第18話 アイドルディーラー
018 アイドルディーラー
カジノの一室のような場所。
ポーカー台の前には、なんと国民的アイドルの鮎川奏(かなで)がいた。
しかも、彼女は、バニーガールの恰好をしているのだ。
何だと!
これは一体どうしたことだ。なぜバニーガールなのだ。
鮎川奏は笑顔を此方に振りまいて「勝負です」と無機質に言った。
おい、カナタじゃねえか。声にげっそりする。
「私は、カードディーラーの鮎川カナタです」
何、顔だけパクッテるんだよ。しかも声は棒だし。
だが、しゃべらなければ、その美しい顔と姿は国民的アイドルそのままの姿であった。
肖像権の侵害にならなければいいのだが。
鮎川奏は、俺のいた世界のアイドル兼女優、コメンテーターなどをこなすマルチタレントであり、史上最も美しくてかわいいスターと呼ばれているまさに国民的アイドルである。
少しツンなところがあるが、天然なところもある本当に笑顔が可愛いアイドルなのである。
まさに、大人気といったところ。国民的美少女コンテストで優勝してアイドル街道を驀進しているスターなのだ。
その美しさ、スタイルそのままに、目の前にいる。
目がつぶれそうだ。
しかし、ディーラーはバニーガールの恰好などしないが、なぜこのような煽情的な恰好をしているのだ。
だが五芒星の描かれたカードを颯爽と切る彼女の手の動きは、確かにディーラーの動きである。
「この中に、一枚だけSRのカードが含まれています。それを引けばあなたの勝ちです」
「それを引かなかったらどうなるの」
「この中に、一枚だけSRのカードが含まれています。それを引けばあなたの勝ちです」
どうやら、別のセリフは用意されていないらしい。昔やったゲームのモブと同じだ。
何回聞いても、返事を変えることもなく、答えてくれる。
十枚のカードが鮮やか手並みにより展開される。
ニコリ。その笑顔にどんな意味があるのか。上手く広げられたことを自慢するつもりなのか、それとも、引いてみろという挑戦の意味なのか。
「SR以外は何のカードなの」
ニコリ。
答える気はないらしい。
この笑顔を見ているだけで相当な眼福。引かないという手もあるかもしれない。
「引いてください」
ばれたようだ。
しかし、俺が鮎川奏の大大ファンであることを知っていたのか!
それにしても、とても似ている。美しい。しゃべれば台無しだが、ほほ笑まれるとドキドキする。血圧が上昇する。
俺は意を決して、カードに手を伸ばす。
すると、カナタが眼をそらす。
え?
別の一枚に手を伸ばす。
すると、カナタが眼をそらす。
え?
何枚か、手を伸ばすと眼をそらさなかったのは真ん中の時だけである。
明らかに、不審なディーラー。
これは罠なのか。
しかし、当たりは一枚だけだとすると。
何回も眼をそらす必要がない。
とすると、当たりの時だけ眼をそらさないということになる。
勿論、それが罠なのかも知れないが。
意を決して、俺は自分の右から数えて5番目のカードに手を伸ばす。
カナタは眼をそらさない。
「これだ」
「ファイナルアンサー?」
それは違う番組だろ。
そもそも、ポーカーの台なのだが?
「ファイナルアンサー」
「ドロー」
キラキラン、キラキラン。
いつもの2倍の輝き!が発生する。
「コングラチュレーション」
「SR LV10黒龍(幼体)をゲットしました」
くす玉が割れて、紙吹雪が舞う。いままでそこになかったものも、突如出現する。
ここは異界の果てなのだろう。
「なかなかやりますね、あなたの勝ちです」棒のセリフの後、悔しそうな顔を見せる、カナタ。
いやいや、あんたこれ見よがしに誘導してたやん。
こうして、俺はカナタの八百長でSR黒龍(幼体)をゲットした。
だが、公式記録では、実力でSRをゲットしたことになっているという。
確率10%を見事に的中させたことになっているのだ。
答えはどう見ても一つしかなかった。
そう、これは出来レース。
そうでないとストーリーが進まないのだろうか。
俺はそう考えようと、前向きに思考し始めた。
この世界では、ありとあらゆるものが、物理によって支配されている。
俺の力が、カナタを動かしたに違いない。
(いえ、違うと思います)そんな突っ込みも聞こえそうだが、実力がすべてなのだ。
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