!

直前まで美優さんのことを考えていたせいでつい...


「そう呼んでって言われたんだよ。別に深い意味はないよ。向こうは西条呼びだったろ?」


「...荒川先輩って男嫌いの女帝って言われてるんだよ?そんな人が名前で呼んでなんて言ったの?それに普通に優貴に話しかけて...」



えええええ!?

なんそれ!?

男嫌いの女帝ってなんそれ!?

知らない知らない!そんなの知らない!

結構初期から距離感バグってたぞ!?

しかも包容力あって美人なのに甘えてきたら可愛くてアレの最中なんか潤んだ目で──おっと今はそれどころじゃないな。



「そ、そうなのか...?知らなかったな」


「そうだよ」


あかん。

美玖がめちゃくちゃ疑いの目を向けてきてる。


「な、なんでそんなに詳しいんだ?」


「え?そんなの、荒川先輩は学校1の美人って有名だし、それに大我先輩の幼馴染だか──」


「大我先輩?」


「あっ...違...!違うの、さっき名前がどうって話になったからつい出ちゃっただけで!」


「で?俺はそんな話聞いたことないけど、小林先輩とそんなことまで話すくらいには仲良いのか?」


「ち、違うよ!ちょっと聞いたことがあるだけで、本人に聞いたわけじゃないよ!

...そ、それより!

優貴は荒川先輩と本当に仲良くないの?」


「いや、だから別に何もないって!」


「そっか...」


「うん...」


そこから若干気まずい雰囲気になるも耐え、チャイムが鳴り終わる時間になると俺達はどちらともなくそそくさと席を立つ。


「あ、優貴...今日は──」


「あ、俺今日バイトだから...。」


「そっか、頑張ってね!」


「ありがとう」


「優貴、大好きだよ」


「あぁ、俺もだよ」



いつもは委員会が終わる時間になると生徒も少ないため俺達は一緒に帰っている。

だが今日は流石に色々気まずすぎてバイトと嘘をついてしまった。

時間までまだ少しあるからと美玖を先に帰らせ、後ろ姿を見送る。



「はぁ...。帰ろっと」




本日の結果は──

ダブルノックアウトにより勝敗なしってやつだな。



てか、美優さんは美玖の存在を知っているはずなのに何で話しかけてきたんだ...

まぁ、本を借りたかったなら仕方ないか。

あのタイミングがやばいなんて知る由もないしなぁ───



「あ、優貴!待ってたよ♪」


「み、美優さん...!?」




野 生 の 美 優 が 現 れ た !





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エクストララウンド

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