第2章 放浪編

第1話 行方不明

カードの王 放浪編

001 行方不明


迷宮都市メルキア、迷宮では冒険者がよく死んでしまう。

その場合は、死体が帰ってこないため、その後、行方不明という形で処理される。

この街で、今話題騒然の事故が起こった。


メルキア領主の命令でミスリル製の迷宮品を探すために、大規模なレイド部隊が出発したのだが、連絡が途絶えたのである。

このレイド部隊には、王都の有名クランから死神の鎌という白金級パーティーが招かれ、主力として探索が行われていたのだが、40階層突破後に突如として連絡が途絶えたのである。

40階層突破後に連絡員が、連絡に来たのだが、それ以来音信普通である。


目標階層は、その少し先だったのだ。

街の人間でも事情通はこう言っていた。「あの死神の鎌はすこぶる評判が悪い、なんらかの仲間割れが発生したのではないか」と。

彼らの所属するクランは腕こそいいが、人間性には期待するなというようなクランで鼻つまみものが多く所属する。

どこのクランにも存在するが、彼らのクランの構成員のほぼ全員が評判が悪いというのは王都でも、稀であると。


メルキアを拠点とするパーティーもかなり侵入したわけだが、それも音信不通だ。

これは街の冒険者でも有力な者たちが、領主の命令のためかなり動員されたのだが、彼らがいなくなれば、今後迷宮の深層の物品を獲得できる方法がなくなったことを意味する。


人員の問題、物資の問題もどちらももが大問題である。

ギルド長の責任であるという声が上がるまでに時間それほど要しはしなかった。

勿論ギルド長にも言い分はある。

貴族の領主に命令されれば反対すること自体がほぼ無理なのだ。

だが、万全の態勢で臨むように、あれこれと準備はできたはずだ、という声は根強い。そもそも、それらの調整がギルド長の仕事なのだから。


不穏な噂話があちこちで起こり、その不穏さのせいで、領主の軍隊、つまり領軍が警備に当たるため、まちのあちこちで立つようになってしまった。


そんな中、驚くべき情報がギルドに届く。

何と冒険者が生きていたというのである。

さらに、金級冒険者アンジェラまで生きているというのである。

「すぐに呼べ」ギルド長タイタンが部下に命じる。


ギルドに現れた二人。

タイタンは、アンジェラの傍らに立つ男が一瞬誰かわからなかった。

確か鉄級をとにかくエライ年でクリアした銅級冒険者の小僧(年齢はいっているのだが)のはずだった。

しかし、その面目は一新し、鋼の精神を表情に表す、不敵な冒険者となっていた。

全身から放射される闘気は歴戦の戦士のものであった。


「アンジェラ、一体全体どうしたのだ。彼らが帰ってこないのだが」

「ギルド長、私は、薬を盛られ、危うく犯されて殺されるところでした」

「なんだと、どうしてだ」

「わかりませんが、私をしつこくくどいてきたんです。どうにかしてください」

「それより、状況を教えてくれ」

「40階層突破の際に、数人が死にました、その後も強引に進みましたが、ある晩、食料に眠り薬を入れられたんです」

「なんだと」

「気づいたときは、別の階層のセーフティーゾーン内で服を脱がされていたんです」

「それで」

「その時に助けてくれたのが、ジンです」

「ああん?銅級がどうやって」

「彼はすでに、銀級並みの実力を持っているんです」

「嘘をつけ」

たとえ銀級でも白金級を倒すことはできない。

「それで」

「私を助けた彼と、40階層の帰還装置で帰還しました、そのあとのことは知りません」とアンジェラが説明する。事実を説明すると説得力がある。


「アンジェラ、そのあとのことを知りたいのだが」

「ええ、恥ずかしいです」

「何が?」

「私、ジンと結婚します」

「はあ?」ギルド長は素っ頓狂な声を出してしまった。


「そうじゃない、冒険者たちがどうなったかだ」

「そんなことは知りません、あの人達とは、もう二度会いたくありません、それよりこの犯罪行為を裁いてください、ギルド長」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る