1-12

 志貴はすっかり冷めてしまった食事を電子レンジで温め直し、ブスッとした顔で夕食を摂る。


 もちろん、志貴はソファでテレビを見ている洋介とは口も利かずにいた。


 それは洋介も同じで、彼は志貴のほうを見向きもせず、テレビを見て笑っていた。


 夕食後、志貴は自分の部屋に戻ると、スマートフォンで幻冬に電話をかけた。


「どうかしましたか、志貴殿」


 いつも通りの幻冬の声。


 それでようやく、志貴の緊張が緩んだ。


「ああ……ちょいと色々あってな」

「というと?」


 志貴は自分の身に起こったことを、幻冬に洗いざらい話した。


 志貴の話をマジメに聞いているのか、受話口からはなんの音もしなかった。


「――そういうわけなんだ、幻冬。どうやらおれは羅奈のハートを射止めた、らしい。

 だから、きょうからおれと羅奈は交際スタート、だそうだ。……理解できたか?」

「……ギリギリですが、なんとか」


 ようやく幻冬が声を出したので、志貴は安心した。


「そいつはよかった」


 だが――。


「要は『ダークレモネード作戦』は順風満帆だと、そういうわけですよね」

「ん……ああ、そうだ。なんだよ、お前も察しがよくなったな」

「ふっ。って、いやいや、それくらい分かりますよ。あなたはなんて失礼な人だ」

「はは……だろうな」


 志貴は力なく笑う。


 このとき、すでに志貴は胸が苦しくて、空いた片手で胸を押さえていた。


 あのとき――志貴は思わぬ場所で羅奈と出会った。


 女神のような羅奈は志貴を抱きしめ、慰めてもくれた。


 志貴を家に送り届け、最後まで志貴の味方だった羅奈……。


 思い返せば思い返すほど、志貴はつらくなった。


「なあ、幻冬」

「はい、なんでしょうか」


「ダークレモネード作戦」なんて、もうやめにしないか? ――そう志貴は言おうとした。

 けれどそんなこと、幻冬に言えるはずもなく……その言葉は喉まで出たが、ついに言葉になることはなかった。


「いや、なんでもない。――またな、相棒」

「ええ、また」


 志貴は歯を食いしばりながら、電話を切った。


「……こういうとき、大人ならタバコを吸ったり、酒を飲んだりするんだろうな」


 志貴は独り言をつぶやいたが、それがいけなかった。


 独り言は志貴の心をかき乱した。


 やがて志貴は自分に怒りを覚え、拳で壁を叩いた。


「クソッ、クソッ……!」


 が、それからすぐに鎮静剤を投与されたかのように、志貴は大人しくなった。

 と思えば、志貴は悲しみのあまり、慟哭した。


 そして……。

 これはすべて因果応報だと思いながら、このようなことを志貴は口にした。


「好きだよ、好きだ。おれは羅奈のことが、本気で好きなんだ……!」


 それからも志貴の慟哭は続き、さらに続くのだった。

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