第2話「悲劇」(愛花side)
数日後。
裕子から電話があり、人物関係について洗い出したから駅前のカフェで集まって欲しいと言われ、私はそのカフェに入っていた。数分経ち、資料を持った裕子が現われた。
「お待たせ~」
「ごめんね、裕子。本当は私がやるべきことなのに」
「いいの。頼んだのは私だから」
そう言うと、裕子はテーブルに大量の紙束を出す。
その紙を私は手に取る。
「裕子のお母さん、パート従業員だったんだ」
「そうそう。いつも夜遅くになって帰って来るから、相当頑張っているんだなって思ってた」
「何だか・・・・・・裕子って、親孝行ちゃんとしているよね」
「え、そう?」
「そうだよ~。この前私が裕子の家に遊びに行った時、ちゃんと家のことしてたじゃん」
「何だか、愛花に言われると恥ずかしいな~。そういう愛花だって、ちゃんと親孝行してそう」
「いやいや、私は~」
「・・・・・・まあ、今回はそういう理由で愛花に頼んでいるわけじゃないんだけどね」
「うん? 何か言った?」
私が小声で呟く裕子に言う。だけど、裕子は「ううん。何でも無い」と笑顔で反応を見せた。
私は紙に目線を落とす。
「確か、警察は裕子のお母さん、野間真菜子に目をつけたんだよね」
私がそう言うと、裕子が頷く。
「で、被害者と野間真菜子の接点を警察が調べた結果、当時交際をしていた・・・・・・。なるほど、警察は二人の痴話げんかをして、その際誤って殺害した・・・・・・。でも、バラバラにすることってあったのかな」
「そう。私もそこまで考えたけど、バラバラにして顔を潰す理由が分からないんだよね」
「バラバラに顔を潰す・・・・・・身元を明かさないようにするためとか?」
「確かに。愛花のその仮説もありそう」
「ありそう、というより、私としてはこの仮説が一番あり得そうなんだよね」
「え?」
裕子が首を傾げる。
「だって、警察が被害者の身元を確認するのに時間を要した訳でしょ? そうすれば普通、犯人としては警察が被害者の身元を割り出すその間に、時間稼ぎに何かをするのが得策」
「そっか、確かにね。だけど、時間稼ぎって例えば?」
「うーん。例えば、どこか他の地域に引っ越すとか」
「ああ、確かに」
「でも、その線は無いかなって思う。ほら、裕子のお母さん、まだこの頃十二歳だったわけだし」
「そうだよね」
「あと、顔を潰したのは誰なんだろってことかな」
「え? 誰って、私のお母さんじゃないの?」
彼女が疑問を示す。
「ううん。十二歳って、まだ思春期でしょ? だから、こういうことにやったことに対し、まだ責任が取れないと思うの」
「ああ、ということは」
「そう。裕子のお母さんは被害者をバラバラにしていない。誰かが、その代わりにしたってこと」
私は裕子の言葉を継ぎ、話す。
「ほうほう」
裕子が頷く。
私は再び書類に目線を落とし、情報を記憶の海に落とす。
裕子の母でもある、野間真菜子は被害者と元交際関係。警察が野間真菜子を訪れた際には、既に結婚しており、夫と同居を開始していた。名は野間弘樹。つまり、裕子の父親だ。
――父親?
「ねぇ」
「なぁに。愛花」
「裕子の父親って、弘樹っていうの?」
「ああ、それお爺ちゃんね。だけど、私が小さい頃には既にもう亡くなってて」
「そうなんだ・・・・・・。えでも、まだ若いけど」
「そう。だけど、うちの父親、女癖が悪くてさ」
「そうなんだ」
私が落ち込む素振りを見せると、彼女「気にしないで気にしないで」と言う。
私は特に何も思わず、書類にまた目を通す。
野間弘樹のページ。
彼は都内にある企業に勤める一般のサラリーマンであり、真面目な方と、記載されていた。なぜ彼の記載が載っているか、私はふと疑問に思ったが、ページの端にある警視庁と書かれた薄い文字で解決した。野間弘樹のアリバイは確認されており、確かに犯行が出来ないと分かった。彼は犯行の時刻と思われる時間には、仕事で職場にいたと証言されており、その時に一緒にいた職場の方々によって、アリバイが証明されていた。
――うん?被疑者候補ナンバー2?
私はそのページをめくる。
被疑者候補ナンバー2、名は佐藤哲。職業は中学の数学教師であり、同時に研究者でもあった、と記載されている。彼のアリバイは存在せず、まさか、と私は思いページをめくった結果、彼が犯人として起訴、送検されていた。そこには犯行動機が記載されており、ただ隣人の夫婦を助けたかった、と供述。佐藤哲の供述通りに自宅を調べた結果、隣人の話し声を聴くために設置された盗聴器、犯行に使われたと思われる凶器が見つかったという。
私は書類をテーブルに置き、目を閉じる。
警察は野間真菜子、もしくは佐藤哲のどちらかに絞っていた。その調べている時に、恐らく佐藤哲が出頭してきたのかな。で、その後の出来事はさっき読んだ情報。でも、何で佐藤哲は出頭したんだろう。野間真菜子と、被害者には何かトラブルがあったのかな。
そう思考の海に浸っていると、裕子が話しかけてくる。
「あ、そう言えば」
「ん?」
「私の母の野間真菜子、この時のことで一個思い出したことがある」
「それは?」
「野間真菜子、被害者とトラブっていたんだって」
「トラブっていた?」
「うん。確か金銭トラブルだった気がする」
「何か借金でもしてたの?」
「ううん。被害者が野間真菜子に金を度々せびっていたんだって。それで、今度も金をせびろうとした被害者があいにく殺されたんじゃないかって。これが警察の仮説」
「なるほどね・・・・・・」
私はカフェラテを口にしながら、また考える。
被害者は野間真菜子に金をせびっていた。今度も金をせびろうとした挙げ句、野間真菜子によって殺害された・・・・・・。恐らく、彼女が被害者を殺したことは仮に合っているとしても、なぜ顔を潰してバラバラにしてまで・・・・・・?
「うーん。実際に会ってみないと分からないな」
ポツリと、呟く。
「会う? 誰に?」
「裕子の母、野間真菜子に」
「お母さんに会うのね・・・・・・」
裕子が微妙な反応を見せたことに、私は疑問に思う。
「何か、あったの?」
そう私は疑問をぶつけてみたが、裕子は反応を見せなかった。
カフェから出た私たちはその場で別れ、私は真っ直ぐ帰宅した。
自室に入る時間は既に午後六時を回っており、思考の疲れだろうか、ベッドにそのまま横たわってしまった。
その状態で、携帯を何となく触る。
すると、あさひから何気ない会話の話題が入ってくる。
『ねぇねぇ! 愛花に勧められた本、買ったよ!』
自撮りの写真と共に、メッセージが送られてきた。
――そう言えば、最近読んだ、『容疑者Xの献身』をあさひに勧めたこと、あったな。
何気なくメッセージを送信していると、ふと何かが閃いた感じがした。
ベッドから起き上がり、私は本棚にある、東野圭吾作『容疑者Xの献身』を取り出す。
「――そういうこと」
私の声が、自室に沈んだ。
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