第四十五話 事件のほつれ1つ目

「そんな...晴樹くん......」


「どういうことだよ!?俺と貴船が部屋を覗いた時、確かにテーブルには晴樹の首だけしか...!?」


僕と澁鬼は目の前の状況が信じられなかった。特に澁鬼は晴樹くんが首だけの姿をその目で見ているだけに、僕より衝撃は大きいはずだ。


「仕掛けは簡単だ、テーブルの真ん中に穴を開けてそこから首を出す。その際にテーブルの脚の一つが覗き穴から見て丁度真っ正面になるように置く。後はそこを頂点とし隣の脚との間に大きめの鏡を付ける。これだけで正面から見た時限定で、テーブルには首だけ置かれたように見えるって訳だ」


「でもそれって、近づかれちゃったらすぐにバレちゃわない?」


僕の質問に対して貴船は「あぁ」とあっさり答えた。


「だから近づかれないように部屋の扉を開けさせないように鍵をかけ、覗き穴からしか見えないようにして、自身が首だけの状態であることを俺たちに確認させる。そして後は証拠隠滅で爆発させる。始めに小さい気泡を爆発させて見せたのは、部屋から脱出する瞬間を見られないためだろう?俺たちに気泡=爆発物という印象をつけさせてその場から離れてもらうことが目的だったんだ。そして俺たちが離れたのを見計らい、自身も奥の窓から脱出して部屋ごと爆発させて証拠隠滅。そうだろう?」


貴船は晴樹くんを強く見つめながら言うが、当の晴樹くんはどことなく嬉しそうというか、楽しそうな反応をした。


「随分細かいところまで推理したんですね。流石です貴船クン」


集落の住人を4人も殺しているというのに、どうしてこんな平然として、軽い笑顔すらも浮かべられるのだろうか...。僕は晴樹くんの心情が全く理解出来なかった。


貴船は更に続けた。


「どうしてお前が死を偽装するやり方を選んだのかは分からないが、そのやり口だけは感心するよ」


「おっ?ボクの取ったやり口ですか、どういう推理なのか気になりますね」


「お前は俺たちに死体をどんどん遠ざけていった。始めは事件現場のその場に置いただけ、次に舞台の天井、次に炎燃え盛る奥の部屋、そして最後は薄暗く鍵のかかった密室。徐々に俺たちに死体に触れさせないようにして、自分が被害者を演じる際に触れられない状況でも違和感を持たれないようにした。だが自分が被害にあった時だけ爆発が起きるのはあまりにも不自然だ。だからこそ古賀さんの家を燃やし、爆破させ、俺たちにそういったイメージを付けさせることで、自分の番の時に現場で爆発が起きても、俺たちから違和感を既に取っぱらえてるんだ。全く凝ったやり方だ」


僕は絶句した。これまで犯人である獣人は無差別に手当り次第襲って、だけども何かしら理由があってその場にバラバラにして捨てたのかと思っていたけど、そんな事まで考えられて殺人が行われていたなんて...。僕は目の前にいる伊斯波いしば晴樹はるきという人物がどんどん分からなくなってくる。






「...............あれ?」





ここで僕はある疑問にぶち当たる。




「ねぇ貴船、仮に晴樹くんが犯人だとするなら、古賀さんの事件はどうなるの?陣外さんの遺体を下ろす時に晴樹くんと一緒に古賀さんはいたけど、そこで殺したとしても、現場の集会所出てすぐにすみかさんと会って、それから間もなく僕たちとも合流してるから、遺体を運ぶ事が出来ないし、家が燃えてた時も僕とすみかさんがずっと晴樹くんといたから、近づいてすらいないのにどうやって......?」


僕の質問に澁鬼も賛同の意を唱える。


「確かに。俺たちが晴樹と会う前に、晴樹が古賀さんを追いかけて家で殺したとしても、再び合流するまでの時間を計算してみても戻って来れる距離じゃねぇ。仮に戻って来れたとしても、すみかが集会所の出入り口から出た晴樹を目撃してるから、より一層その説は厳しいな。貴船、どう説明するんだ?」


「あぁ、正しくここが事件のほつれポイント2つ目だ。これはラッキーもあって真相にたどり着く事が出来たがな」


次の瞬間、貴船から僕たちの想像を八段ぐらい超えた発言が飛び出した。











「最初の犠牲者、宍戸さんが殺されたあの日の夜に、古賀さんも既に殺されていたんだーーーーーーー」




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