第8話


 学生寮に向かい移動をしているアイン達。

 肌を刺す空気は冷たく、外はすっかりと暗くなっていた。

 遠目に見える明かりの灯った校舎は昼間の印象とは違い、煌びやかな雰囲気だ。

 こういった景観も悪くない。


「ここが分かれ道だね。私達はこっちの女子寮だから、ここでお別れだね」


「そうだね。ソフィアとベネットも気をつけて。また明日授業で会おう」


「うん、また明日ね。バイバイ! アイン、シルバ!」


 腕を振るソフィア。

 ソフィアの後ろにベッタリなベネット。

 彼女達は女子寮の方へと歩き始める。


 そんな彼女を一頻り見送った後、アインとシルバも男子寮に移動を開始する。

 歩を進めて数分。

 男子寮らしきものが見えて来た。


「ここが俺達の寮か。結構でかいな」


「数百人がここで生活をするから、校舎顔負けの大きさだね」


 中に入ると、数名の男子生徒の姿が目に入る。

 男子寮はかなり大きく自力で部屋を探すのは困難だ。

 受付にいた管理人のおじさんに部屋の場所を聞く事にする。


「すみません、僕達は今日からこの寮でお世話になる者です。良ければ部屋の場所を教えて頂きたいのですが......部屋の番号は55号室です」


「3階......右奥の部屋......55号室」


「ありがとうございます......」


 シルバとアインは指定された55号室の部屋に辿り着いた。


「ふぅ~、ここが俺たちの部屋か。思ったよりも広そうだな。こっち側のベッド俺が貰っていいか?」


「問題ないよ」


 窓側のベッドにダイブするシルバ。

 大柄な彼の体重でベッドがギシリと音を立てる。

 調子に乗ったシルバがベッドの上で跳ね始めた。

 しかし、ベッドはそんな彼を支え続けていた。

 数百人分用意されたであろうベッドだが、その耐久力は中々のものらしい。


「うぉ! すげぇ跳ねるぜ」


「ほどほどにねシルバ。取り敢えず僕は荷物を確認しようかな」


 アインはガイダンスの資料に目を通す。

 制服は大丈夫だ。

 武器も持参した剣で問題ない。

 必要なのは授業で使う教科書や参考書であり、その類いの物は室内に二人分準備されていた。

 明日の授業で使うのは確か......


「アインは真面目だな」


 ふとシルバが呟いた。


「僕は明日の授業に向けてただ準備をしているだけだよ。別に真面目なんかじゃないさ」


「そういう所が真面目なんだよ......。なぁアイン、お前は何でこの学院に入ったんだ?」


 シルバの率直な質問。

 ドキリと心臓が跳ね上がる。

 アインは直ぐに返答しなかった。

 黒髪の少年は考える。


 シルバが友達だからと言って本当の目的を伝える訳にはいかない。

 かといって、曖昧な答えを言えばシルバを騙す事になる。

 それは友達として失礼だ。

 しかし、包み隠さず話す事は出来ない。

 故に沈黙を選択。


 室内に静か時間が訪れる。

 今日初めて感じる気まずさだ。

 そんな静寂をシルバが破った。


「式典中も言ったが、俺の目的は最強の魔大剣使いなることだ。だからここに来た」


「何で最強の魔大剣使いになろうと?」


「そりゃ勿論、魔大剣使いがかっこいいからだぜ? 昔から大剣使いの親父を見てきたんだ。憧れを持つのも可笑しくないだろ?」


 ニカッと笑いながらシルバが言ってのける。

 子供と言うのは親の背中を見て育つものだ。

 シルバが憧れるほどの父親なら、きっと立派な人物なのだろう。


「なるほど。シルバならきっと最強の魔大剣使いになれるよ」


「ありがとなアイン。だけどよここに来たのはそれだけじゃないんだ」


 シルバは続けて語る。


「俺の家はそれほど裕福じゃないんだ。ここに入学するのだって大変だったはずなのに、家族は笑って俺を送り出してくれた。だからよ、そんな家族に恥ねぇような立派な男になって、今度は俺が家族を支えてやりたいんだ」


 そう語る赤髪の少年は実に恥ずかしそうだ。

 アインと目を合わせ、人差し指で鼻の下をこする。


「こんな年になって言うのも恥ずかしいけどよ。俺、結構家族が好きなんだよな」


「全然恥ずかしいことじゃないよシルバ。きっとご家族もシルバの事を大切に思っている。だから胸を張って皆に言ってやればいいさ」


「俺が家族を大好きだってか?」


「あぁ」


「ク、ククッ......ガハハハハッ! そりゃ恥ずかしいぜアイン!」


 アインの返答に吹き出すシルバ。

 腹を抱え心底可笑しそう笑っている。

 思っていた反応と違ったアインは少し困惑する。


「そ、そう?」


「あぁ、でも嫌いじゃないぜ? そういうの。良いセンスしてるなアイン」


「僕は真面目に言ったんだけど......」


「あぁ、お前は真面目だよ。大真面目さ。だから面白ぇんだ!」


「良く分からないな。因みに何処が面白かったのか教えて貰っても良いか?」


「クッ......ククク.....」


 気まずい雰囲気は何処にいったのやら。

 就寝の時間まで彼らの部屋に会話が途絶える事はなかった。







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