嘘から出たまこと
志貴はすっかり冷めてしまった食事を電子レンジで温め直し、ブスッとした顔で夕食を摂る。
もちろん、志貴はソファでテレビを見ている洋介とは口も利かずにいた。
それは洋介も同じで、彼は志貴のほうを見向きもせず、テレビを見て笑っていた。
夕食後、志貴は自分の部屋に戻ると、スマートフォンで幻冬に電話をかけた。
「どうかしましたか、志貴殿」
いつも通りの幻冬の声。
それでようやく、志貴の緊張が緩んだ。
「ああ……ちょいと色々あってな」
「というと?」
志貴は自分の身に起こったことを、幻冬に洗いざらい話した。
志貴の話をマジメに聞いているのか、受話口からはなんの音もしなかった。
「――そういうわけなんだ、幻冬。どうやらおれは羅奈のハートを射止めた、らしい。
だから、きょうからおれと羅奈は交際スタート、だそうだ。……理解できたか?」
「……ギリギリですが、なんとか」
ようやく幻冬が声を出したので、志貴は安心した。
「そいつはよかった」
だが――。
「要は『ダークレモネード作戦』は順風満帆だと、そういうわけですよね」
「ん……ああ、そうだ。なんだよ、お前も察しがよくなったな」
「ふっ。って、いやいや、それくらい分かりますよ。あなたはなんて失礼な人だ」
「はは……だろうな」
志貴は力なく笑う。
このとき、すでに志貴は胸が苦しくて、空いた片手で胸を押さえていた。
あのとき――志貴は思わぬ場所で羅奈と出会った。
女神のような羅奈は志貴を抱きしめ、慰めてもくれた。
志貴を家に送り届け、最後まで志貴の味方だった羅奈……。
思い返せば思い返すほど、志貴はつらくなった。
「なあ、幻冬」
「はい、なんでしょうか」
「ダークレモネード作戦」なんて、もうやめにしないか? ――そう志貴は言おうとした。
けれどそんなこと、幻冬に言えるはずもなく……その言葉は喉まで出たが、ついに言葉になることはなかった。
「いや、なんでもない。――またな、相棒」
「ええ、また」
志貴は歯を食いしばりながら、電話を切った。
「……こういうとき、大人ならタバコを吸ったり、酒を飲んだりするんだろうな」
志貴は独り言をつぶやいたが、それがいけなかった。
独り言は志貴の心をかき乱した。
やがて志貴は自分に怒りを覚え、拳で壁を叩いた。
「クソッ、クソッ……!」
が、それからすぐに鎮静剤を投与されたかのように、志貴は大人しくなった。
と思えば、志貴は悲しみのあまり、慟哭した。
そして……。
これはすべて因果応報だと思いながら、このようなことを志貴は口にした。
「好きだよ、好きだ。おれは羅奈のことが、本気で好きなんだ……!」
それからも志貴の慟哭は続き、さらに続くのだった。
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