第6話 女神

006 女神


ふと気が付くと、周囲は白い靄に包まれていた。

意識がはっきりしてくると靄も引いていく。

此処は何処だ。


俺は、確か刺された、死んだのか?


その時、目の前に光が現れる。

そしてそれは、人型を取り始める。

人型は女性になる。神々しい後光がさしている。


美しい顔。後光で見えないということはなく。その完璧な美しさがそこにある。

しかし、表情を読み取ることはできない。それだけに、恐ろしさがある。


「私は、女神です。詳細は省きます」

女神を名乗る者は話を始める。


「残念なことに、あなたは手違いで死亡しました」

「え」

「外国人がさされて死ぬところをあなたが身代わりで刺されたのです」

「ええ?」そうだ、キャスリング、王とルークを入れ替える技が使われたのだ。

ウィザードは王で、俺はルークとして。身代わりになり刺されたのだ。


「問題になったあの偽カードを販売した店員はカードの偽造販売グループに買収された一味でした」

「えええ」あの野郎!

「まさに手違いで死んだのです」

女神はたんたんと続ける。

「あの店員は詐欺罪で逮捕されましたが、執行猶予付きで悠々と暮らしています」

「そんな!」なぜそんな、こちらがどうしようもないような情報を教えやがる!

「あまりにもかわいそうということで、此処にあなたの魂は呼ばれたのです。因みに、あなたを刺した犯人は、その場で自殺しています、ブルーローズはブラッディーローズになったのです」


あまりにもえげつない事実を無表情に突きつけてくる女神。そんな情報はいらない。それを知らせて一体誰が得をするというのか、そんな関係のないことで殺された俺はどうしたらよいというのか。何もできはしないすでに死んでいるからである。

「ひどい」俺がつぶやく。

「そうですひどいのです、休みのはずの私が何故呼ばれる必要が有るのでしょうか」と女神。

「え?」自分に同情してくれている訳では決してないらしい。

「ですから早急に処理して、私は行かねばならないのです、あなたに対して冷たくなってしまうのも仕方有りませんよね」とまたも感情が駄々洩れの発言がある。

「ええ!」少しくらい同情してくれてもいいのではないか。

さらりと冷酷なことをいう女神。怖いと感じたのは、やはり機嫌がよくなかったのである。

「さあ、あなたが望むと望まざるとにかかわらず、転生しなさい!」宣告する女神、その声に躊躇はない。例えば、転生特典の話とはないのでしょうか?

「えええ」

「伸るか反るか!きなさい」女神が手をかざす。

「ひええええ!」俺の意識が混濁していく。漢字が間違ってるだろう!


こうして俺は、異世界へと望むと望まざるにかかわらず出発したのだった。

そう、たとえ字が間違っていたとしてもなお。


策謀と無慈悲が交錯する神の領域から、俺は見も知らぬなんの情報も与えられず異世界へと流される。

一寸の虫にも五分の魂、必ず報復してやるからな。俺は、必死にそれだけを考えていた。


しかし、超高速で回転しながら降下していく途中にその心を砕け散らせて俺は意識を手放したのであった。


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