第13話


「アインすげぇじゃねぇか!」


「うんうん! あんな繊細な魔法初めて見たよ!」


 魔物学の授業が終わった休み時間。

 やや興奮気味の友人と会話をするアイン。


「上手くいって良かったよ。一応魔法制御の鍛練はしてあったから、それが活きたのかもしれない」


「アインさんってもしかして強いのでは? ソフィアとアインさんの近くに居れば安全なのでは......?」


 別の所で思考を巡らせるベネット。

 いつでも彼女はぶれないらしい。


「俺はあんな魔法使えないからよ。困ったらアインに教えて貰うことにするぜ!」


「僕で良かったらいつでも付き合うよシルバ」


「私も魔法制御苦手だからアインにお願いしようかな~。この前なんて薪に火をつけようとしたら、間違えて近くにあった大木を丸焦げにしちゃってさ。上手くいかないんだよね」


「そ、それはなんと言うか......。が、頑張ります」


 アインは思う。

 シルバはともかく、ソフィアのデタラメな出力を制御させるのは骨が折れそうだ。

 ケルベロス戦では身体強化魔法は完璧に近い形で行えていたので、出来ないことはないはずだが......


 ふと開かれた教室の扉。

 一人の女性教師が教室に入ってきた。

 顔が隠れるほど大きな帽子。

 全身を包む紫色のローブ。

 手には背丈程の大きな杖を持った魔女の姿がそこにあった。


「皆さん初めまして。私が魔法学を担当しますマゼンダ・マジョルタです。未来を担う魔法使いとしての自覚を持って授業に臨んでください」


 杖で教卓を2回ほど叩くマゼンダ。

 騒がしかった教室が一瞬で静かになる。


「......なぁアイン。何か怖そうなせんせ──」


「私語は慎みなさい」


「......」


「静かになったようですね。それでは授業を始めます」


 マゼンダ・マジョルタ。

 ディオラス大魔術学院を代表する教師の一人。

 別名『久遠の魔女』と称される彼女は、自分達が想像するよりもずっと長い年月を生きている。

 その杖から繰り出される魔法の種類は限りがなく、その威力はどれを取っても絶大だと言われている。

 間違いなくこのディオラスで魔法戦だけに限るなら彼女が最強だろう。


「魔法には通常魔法と血統魔法があります。前者は誰でも使える可能性があり、後者は違います。また、魔力器官も身体の成長と同様に成長期があります。今、まさに皆さんがその時期で、成長と共に使える通常魔法の上限も上がっていくでしょう」


 淡々と授業を進めるマゼンダ。

 アインは静かにノートを取りながら観察する。


「ここで問題です。血統魔法は身体に刻まれた魔法。それは文字通り血によって受け継がれます。私達魔法使いは長く繁栄してきましたね。ならば世代を重ねる毎に使える血統魔法も増えるはず。しかし、使える血統魔法を一種類のみです。それは何故ですか?」


 マゼンダは前の方に座っていたオレンジ髪の青年を差す。


「はい、それは二つの血統魔法に身体が耐えられないからです。血統魔法とは身体の器を満たす液体の様なものです。その液体は器一杯になって初めて効力を発揮します。

 そして、身体の成長と共に器の中で最も量の多い血が活性化し、他の液体を侵食します。故に器一つで血統魔法一つ。器を一つしか持たない人間には二つ以上の血統魔法は発現しませんし、そもそも身体が耐えられるように出来ていません」


 中々難しい質問であったが、スラスラと答える青年。

 そのハキハキとした声量と、しっかりとした佇まいから優等生と言う言葉を彷彿させる。


「さすがはホークレイド。この程度は予習済みですか」


「先生のご指導のお陰です」


「なるほど。今年のホークレイドは口もお上手みたいですね」


 一礼をして着席する青年。

 なるほど。ホークレイド家は有名な魔法貴族の家系であり、先ほどの解答にも納得がいった。

 まだまだ知らないだけでこの学院には大物がいそうだなと考えるアイン。


 そんな風にオレンジ髪の青年を見ていた時──


「えっ?」


 ふとこちらを向いた青年とアインの目が合った瞬間、青年がアインにウインクをした。


 そのさりげない仕草に気を取られるアイン。


 ──今のは何だったんだ?

 彼とは面識はなかったはずだが、気のせいか?

 もしかしたら自分ではなく、他の誰かに送ったものだったのかもしれない。

 そちらの方が可能性が高く、そう考えた方が納得がいく。


 突然の事でびっくりしたが、今は授業に集中しよう。


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