第3話

「なあ」と泥棒が番人に声を掛ける。そして、その手に持ったままの本をじっと見た。

「“ラーメン屋でバイト中に声が裏返った記憶”って、めっちゃ、くだらなくないか?」

「……たしかに」

「くだらないよな?」

「……くだらない」

 先程まで、敵同士だった二人の意見が一致した。

 番人は小声で「ラーメン屋でバイト中に声が裏返った記憶、声が裏返った記憶……」と繰り返している。

そして、「……くだらないよね?」と泥棒に尋ねた。

「かなりくだらない」即答する泥棒。

「今まで全然気付かなかった……なんか、すごくくだらなく思えてきた」

「あ、いや、ごめん、そういうつもりではないんだよ」

 泥棒は慌ててそう言ったが、番人には届いていない。

 彼は今、突然突きつけられた、自分が守ってきたもののくだらなさ、そしてそこから導き出される、自分の仕事のくだらなさに愕然とし、俯いている。

「いや、あの、俺は、別にあんたの仕事がくだらないって言っている訳じゃなくてだな……」泥棒のフォローになっていないフォローを遮り、「いや」と番人は声を上げる。

「いいんだよ!逆に、君のおかげだ、ありがとう」

 全てが吹っ切れたような番人。

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