第9話 『マーリンとの出会い』
中にいたのは――――――牛乳瓶の底の様に厚い眼鏡をかけた顔。八頭身のジャージを着た魔女っ子だ。僕は躊躇しながらも部屋に飛び込んだ。そしてすぐにドアを閉める。
「誰だか分からないけど助かります。冤罪で殺されかけていたんです」
「拙者の名前はマーリン・アールヴ・シュナイダーと申すでござる。まさか……男の娘が学園に入学するとは……伝統を重んじる魔女界では激震が起きるでござろうな……デュフフフ」
「き、君も……ぼ、僕を……敵だと思っているの?」
「いえ……逆でござるよ……拙者は
「くしゅんくしゅん‼」
「ああ……すみません……寒いでござろう。おお……これが男の子の身体……神秘でござるね。今度触らせて、詳細を模写させて欲しいでござる……へ、変なつもりはないでござるよ。ただの痴的――いえ、知的好奇心というヤツで……ああ、身体を拭くタオルはこれを使ってくだされ。ジャージは私を恐れて出ていったルームメイトのを着ればいいでござろう」
言っていることは大半がよく分からないかったが、温かい服を貸してくれたことには素直に感謝した。男は女に嫌われるらしいと間違った認識を僕はしつつある。マーリンに少し質問がしたくなった。なんだか心を開いても大丈夫な相手な気がする。
「ねえ……魔女は……魔法使いは……男が嫌いなの?」
「いえいえ……違うでござるよ。このロンドニキア魔法学院を卒業した魔女のほとんどが騎士となる男とパートナーになり生涯寄り添うでござる。ただ……古来、最初の魔女アリスが生まれた時から、魔法を使えるのは女だけだったのでござる。これには魔女特有のX性染色体が二つ揃わないといけない説やY性染色体が魔法の使用を阻む説など諸説あったんでござるが……まあ、それは置いておくとして……人類史初めての男の魔法使い……それがあなたでござる」
「じゃあ、よく分からないことばかりだけど、僕はロンドニキア魔法学院にいてもいいんだね」
マーリンは厚い眼鏡をキラリとコミカルに光らせながら、「ええ、それは大いなる福音となるでしょう」と言い切った。僕はマーリンに近づくと、抱きしめた。アンジェと違い柔らかな
「部屋の外は寒かったでござろう。拙者特製の茶でも飲んで下され」
「服まで貸してもらって、何から何までお世話になりっぱなしだね。今度何かで返させて貰うね。マーリンの趣味とかが分からないから聞いてもいいかな?」
「拙者は今日のように裸の男の子を絵にしたいでござる‼」
急にテンションが上がり、マーリンは手を握って、鼻息を荒くした。
いきなりだったので、何を言っているか分からず二つ返事をしてしまう。
「ほひょーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」
マーリンの牛乳瓶のような眼鏡が
マーリンは紅茶を出してくれた。蜂蜜が入っていて心も身体も温まる。最初は変な言葉使いの変な魔女だと思い込んでいたが、根は優しい魔女っ子なのかもしれない。長居すると助けたことで咎められそうなので、部屋から出ることにした。
「マーリン……また来てもいい?」
「ええ、お待ちしているでござるよ」
少し気分が落ち着いて、廊下を歩いていると、そこに疾駆する者が現れた。服を着たアンジェだ。ジャージに着替えており、処刑用のデッキブラシを携えている。鬼気迫る表情に一年生だけではなく近くにいた上級生も気圧されているようだ。好感度が高かったのが真逆に推移したのだと予想した。
「私にあんな恥辱を覚えさせるなんて……許さない……最初から騙していたのね‼」
「アンジェ……僕……何も知らなくて……友達でしょう?」
「黙れ‼ この露出狂‼ 変態‼ 変質者‼ 痴漢‼ 強姦魔‼」
「僕……友達とは戦いたくないよ‼ それに……罪状が増えているよ‼」
「ふざけないで‼ 二度と顔も見たくないわ‼」
「そんな……船の上でもお互い夢を語り合ったじゃないか?」
アンジェは無言で処刑部隊の隊長と目を合わせた。アンジェたちに連れられて、学院長のところまで連行される。ズルズルと縄で縛られて引きずられていく。その間も周りの魔女っ子たちから白い眼で見られてメンタルが真っ二つにへし折れそうだった。いや、完全にへし折れて悲しいやら苦しいやらやるせないやらで感情がグチャグチャになっている。涙と鼻水塗れの顔を他の見ず知らずの魔女っ子たちに見られて、死にたくなった。実際は死ねないけれど。
「どうしてこうなったーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!」
僕の魂からの
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