彼女は一体、何者?【完結済】

青冬夏

第1話「頼み事」(愛花side)

 「で、相談って?」

 

 私はカフェラテを一口飲んでから言う。

 

 「愛花にはあることを調べたいことがあって。――事件のこと」

 

 「事件?」

 

 私の目の前にいる、野間裕子が言うと、私は座り直す。

 

 「簡単に言えば、殺人事件のことなんだけど・・・・・・。ちょっと待ってて、鞄から資料を出す」裕子は隣に置いてある鞄に手を伸ばし、ゴソゴソと何か探している。「はい、これが愛花に調べて欲しい事件」

 

 「事件・・・・・・。これ、裕子の家族のことだよね」


 「うん」


 裕子が頷く。


 「資料を読む限り・・・・・・あまり違和感がないけど、どこを調べれば良いの?」


 「・・・・・・もう一度、最初から調べて欲しい」


 「最初から・・・・・・」


 私はその言葉をおうむ返しにして、裕子から手渡された資料に目を通す。


 調べて欲しいと言われた事件とは、次のような内容だった。


 一九八〇年六月。都内某所にて、ある男が遺体となって発見されたという。身元を明らかにするような物を持ち合わせていなかったため、身元判明には時間がかかったと記されていた。被害者は真野孝。職業は普通のサラリーマンで、人間関係は良好だったと、周囲の人達の証言。その後の調べにより、被疑者の候補に当時交際していた、野間真菜子が浮上。警察は彼女について調べたものの、犯行に及んだとみられる時間についてはアリバイがあった。それをどうにか警察は解き明かそうとしたのだろうか、資料には色んなことが記載されていた。例えば、彼女がその日行った映画館、カラオケ店・・・・・・。色んなことが書かれており、警察も苦労したのかな、と私は素直に思った。その後、被疑者と思われる人物が出頭してそのまま逮捕、起訴されて事件が解決したと資料に記載されていた。


 「ふむ。資料を読んだら大体分かった。でも、現場を見ていないから分からないな・・・・・・」


 「あ、それなら大丈夫。私が案内してあげるから」


 そう言うと、裕子が胸をパン、と叩く。



 

 「ここが、被害者が見つかった現場・・・・・・」


 私は裕子と共に都内某所の公園に来ていた。東村上駅から歩いて十五分ぐらい歩き、閑静な住宅街にある小さな公園。


 「静かだね」


 私が言うと、裕子が頷く。


 「えーっと、被害者は確かここで見つかったんだっけ・・・・・・」


 私は少し歩いて、ベンチの隣にあるゴミ箱に近づく。


 「そう。通行人がゴミ箱にゴミを入れたら、何か人のようなものが見えて通報したらしい。その後に駆けつけた警察官によって、それが入った袋が取り出された結果、人の死体だと判明して事件が発覚した、らしい」


 「ふむ、なるほどね。バラバラ死体・・・・・・」


 「バラバラで、顔が潰されていたんだって。身元を判別するような物が無かったから、身元判明までかなり時間が要したみたい」


 「なるほどね・・・・・・。あ、そうだ」


 「なに?」


 「被疑者の候補にされた野間真菜子って、裕子の知り合い?」


 「うん。知り合いって言うよりは、母なんだけどね」


 「今幾つなの?」


 「確か今年で五十三になるんだっけ・・・・・・」


 「五十三・・・・・・ということは、当時の年齢は十二歳・・・・・・」


 私は顎に手を添えて考えるが、今のところ普通の殺人事件のように思えた。


 「うーん・・・・・・考えても、普通の事件のように思えるんだよね・・・・・・。あ、そう言えばさ、何で裕子はこの事件に違和感があると思ったの?」


 私は裕子に目線を向けると、何か考え事をしていた。


 「・・・・・・裕子?」


 「・・・・・・あ、ごめん。何だっけ?」


 「何で裕子は、この事件に違和感を感じるようになったの?」


 「そのことね。いや、じ、実は・・・・・・」

 

 「どうしたの? そんなにモジモジして」

 

 「あ、何でも無いよ。まあ、違和感って言うか、自分の母が被疑者にされた事件って、どういう事件なんだろうって、そう思っただけ」


 「そ、そうなんだ」


 「立ちっぱなしも何だし、座ろうよ」


 裕子がベンチに座り、その隣に座るよう促す。


 「そうだね」


 私はそう言うと、裕子の隣に腰掛ける。


 「何か分かった?」


 「うーん。現場と資料を見ただけではまだ何とも。人物関係を洗えれば、何とか整理できるかも」


 「じゃあ、私がその人物関係について洗ってくるよ」


 「え?」


 私が呆けた声を出していると、裕子は公園を立ち去っていた。


 「――裕子、何を考えているんだろう・・・・・・」


 私は一人、そう呟いた。

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