第12話 作中作その3

「ヒネガの女を抱く気が知れないねえ。あんな所まで旅して行くのも、分から

んなあ。俺なんて、オストの街で間に合わせるんだが」

「いい加減にしてくれないか」

「さすが、六騎士中、最も知略に長けていると言われるだけあるねえ! 冷静

なことだ。その冷静な頭で考えて、ヒネガとの関係を断っといた方がいいと、

どうして分かんないのかな?」

 目をぎょろつかせて、フーパはポルティスの顔をのぞき込む。

「うるさいじゃないか!」

 そう叫んだのは、ポルティスではない。声がした廊下の方を見ると、ユスト

リング・アスト・ヘイティッド、通称ユストがいた。

「おお、これはユスト。お馬乗りのお帰りかね」

「外れだ、フーパ。私の部屋がどこか知っているだろう? そう、ここの隣だ。

こううるさくされては、勉強にならんのだ」

「へいへい。退散つかまつりましょ。じゃあな、ユスト君にポルト君!」

 せいぜい毒づくと、フーパはドア付近に立つユストリングをよけながら、ポ

ルティスの部屋を出て行った。

「ありがとう、ユスト」

「何を言ってるんだ、ポルティス。私は君を助けたんじゃない。そうだ、この

際、言っておくが、フーパの奴が言ってたことは余計だが、事実だ。君も早く、

ヒネガとの関係にけりをつけておくのが賢明だと思うがね」

「……」

「では、静かにしてくれたまえ。お目通しまでは、まだ時間があるんだからな」

 そう言って出て行ったユストリングの姿を目で確認すると、ポルティスはた

め息をついた。

「どいつもこいつも同じだ……」

 これから後、三人に同じ様なことを言われるかと思うと、気が重くなるポル

ティスだった。


 ユストリングの言っていたお目通しとは、休日を終えた直後、王室に挨拶に

行くことである。これは六騎士に限らない。が、それは総て、型にはまったも

のであり、何等、意味を持たなかった。強いて言えば、国王への忠誠心を思い

起こさせるためか。

「あーあ、退屈だったな、相変わらず」

 こう言って、エメーゼ・アスト・ボリッシュは、大きく伸びをした。弓の名

手たる彼は、その緑の眼で狙いを定める。

 彼の言葉通り、退屈そのものの挨拶をすませた六騎士は、かたまって王室を

抜け出た。幼い頃に戦士として選ばれ、同じ環境で育てられたためか、体格は

ほとんど同じと言ってよい六人。しかし、性格はバラバラのようであった。

「そんなことを言うものではない。これによって騎士としての威厳を奮い起こ

すのだから」

 ユストリングがたしなめるように言う。ドゲンドルフも同調した。

「全くだ。ポルトやフーパやエメーゼみたいに、休みの間中、女のもとにいる

ような奴にこそ、必要じゃないか」

「オルトンはどうなんだ? 俺達の中で一番の女たらしは、こいつだと思うが

ねえ」

 フーパが自分のことを話題から外さんとして、赤髪のオルトンを指さした。

「僕は特定の娘とはつき合わないからね。ほんの息抜き程度にしか考えていな

いさ。気持ちの切り替えは、完璧につけている」

「それなら、俺達だって、切り替えはちゃんとやっているよな」

 フーパはエメーゼに同意を求めた。

「そうだとも。しかし……それを割り引いても、ポルトの感性にはついて行け

ないと思うな」

 最終的に標的となるのは、たいていポルティスであった。

 彼はいい加減、苦々しく思いながらも、反論はやめておく。しても同じだか

らだ。出世ばかり考えている人には理解できないものなのか、と感じつつ……。


「またポルティスが、ヒネガの苦情を持って帰ったそうだな」

 国王――コウティ・ワルドーの野太い声が、王室に響きわたった。

 国務大臣のヌル・ゴルドーは、その声に少し驚きつつ、話を続けた。

「はい。先ほど、係の者から書を預かって参りましたが、お読みに――」

「いらぬ。読まなくても、内容は分かっておる。税がどうの、肥料がどうの。

他の区もそうなのだから、どうにもなるまいのに」

「ノルトは土が悪いそうですし、ヒネガは先の戦争で功のあった部族なのでし

ょう? 特例を認めてはどうですか?」

 提案をしたのは、ツァーク・ワルドー。第一王子である。生まれた折から身

体が弱く、将来が不安視されたが、兵法を中心として才を磨き、現在では民の

信頼も厚い。

「それはもちろん、考えておる。しかし、先代からの命があって、ヒネガを取

り上げることはできんのだ。何度か言ったことがあろう?」

「それは承知しています。もはや今の世、アストブを揺るがすような戦が起こ

るとも思えません。何とか……」

「兄上もしつこいな。ここまで我らが国が強大になったのは、ヒネガ族を押さ

えつけていたおかげ。今、あの者どもを解き放てば、戦いとなるのは必至。こ

こは先代の命を守るのが肝心なのでありませぬか?」

 ケント・ワルドー、第二王子が言った。こちらの方は誕生の時の国王らの願

いが通じたか、身体の丈夫さが最大の武器であった。その強さは、白の六騎士

に肩を並べる。

「ケントの方がよく分かっておるわ! ツァークもしっかりしておらんと、お

株を奪われることになろうぞ! わははっ!」

 自慢の長い口髭をなで下ろしつつ、国王は豪快に笑った。

 ツァークは不満そうな表情をしてみせたが、それ以上は何も言わずにいた。

 ケントの方は、ニヤリと口元を歪め、この場の状況を楽しんでいる。

「さあ、この話はこれまでだ。それより、レイカの相手の問題だ」

「レイカ王女のお相手につきましては、ディーンが調べておりましたので、そ

ちらにお聞き願います」

 王族親子のやり取りを傍観していたヌルは、急に話を持ってこられ、幾分慌

てながら答え、部屋の袖に退いた。

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