第四十四話 獣人の正体!!

ーーーー佐斗葉視点ーーーー


「貴船、獣人の正体が分かったって言ってたけど、これからどうやって捕まえるの?」


僕はまだ貴船から全部を聞いていないため、これから先のビジョンが全く見えていなかった。


「さっきも少し言ったが、獣人は楠河さんをバラバラにする時間が無かった。つまり自分の身を隠すだけで精一杯だったんだ。それに、楠河さんが投げた石はどこにあった?」


僕と澁鬼は縁側に目をやる。


「そういう事だ。俺たちは血痕を辿ってこっちへ来た。つまり俺たちが通ってきたのと同じルートで楠河さんは逃げ、獣人もそれを追った。つまり楠河さんが石を投げた時、獣人は縁側の部分にいた事になる」


「でも、楠河さんを殺したあと、そこから家の外へ逃げていったんなら、探すの大変じゃない?」


僕の質問に貴船は首を横に振る。


「今回ばかりはそうも出来なかったんだ。それが祐葉が追いかけていた人影だ」


その言葉に澁鬼はハッとする。


「そうか!誰か分かんねぇけど、人影がいた上に、それを祐葉が追っていったからその瞬間に外へ出れなくなったのか!」


「そう。そしてそれから間もなくして俺たちも到着してしまい、逃げるタイミングを完全に失ってしまった」


んっ..?僕は貴船のセリフを聞き終わってある事に気付いてしまった。


「じゃあ貴船..もしかして獣人は.....」


「流石にもう気づいたよな。そうだ、獣人は今、この家の中に潜んでいるーーー!」


「「!!!?」」


僕と澁鬼は背後の縁側の奥にある部屋を見た。


「可能性的にはこの縁側から一番近い部屋だな」


貴船はそう言って何やら赤い球体を懐から取り出した。


「キエさん、少しここら辺の部屋が煙臭くなってしまいますが良いですか?」


貴船はいつの間にか廊下の奥で僕たちの話を聞いていたキエさんに声をかけた。


「別に構わないさ。そこは息子の嫁が使っていた部屋だ。いっそ派手にやりな」


純平くんのお母さんの事だろうか...?僕はキエさんの言い回しにちょっと違和感を覚えた。


「じゃあ、許可ももらったとこで...」


貴船はそういうと手を上げ大きく振りかぶった。


「行くとしますか!!!」


そしてビュンと言う音とともに真っ赤な球は部屋の一室へと放り込まれた。


ボンッ!!!



軽い爆発音のあと、赤い煙が舞う。


「まぁまぁ強力な催涙弾だ。離れてないと俺たちも巻き添え喰らうぞ」


貴船はこういった小道具というか、ちょっとした仕込みが本当に準備万端で、頭脳とも合わさって、僕たちのチームにはサポート要因としては欠かせない存在だ。


僕たちはしばらく様子を見守っていたが次の瞬間ーーーーーーーー







バッ!!!!!!!!!!











突然黒いローブを羽織った人影が部屋から飛び出し、僕たちの20m程先の所に着地する。


「お出ましだな」


貴船は不敵な笑みを浮かべた。コイツが...集落の皆と、恵里菜と朔矢を襲った獣人......!!!!


僕と澁鬼は刀を構える。冷や汗が垂れるのを肌で感じる。一気に張り詰めた空気...。正直気を抜いたら空気感に耐えきれずに膝から崩れ落ちそうだ...。


「なぁ貴船、コイツがこの事件の真犯人で獣人なのか?というかまず誰なんだよ?」


「消去法で考えてみるのが一番簡単だ。まずキエさんと純平は大半が俺たちのメンバーの誰かと一緒に行動していて、犯行は不可能だ。そして、今病床に伏している牛峯さんにも第四と第五の事件はやりようがない」


澁鬼の質問に対し貴船が順番に解説を入れてくれる。おかげで僕も今話に着いていけている。


「となると、残ってるのは北條姉妹...?」


「すみかは雪嶺と一緒のはずだから、じゃあきよかが!?」


「いや、どちらとも違う」


「「えっ.........!?」」


僕たちは貴船の返答に対して固まってしまった。意味が分からない。だってそれじゃあ全員除外されてるじゃないか...。


「ここで大事なのは第四の事件と第五の事件の違いだ。俺と澁鬼は事件の発端となる音を聞いてから、それぞれの現場に大体同じぐらいの時間でたどり着いた。なのに晴樹の方は綺麗に首だけ置かれた状態で鍵もかけられていた。だが楠河さんはバラバラにされていないどころか、現場の石すらもそのまま放置している。同じ時間で駆けつけたはずなのに、この差は妙だろう?澁鬼」


「まぁ、そう言われれば確かにな...。でも、それだけで犯人特定に到れるか?投げられた石とか別に無視しても良いようなもんじゃねぇ?」


「特定に至るには十分過ぎるさ。楠河さんのダイイングメッセージの意図に気付いたかは分からないが、それを処理する時間すらも無かった。一つ前の事件で、1〜2分で首以外を消すというあれだけの離れ業をやっているのにも関わらずだ。余程楠河さんをこの場で殺さないといけないぐらいの状況に運悪く陥ったんだろう」


「で、結局犯人は誰なんだよ?集落の生き残りの人達が犯人じゃないって言うなら」


「さっき言った楠河さんのダイイングメッセージが最大のヒントだ。投げたのは『石』だった。いるだろ?俺たちの周りで名前に『いし』が入るやつがたった一人」


僕たちは目を見合せた。確かにいる...。でもそれって......!!


すると貴船は右手にいつの間に持っていたのか、白い球体を獣人に向かって投げつけた!!!



サッ!!!!




顔面に目掛けて放たれたその球体を獣人は首を右に軽く傾けて躱す。だがーーーーーーーーー






「!!!!!?」







白い球体がローブの端にかすった瞬間、突然フードの半分がその球体に喰われたかのように喰いちぎれたのだ!!!!


「くっ!!!!!」




ローブの人物はすぐに右側に身体全身を預け、横に大きくけ反り回避行動を取る。


そして貴船が右手を握った瞬間、白い球体はフッと消えていった。


これって貴船の能力...?そういえば貴船は無能力者じゃないのは知ってるけど、何の能力使いなんだろう...?


全員何が起こったのか分からないまま、しばしの間固まる。僕はそのままローブの人物に目をやる。








「推理力に加えてそんな変わった能力まであるとは......キミも行動不能にしておくべきでしたかね、貴船クン」







どこか楽しそうに話すローブの人物。左半分が喰われたフードが風になびき後ろへ倒れる。そしてその顔が明らかになった。








「えっ.........!!!!」


「何っ.........!!?」





僕と澁鬼は言葉を失った。貴船の話から獣人が誰なのか何となく頭にはぎっていたけど、すぐに飲み込めず、ずっと心の奥にしまい込んでいた。






そこにいたのはもうここにはいるはずの無い人物。








彼が、そこには立っていた。









貴船は力強く真っ直ぐに彼を見た。








「この事件の黒幕、犯人はお前だ、伊斯波いしば晴樹はるき!!お前がこの集落の人間と俺たちの仲間を襲った真犯人、獣人だ!!!!!!!!」




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