喋るずんだ餅なのだ!
績カイリ
第1話
その町には喋るずんだ餅がいる。何の変哲もない、都会とも田舎とも言えないこの芽枝町。名前通り中央に建つ芽枝中央公園。この町の名前の由来になった大樹を中心に、ベンチや遊具が揃っている。公園の中で目立たない場所にあるベンチの上に、ある日忽然、皿に乗ったずんだ餅が出現した。
その少女……マリ、がずんだ餅を発見したのは、いつも通りの退屈な中学校からの帰り道だった。下校路から少しだけ外れると、この公園があって一人で寄るのが日課だった。公園には中学生のマリにとって心ときめくような遊具はなかったけれど、騒々しい中学校生活から逃れられる、公園での時間をマリは大切にしていた。マリがずんだ餅と出会った、十月二十八日。その日もいつものようにマリは意味もなく公園を散歩していた。
……今日もまたこの公園に来ちゃった。たぶん他にもっとやるべき事があるのに。でもそれは私には分からないや。意味も無く公園を散歩する事に意味を探しているんだと思う。このベンチだって、たぶんここにいる意味を分かっていない。私だってきっ
「キミ」
突然声がした。
「そう。そこのキミなのだ。制服を着ているそこのキミ」
訳が分からない。クラスメートで私に話しかけて来るような人は誰もいない。近所の人がこんな隠れ家のようなベンチに来る姿を見たことない。そもそもこんな特徴的な話し方をする人が近所にいたかな……。辺りを見廻しても何も……いや、どう考えても不自然なずんだ餅がベンチの上にいる。
「やっと気づいたのだ」
……聞き間違いでは無かったみたいだ。ずんだ餅が喋っている……ずんだが喋っている……?
「そんなUMAを見るような目で見ないで欲しいのだ」
いや、UMAでしょ。じゃなきゃなんなの?
「あなたはずんだ餅……でしょ?」
「そうなのだ!」
どうやらこのずんだ餅には、目とか耳とか口とかが、備わっているみたい。不思議で仕方ない。
「ずんだ餅なのに喋れるの?」
「そうなのだ!」
ずんだ餅なのに喋るようだ。……ずんだ餅。
「キミは僕に気づいてくれた最初の人なのだ。まずは自己紹介するのだ」
「ちょっと待って、よくわからない。……私、今ずんだ餅と会話しているの?」
「そういうことになるのだ。まぁ、このへんは考えるだけ無駄なのだ。それより、自己紹介を再開してもいいのだ?」
「あぁ、うん。ごめんなさい」
「いいのだ。全然気にしてないのだ! えっと、僕の名前は、ずんだ。誰に作られたか分からないけど、喋れるから喋るのだ。たぶん妖精とかの奇跡なのだ。もしくは僕自身が妖精なのかもしれないのだ。……自己紹介は終わりなのだ。早くキミの名前を教えて欲しいのだ」
「ええと私、マリ。よくわかってないけど、よろしく、ずんだくん」
「マリちゃんよろしくなのだ!」
なんだかよく分からないけれど、少なくとも面白そう。
「マリちゃん、何かお話しをしようなのだ。僕はお話する為に生まれてきたのだ。……そうそう。今日は、テディベアズ・デーなのだ。マリちゃんは知ってたのだ?」
「知らなかった。……なんで今日なの?」
「え……それは、知らないのだ。でも、僕を作ってくれた人が今日はテディベアズ・デーだって記憶を入れてくれたから確かなのだ」
「あぁ……そう。でも、きっと合ってるよ。お母さんや学校の人とは違って、私にわざわざ教えてくれたんだもの」
「ありがとうなのだ。マリちゃんは学校が嫌いなのだ?」
「いや……ちょっと退屈なだけ……」
「そうなのだ……。でも、僕の話はきっと楽しいのだ! だから明日もここに来て話そうなのだ。きっと学校よりも楽しいのだ」
「そうだね。じゃぁ、宿題があるから今日は帰る」
「またねなのだ!」
マリはずんだ餅に手を振り、公園を出た。マリの目に映るその日の帰路は少しだけ鮮やかだった。
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