第29話 祭り4
「………以上をもって今回の迷宮異変についての説明を終える。何か質問がある奴はこの場で言ってもらいたい!………誰も声を上げないということは質問は無しだな?それじゃあこの後先ほど説明した通りに各班に分かれて迷宮に潜ってもらう。出発は十分後だからそれまで準備を整えるんだな。それじゃあ時間まで各自好きにして良し!」
ウルが来てから約三十分後。今回の迷宮異変についての説明が始まった。といっても今回の迷宮異変についてのこととその元凶を倒した際の報酬の話し、そして今回の迷宮異変に初参加する者のための組合による班の調整。その他諸々の細かい点など基本的に探索者としての当たり前なことを聞かされただけだった。
一通り説明が終わり組合のマスターであるガイの言葉によって各々自由に動き始める。装備の点検をしたり体の調子を確かめたり、戦いを円滑に進めるための班での自己紹介などが行われていた。
そんな中、真斗も例に漏れずに振り分けられた班でお互いに自己紹介をしていた。
「えーと、これで今回の班は全員か?……よし、見る限りは人数は規定通りだな。それじゃあ誰から自己紹介する?」
そう最初に話し始めたのはちょっと派手目な格好をした探索者だった。
「あ~、じゃあ自分からいいっすかね?」
「お、『謝罪板』か。いいぞ、初手謝罪か?」
「いや、違うって!もう勘弁してくださいよ………。」
「わりぃわりぃ、ついな。」
そんな風にからかわれてしゅんとしているのはついさっき別れたばっかりのソーマだった。
「ふむ、後でとは言ったがこうも早く再会するとはな。しかも何やら早着替えまでして。………そんなに奇抜な格好をしたいのか?」
「これはそんなんじゃないから!これはっ……!その、あの後色々あったんですよ。割と恥ずかしいから何も言わないで下さい。」
「ん?何だお前たち、知り合いだったのか?」
「まあ、少しな。」
真斗の言い方に若干疑問の目を向けたが、それは直ぐに逸らされ自己紹介を再開した。
「改めて、俺はソーマ・ジークムント。見ての通り獣人だ。得意な武器は剣だがそれ以外にも色んな武器を全般扱える。魔法は火と風なら使えるが余り期待しないでくれ。今回の迷宮異変は初めてだから頼りにさせて貰うぜ!」
「ん、次は儂だな。儂は《宝飾品》のドール。二つ名の意味は、まあ見ての通りじゃな。割と派手な探索者で多少は名が通っているエルダードワーフじゃ。武器は主に自前の魔道具を使って戦っておる。魔法は火のみだが火力はそこそこ高いぞ。宜しくの。」
「あー、二つ名は流石に持ってないが、割とつよつよな人間の探索者でジェイっつうもんだ。主に斥候を担当してる。扱う武器は身軽さを重視して短剣を使ってる。用途によって様々な小道具を使って味方のサポートもしている。魔法は風と水と闇だ。よろしく〜。」
順番に名前を言いそのあと得意な武器や魔法の属性、戦い方などを伝えると最後は真斗の番になった。
「む、俺が最後か。俺は最近探索者になった人間の道影真斗という。ソーマと同じく今回の迷宮異変は初参加だ。武器は特にないがそこそこ強いぞ。そして魔法は残念ながら使えない。宜しく頼む。」
「そこそことか嘘つけ。」
ソーマに突っ込まれながらもいたって普通に自己紹介は終わった。
だが最近の探索者界隈を騒がしていた名前が出された事によってパーティー内の探索者達もそれぞれ反応を示し始める。
「む?お主≪雷姫≫と最近一緒に居る奴か?何ぞ最速で百階層まで辿り着いたとか。」
「確かにそうなんだが、あの時は少々はしゃいでしまってな。恥ずかしくて俺としては若干黒歴史扱いなんだが……。」
「ほう……?」
「他にも単騎で登竜門の三百層をクリアしたとか、毎日階層更新してるって噂もあるぜ。そこん所もどうなんよ?」
「それも本当だ。最近は迷宮をより長く楽しむため少し更新ペースを落としているがな。」
「ふーん。嘘を言ってる様子は無さそうだが……。こりゃあっちの噂はデマだったか?」
「む?デマ?」
「あー、ウル・アシュレットに気に入られただけの金魚のフンや弱みを握って言いなりにしている極悪非道な奴だったり、人に戦わせて貢がれてるだけの卑怯者。後はよくわからんが化け物とかか?まあその他色々な悪口だな。」
「何だそれは。酷い風評被害があったもんだな……。」
「まー、俺はあくまで噂しか知らんからなんとも言えないが、ここに居る時点で少なくとも一端の深層の探索者並の実力は保証されてるようなもんだから、あんま気にすんなよ。」
「そうじゃのう。それに実際に潜ってみれば分かる事じゃしな。なに、心配いらんよ。いざとなれば儂がフォローするわい。」
「それは心強いな。」
あっという間に他の探索者と仲良くなった真斗をよそにソーマは一人会話から取り残されていた。初めて会った人同士とは思えないその楽し気な様子にソーマは何だか仲間外れにされた気分になり、自分の存在を主張するべくその輪の中に声をかけた。
「おいおい、俺も混ぜて―――」
「よーしお前ら!そろそろ迷宮に潜るために移動するぞ!ついてこい!」
だがそれはガイの声にかき消されてしまい、他のパーティーの探索者達もぞろぞろと移動し始めてしまっていた。その余りのタイミングの悪さに唖然とし、肩を組もうと出しかけた手がそのまま虚空を彷徨った。
「……。」
「さて、儂らも移動するとしようかの。」
「おー、じゃあ行くかー。」
そして自分たちのパーティーもベテラン探索者達を筆頭に行ってしまったのを見て、ソーマは犬耳をしゅんと下げて気落ちする。
「そろそろ俺たちも行くぞ。」
「……おう。」
ソーマが若干落ち込んでいることに気づいていない真斗は普通に声をかけ、迷宮異変解決の為に歩くのだった。
◆
「…………こりゃひでぇな。」
今回の迷宮異変である中のモンスターパレードは迷宮から魔物が大量に湧き出てくる為、探索者は魔物が外に溢れないように間引きをしなければならない。
だがその分倒した数だけドロップ品が落ちるので低層の探索者や新人などはここぞとばかりに魔物を倒しまくって金を稼ぐ。
そして探索者が稼げば稼ぐほど商人も大量に仕入れ大量に売りさばき、そのお陰で安くなった商品を一般の人が買うことで経済が回り結果的に都市が繁栄する。
しかし次第にドロップ品はその膨大の数によって価値が暴落して市場が混乱するため、そうならないようにある程度都市が潤ったら迷宮異変を終わらせなければならない。
だが溢れ出す魔物をただ間引きしているだけでは迷宮異変は納まらず、その原因を作り出しているとされる元凶を倒さなければ一向に終わらない。
そのため上位の探索者である深層の探索者が集められ、迅速に解決に向かうことになる。しかしその数は他の層の探索者より少ないので、新たに深層の探索者となったものも自由意志のもと参加させている。
しかし、深層の探索者にまでたどり着く者達にとっては極一部を除き、自身の更なる成長のためチャンスとばかりに参加する者がほとんどである。故に数が足りなさ過ぎる、なんてことにはならない。
勿論安全を期すためにベテランの深層の探索者引率のもとに探索を行うが、その前に引率される側の実力を確認するために元凶の前の露払いを任される恒例行事があるのだが――――。
「あの言動から最低限の実力はあると思ってたが、こいつは流石に想定外だぜ…………。」
「何ともまぁ……。」
「……マジもんの化け物じゃねぇか。」
全員が全員顔を引き攣らせながらそれぞれに感想を言うが、それも無理は無いだろう。何故なら三人の目の前には迷宮異変によって溢れ出したゴブリン達が、上半身を次々に爆散され至る所にドロップ品を撒き散らしながら声を上げる事すら許されずに消えて行くのだ。
普通の人が見たら正気を失いかねない、常軌を逸した光景がそこには広がっていた。正に地獄絵図である。
「グ、グギャ……。」
因みに迷宮の魔物は外にいる魔物と違い、どれだけ仲間が倒されても決して怯むことも逃げることもしない無謀な性質を持つ。
そのため全滅するまで戦い続けるのも普通の事で、それが迷宮内の魔物であると探索者達の常識とされている。
「グギャァァーー!?」
だが最後まで生き残っていた一匹のゴブリンは仲間たちが次々と訳も分からず爆散されドロップ品へと変わって行く光景に、迷宮の魔物故に持ち合わせていなかった恐怖の感情を思い出したのか叫び声を上げながら分け目も振らずに逃げ出した。
しかし—————。
「何処へ行く?」
「ガッ……。」
いつの間に移動したのか、既に逃げ出したゴブリンの目の前に立ち、その額に人差し指をあてそのままズブリと脳内に突き刺していた。
一瞬の痙攣の後に指を抜き、そして瞬く間にドロップ品へと変わるのを確認してから一息つくと、三人に向かって戦闘が終わったことを告げる。
「うむ、粗方こんなものか。どうだ、これである程度の実力は証明できたか?」
「……はっ⁉お、おう!出来た出来た、超出来た!全く、噂なんてあてにならねぇな!は、はは……。」
「寧ろ噂よりも酷いんじゃないかのぅ。迷宮内の魔物が逃げ出すなんて今までの探索者人生の中で聞いた事も見た事も無いわい……。」
「……え、俺この後にやらなきゃいけないの⁉どう考えても力量差がエグ過ぎなんだけど!これ以上の事をどうやってしろと⁉無理だろ!絶対無理だろ⁉」
ドン引き必須のゴブリンの虐殺によって晴れて真斗はその実力を認められることになった。というよりもこれ以上理解不能な光景を観させられると正気が狂いかねなかったので、勘弁してくれと逆に願い出たほどである。
その後に行われたソーマの実力測定は無難に終始ソーマがゴブリン相手に無双して終わったが、特段称賛されることもなかった。誤解なく言っておくとソーマの武器の扱いは上位の探索者から見ても見惚れるような技の冴えを見せつけており、その戦闘能力は並みの深層の探索者を凌駕している。
ただその前に見せられた光景が余りにも異次元過ぎたので、相対的に評価が低くなってしまっていたことが彼にとっての不幸であった。哀れなり、ソーマ。
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