ことばの記録

正木ギイチ

 帰りたいという気持ちが、影のように背中にはりついている。もう、いつからだったか忘れてしまうほど長い間のことだ。

 帰りたい。そう思うたび、何処に、と。頭の中で声がする。冷たくも温かくもないその声は、どうにもおぼつかない。帰るべき場所も、帰りたいと願う場所も、何処にもないことを知っているからだろうか。

 歩く。走る。逃避する。向かう先がない。

 立ち止まり俯く。うずくまる。時間だけが通り過ぎていく。

 影は常に此処にある。叶うあてのない願いが、背中にはりついている。





20221117

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