第15話

「……お前ら、呑気で良いよな……」


若干やつれたウィルが帰って来たのは、サイモンが夕食を用意している時だったわ。


あれから固まってるサイモンを揺り起こして、久しぶりに色んな話をした。わたくしはサイモンと新しい筆記具を作ろうと盛り上がっていたわ。この世界の筆記具は羽根ペンくらいしかない。せめてもうちょっと質のいい筆記具が欲しい。万年筆やポールペンくらい作りたいわ。けど、あんまり構造が分からないのよね。だから、可能かどうかサイモンと相談していたらヒートアップしてしまった。


「おかえり。ウィルだって目覚めたオリヴィアの側に居ただろ。これくらい許してくれよ」


「テメェ! オレを身代わりにしたの、オレ抜きでオリヴィアと話したかっただけだろ!」


「それもあるけど、ちょっと手の内を明かして警戒させたかったんだよね。それにさ、ウィルよりマシだよ。深夜にオリヴィアとふたりきりなんてさー。ズルいよ。ボクはちゃんとオリヴィアの護衛として女の子を2人も付けてる。ふたりきりになんてなってない。だよね?」


「「はい」」


「ちっ……! この子達は口が固いんだろうな?」


「嘘は吐かないけど、言うなって言われた事は殺されても言わないよ」


「なら良い。おい、オリヴィア。エドワード様がやべえ。オレだけじゃ抱えきれねぇ。サイモンに例の話をしろ」


「待って! ならリリとミミは席を外して。彼女達を危険に晒したくないわ」


「けど、2人はオリヴィアのアリバイ工作と護衛を兼ねてるんだよ」


「護衛はウィルがいれば充分でしょ!」


「ボクらと浮気したとか言われる隙を無くしたいんだけど」


「そんなの問題ないわ! どうせわたくしは捨てられるんだから!」


「……さっきも言ってたけどなんでそんな事になっちゃったの? あれだけアイザック様が好きだったでしょう? オリヴィア以外に王妃になれる令嬢なんて居ないよ」


「いるわ。ロザリーよ」


「あの子はせいぜい妾だよ。妾だって公式には認められない。ずーっとどっかに閉じ込めて隠しとくしかない。王妃はオリヴィアだよ」


「サイモンはわたくしが他国に逃げても良いって言ったじゃない。わたくしの希望を聞いてくれるんじゃなかったの?」


「言ったけど、オリヴィアは王太子を選ぶと思ってた。さっきの本気だったの? 本気で、あのクズ王太子に見切りをつけたの?」


「ええ、あんなのと結婚するなんてゴメンよ。アイザックと結婚するくらいなら一生独身の方が良いわ」


「この国の王太子は、そんなにクズなんですか?」


今までほとんど話さなかったミミが聞いた。貴族令嬢は一生独身が良いなんて言ったりしない。どんな形でも婚姻したいと望むものだ。だけど、わたくしは違う。独身で働いてる女性がゴロゴロいる日本で暮らしていたんだから、結婚への意識がこの世界の人達と大きく乖離している。


「婚約者が居る癖に別の女を抱き寄せるんだぜ?」


ウィルが顰めっ面で言うと、リリとミミの顔が歪んだ。


「うわ、最低ですね」


「ここからは機密の話だから、席を外して。他国の貴方達を巻き込みたくないわ」


「「ですが……」」


リリとミミはサイモンの言葉を待つ。


「お願い、サイモン。わたくし、お友達を危険に晒したくないわ。学園を卒業したならともかく、今彼女達が知るのは危険すぎる。嘘が吐けないならなおさらよ。大丈夫、わたくしの名誉なんてどうでも良いわ。わたくし、貴族をやめることになるだろうから」


「……分かった。リリ、ミミ、席を外せ」


「「かしこまりました」」


「さ、早く話してくれる? ウィルだけがオリヴィアから秘密を明かされてるなんて気に入らない。ボクも、仲間に入れてよ」

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