第17話

あれからサイモンとウィルが大盛り上がりしてアイザックを、いや、王家を潰す計画を立て始めた。


わたくしは、2人を止めるのに必死だった。よくよく聞いてみると、アイザックがわたくしに冷たくなった辺りから計画を立てていたらしい。


商人は国からどんどん撤退している。理由は簡単。税金が高すぎるのだ。国王陛下は短絡的な方で、お金がないならあるところから搾り取れば良いとお考えになった。宰相様達が止めたのに、楽をしたい国王派の貴族達と組んで勝手に税率を変更してしまった。うちの父は賛成派の筆頭だ。


だけど、そんな事をすれば商人はこの国から逃げるに決まってる。ウォーターハウス商会が撤退を検討するのは当然だ。だけど、わたくしへの恩があるからと残ってくれていた。色んな国で商売をしているウォーターハウス商会は、うちの国で利益が出なくても構わないと割り切ってくれた。


ウォーターハウス商会が撤退すれば平民だけでなく貴族も品不足に悩むことになる。サイモンの計画では、撤退した後に国王の愚行を広める計画だったそうだ。国王への不満がたまったところで、国王派の貴族達の不正をどんどん明らかにする計画もあったらしい。なんと、ウィルが大量に不正の証拠を集めていたのだ。うちの両親の不正もあったわ。


いつでも告発できると言ってたけど、凄すぎない?


わたくしが追い出されたら、父を潰すつもりだったと笑顔を見せる2人はなかなかの悪人顔だった。


サイモンとウィルに促されて、ゲームの知識をあるだけ絞り出した。そして、他の人に伝える事と伝えない事を決めた。


わたくしは前世持ちで、複数の未来が視える。わたくしが死ぬ未来がほとんどだったから、未来を変えたい。アイザックとの婚約は解消したいと伝える事にした。リリとミミに話をすると、あっさり信じてくれたわ。彼女達はとても信心深いから当然だとサイモンは言った。


リリとミミは、聞かれたらわたくしが前世持ちだと伝えるようにお願いした。ウィルがすぐにでもエドワードが探りに来ると言うから、リリとミミを街に使いに出したら本当に接触があったそうだ。


美しいが、悪魔のような男が声をかけてきたと聞いてみんな大笑いをしていたわ。


それから、わたくしがゆっくり過ごせるようにとサイモンがわたくしの侍女に旅行券をプレゼントしたそうだ。以前に父と使っていた宿で当たった事にしたらしい。その宿は、サイモンの家の管轄だった。掌の上で転がされてるわね……。


友人と行くと父に伝えて出かけたそうだ。代わりを寄越すと母にバレるので、わたくしはひとりでなんとかしろと父からの手紙が寮に届いていたらしい。父の手紙にはいつもわたくしの我儘に苦労させられているから慰安旅行だと書いてあった。けど、一緒に行く友人は男性。旅行が終わってイチャイチャしてるところを父と会わせる計画らしいわ。修羅場になるだろうねとサイモンが笑っていた。


うわぁ……怖い……。何が怖いって、ほとんどの情報を握ってるサイモンよね。


物を買えば、情報は残る。他の商会は全て逃げたし、個人商店も秘密裏にウォーターハウス商会の管轄になっているところが多い。だってそうしないと税金が払えないのだもの。だから、ウォーターハウス商会に関わらず日常生活を送りたいなら自給自足するしかない。


税金が高くて利益が得られないなら、その分他のモノを貰えば良いと笑うサイモン。怖いよなと揶揄うウィルも充分怖いわと言ったら2人して落ち込んでから、上手くお願いしてなんとか計画を取りやめて貰った。


「結局、オリヴィアが一番怖えよな」


そう言ってウィルが笑う。


3人で笑い合うと、アイザックと婚約する前の日々を思い出す。幼い頃、家に居場所がなくてこっそり屋敷を抜け出した。誘拐されそうになったところをウィルが助けてくれたわ。その後、ウォーターハウス商会と縁があってサイモンと知り合った。またウィル達に会いたかったわたくしはこっそりサイモンに頼んで平民の服を融通して貰った。抜け出す日を予め決めておき、屋敷を出たわたくしをサイモンが馬車に乗せて着替えてから貧民街で遊んでいた。サイモンが居る時もあれば、後でお迎えが来る事もあった。彼らと居れば穏やかな時間を過ごせたわ。


だけど、わたくしがアイザックと婚約してからはそんな時間は取れなくなった。アイザックが好きで頑張ったけど、すっかり気持ちは冷めてしまった。


今は、どうにか婚約をなかった事にして平民として穏やかに暮らしたいと願っている。サイモンもウィルも大賛成してくれた。


あとは、打ち合わせの通り協力者を求めるだけ。まずは、いちばん頼りになる先生からお話をしましょう。

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