【完結&ハッピーエンド】 世界唯一の♂魔法使いは魔女っ子たちと戯れる~〝生きる魔法〟である僕は、超ハーレムの学院生活を何度でもループしながら無双する~

色川ルノ

第一部:世界唯一の♂魔法使い

第一章:魔法学院入学

第1話 『いざ、魔法学院へ』

 少し寒い桜が咲く季節、東京湾に浮かぶロンドニキア魔法学院へ向かう定期船に乗っている。読書をしながら客室で過ごすのではなく、始めて見る海をデッキから眺めることにした。デッキには魔法学院の新入生の魔女っ子が大勢乗っており、お喋りに花を咲かせている。

 僕は人見知りが少なからず強い。なので早朝の鳥のように楽しく話す彼女たちからは距離をとることにした。


「ああ……――本当に僕は魔法使いになるんだな」


 のんびりと海を見ていて、なんとなく懐かしいような気分になり声を漏らす。自分らしくない発言だなと我ながら思う。生まれてたから一〇年という長い間、屋敷から出ることがなかった。教育は最低限受けたけどそれだけ。存在が異質なだけに隠匿され続けた。

 それが変わったのが二年前…………ともの思いに耽っていたら、よく通る声をかけられる。


「あなたも海は初めてなの?」

「なんで分かったの? そんなに不自然な仕草は取ってないけど」

「私も……――海は初めてだから、なんとなく分かったの」


 それを聞くと僕はそういうこともあるのかと納得し、彼女の方から視線をまた海の方に向けようとした。すると話しかけてきた魔女っ子がまた声をかけてくる。綺麗なソプラノの声で、耳に優しく残る素敵な音色だ。


「あなた名前は? 私はアンジェ・シリル・ブックマン」

「僕は……――竜胆りんどうほろび。我ながら変な名前だと思う」

「変わっているけど、格好いい名前だと思うわ。ほろびさんって呼んでもいい?」

「別に構わないよ……――でも、人と話すのは苦手なんだ」


 絵に描いたような美少女はニコリと笑顔の大輪を咲かせる。それだけで初心な心臓の動悸が激しくなった。艶やかな黄金色の髪は風にたなびき、意志の強そうなラピスラズリの瞳は真っすぐこっちを向いている。スッと抜けるような鼻梁に、薄桃色の唇。姫様がいなかったら、今この瞬間にでも恋に落ちていたかもしれない。


「どうしたの? なにか私……おかしなこと言ったかしら?」

「いや……何でもないよ。ちょっと考えることがあっただけ」


 そうと言って、やや背伸びをしながら隣に立ち一緒に海を眺め始めた。何か話題でも出した方が自然かと思うけど、あいにく屋敷の外のことは実体験が少なすぎて、話題にすら困る始末だ。大海を知った蛙の絶望的な気持ちが痛いほど分かる。


「竜胆家か……――優秀な魔女を輩出する日本の古い血の一族。ロンドニキア魔法学院創設にも一枚んでたって聞くわね」

「僕は、その辺は何も知らないよ。血も繋がっていない養子だし」

「ねえねえ、ほろびさんはなんで養子にされたの? すごい魔法が使えるとか?」


 トントンと答える代わりに腰の黒い魔銃杖ガンドを叩く。魔力が低い者が使う異端の武器だ。それをアンジェは長い睫毛まつげの目を瞬かせて、察したようだ。だが、それでも懲りずに会話を続けるつもりのようで、こっちを向いたまま堂々と話しを続ける。


「魔銃杖は確かに使う人は少ないけど……――だから弱いとは限らないでしょ?」

「それはその通りだけど……――僕はそんなに強くはないよ」

「強さだけが魔女の価値を決めるわけじゃないわ」


 そうアンジェは自分に言い聞かせるようにはっきりと声を出した。


「そういえば……ブックマンってあのどんな本も暗記できるって一族?」

「そうよ、魔法が使えない異端の魔女が私なの」


 それを聞いて普段の自分らしくもなく、アンジェにかなり強い興味が沸いた。魔銃杖を誕生日プレゼントとして初めてもらった時の喜びが再び蘇る。生まれてきてよかったと肯定されたのは初めての体験だった。


「アンジェはどんな魔法使いになりたいの?」

「私は……――やっぱり秘密……笑われちゃうから」

「人の夢を笑うようなことはしないよ」


 ――――――夢を見続けろ、それがお前の才能だ。


 一年間、弟子として育ててくれた師匠の言葉が強烈に思い起こされる。


「なんだか、ほろびさんには夢を打ち明けていい気がするわ。不思議ね」

「それは……――僕には一生かかっても分からない感覚かもしれない」

「竜胆ほろびさん、あなたは魔女になって何をしたいの?」


 視線をおくびも見せずに合わせて、アンジェははっきりと問うた。真っすぐなラピスラズリの瞳に一人の魔法使いがキラリと映る。黒い癖っ毛に赤い瞳。平均的な日本人とは違うやや小柄な女の子のような姿。アンジェはきっと致命的な勘違いをしている。だが、何もしなくても、いずれ分かることだろう。


「僕は魔女の真祖アリスの残した宿題を片付けたいと思っているんだ」

「……――それは……すごい目標だけど茨の道だと思う」

「茨だろうが地雷だろうが踏み越えて、その道を進みたい」


 自身が世界に否定され、春に残った雪のように消される羽目になっても、絶対に後悔しない。そう仕える竜胆家現当主とも誓った。師匠の元へ預けられる夜、尊崇している彼女と一生に一度だけの約束したのだ。

 その彼女は今、客室で船酔いと必死になって戦っている。まだしばらくはロンドニキア魔法学院の港には着かない。


大海蛇シーサーペントが出たぞ‼ デッキから客室に戻れ‼」


 デッキにやって来た船員の声が響き渡ると同時に、船に何かがドーンッとぶつかり、大きく左へ傾く。お喋りをしていた魔女っ子たちが絹を裂くような悲鳴を上げる。漆黒の魔銃杖をホルスターから抜き出す。それを見て不安そうなアンジェが声を上げる。


「新入生の私たちだけじゃ、歯が立たないよ」

「やってみなくちゃ分からない。それにここで逃げたら後悔することになる。アンジェは客室にいる――――を連れてきて」


 一〇メートルはある大海蛇シーサーペントが水のブレスをぶつけている。定期船の右舷へと急ぎ走った。下手をしなくても多くの死人が出て当たり前な状況。それを防ぐのは僕の役割だ。


 銃火器で武装した勇ましい船員が攻撃を仕掛けているが、魔法生物である大海蛇シーサーペントには物理攻撃が全く効かない。

 僕は下級魔法を短文詠唱し、魔銃杖のトリガーを引く。銃口から炎の小さな鳥が大海蛇シーサーペントへ直撃する。

 大海蛇シーサーペントは狙いを船から変えたようだ。血走った黄色い縦長の瞳孔に映るのは――――――僕の姿だった。


読んで下さり有り難うございます。新作も同時に書いておりますので何卒よろしくお願い致します。↓が新しいさくひんのURLです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330650702972824

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