お化けが見えるだけなのに……
三園 七詩【ほっといて下さい】書籍化 5
第1話
「はぁ……どうしよ」
結奈は真っ昼間から公園のベンチに座って空を眺めていた。
町を見れば忙しそうに走り回るサラリーマンや仕事をしている人達が目に入る。
結奈はついさっき仕事を辞めて来たのだ。
結奈は小さい頃から死んだ人が見えた。
初めて気がついたのはおばあちゃんが亡くなった時、おばあちゃんのお葬式にでた時にみんなが悲しむ中おばあちゃんがニコニコ笑ってみんなを見る姿になぜ悲しんでいるのか分からなかった。
親にその事を言うと不謹慎だと怒られた。
それからも小学校で知らない人がいると言えば嘘つき扱いを受けたりと、幽霊が見える事でいい事などほとんどなかった。
そしてなるべくその事を隠して過ごしていたが、やっと就職した会社に執拗い地縛霊が憑いていた。
そしてそいつは結奈が見えるとわかるなり毎日毎日一方的に話しかけてきた。
「あなた見えるんでしょ……」
「お願い一緒に行きましょ……」
「なんで無視するの……」
毎日毎日声をかけられ結奈は堪忍袋の緒が切れた!
「うっさいのよ毎日毎日!いい加減にしなさいよ!あんたの話なんて聞いちゃいられないのよ!」
幽霊に向かって怒鳴り声をあげた。
すると幽霊はニヤッと笑うとそのままスっと消えて目の前には大事な取引相手がポカーンとした顔で立っていた。
「た、高橋さん!」
上司は真っ赤になり私を睨みつける。
取引相手も急に怒りが湧いてきたようで私と上司に向かって声を荒らげていた。
「ち、違うんです!幽霊が……」
思わず本当のことを言うとそんな嘘までついて誤魔化すのか!と更に怒らせてしまった。
取引相手は怒ったまま帰ってしまい、勢いよく閉まる扉の音の後に会社はシーンとした空気に包まれた。
しばらく一人にされて、取引相手には代わりの人が謝りに向かう事になった。
謝罪の結果どうにかこのまま取引を続けてくれることとなった。
しかし条件があると言われたらしい。
「あの女を辞めさせること!あれがいるなら取引はしない」
そう言われたらしい。
「すまないけど、自業自得と諦めてくれ」
「はい……」
私は頷き会社を後にした。
「これからどうしよ」
給料は安かったけどやっと就職出来た会社だった。
まぁ仕事内容はそんなに楽しいものではなかったが……
とりあえず何か仕事は見つけないと、実家には戻りたくない。
幽霊が見える事で家族とも疎遠になっており、家にいたくなくて就職してやっと家を出たのだった。
これでまた家に帰ればどんな白い目を見られるか……
そう思うとすぐにでも働かないと!とベンチから立ち上がった。
まずはハローワークに行ってみる、そこでベテランげなおばさんに会社を辞めた理由を聞かれた。
言い渋っていると次の就職先に前の会社での事を報告するから正直に話せと言われてしまう。
そこでトラブルでクビになった事を言うと……
「全く若い子は怒りっぽくてやだわ。少しは我慢を覚えないとだめよ」
知らないおばちゃんに説教される。
「そうですね……おばさんもトラブルだらけみたいですから気をつけてください!」
おばさんの後ろには恨めしい顔で睨む幽霊が数体憑いていた。
「な、なんの事!?」
おばさんは明らかに同様していると私は席を立った。
ハローワークにも行けなくなり私はコンビニで求人誌を買うと何処かゆっくりと読める場所はないかと周りをうかがう。
すると賑やかな町にひっそりと落ち着いた外観のカフェが目に入った。
引き込まれるように扉の取っ手に手をかけて引いてみる。
カランッと扉に付いた鐘が鳴るとカウンターから声がかかる。
「いらっしゃいませ、おひとりですか?」
「はい」
好きな席に座るように言われて奥の方へと向かった。
二人席に腰掛ける、昔ながらのソファーで少し固く背もたれは直角だがそれが心地よかった。
中の空調も涼しく快適だった。
いい店を見つけた。
この町にきてから仕事ばかりでゆっくりと町を散歩した事もなかった。
いい雰囲気に少しだけ傷ついた心が癒された。
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