第四十一話 3つの結び目
「楠河さん......」
玄関から襲われてこちらまで逃げてきたのだろうか...だけど恵里菜と純平くんは倒れているだけなのに、どうして手傷を負った状態の楠河さんだけ執拗に追われたんだろう...?獣人は人間であれば誰彼構わず襲うはずなのに...。
「それに第一、何で楠河さんがここに...」
宍戸さんの現場で出くわしたのを最後に見ていなかったが、それでも楠河さんがキエさんの家を訪ねてくるのは何か変な感じがした。そこまで仲良さそうにも見えなかったし...。
「んっ...?おい、これ見ろよ」
澁鬼が楠河さんの右手を指さす。よく見ると、庭に敷き詰められた枯山水の白い小さな石を握りしめているのが分かる。
「じゃあ廊下の石ももしかして楠河さんが...?」
「そうかもな。せめてもの抵抗で投げたのかもしれねぇ」
楠河さんがギリギリまで
「それにしても広い庭だなぁ...」
見渡す限り立派な庭園、周りには盆栽や二段タイプの脚立などが置いてある。整理がかなり行き届いている。
「これは......そうか、分かってきたぞ...」
貴船が独り言のように呟いた。
「貴船、何が分かったの?」
「楠河さんの死体だよ。これまでと違ってバラバラにされてない。俺たちが早く到着したり、キエさんが鹿笛を吹いちまったりして、そうする時間が無かったって事だ」
「じゃあ、祐葉が今追いかけてる怪しい人影が?」
「ゼロとは言いきれないがな。恐らく獣人は楠河さんを急遽ここで殺さざるを得ない状況になっちまったのは間違いない。これまでと違って明らかに手際がお粗末すぎる」
「獣人にとって楠河さんが予想外の動きをしたからって事?」
「かもな。だがこれでもうーーー」
次の瞬間、貴船が口にしたのは予想外すぎる言葉だった。
「犯人は確定した。」
「「..........えっ!!!!!!!!??」」
あまりにも唐突すぎる急展開に僕と澁鬼は反応に遅れた。
「待ってよ貴船、そんないきなり解決出来るの!?さっきまで貴船もずっと悩んでたじゃん」
「まぁ実を言うと、俺も古賀さんが殺された第三の事件辺りまではさっぱり分からなかった。だが、さっき連続した二つの事件で一気に絞る事が出来た。そしてこの事件の犯人は恐らくただの獣人じゃない」
確かにこれまでの事件のことを考えてみても、一癖ありそうな獣人なのは間違いなさそうだった。
「おい待て貴船、じゃあ祐葉が追っかけてる人影は......!!!」
「言ったろ?ゼロとは言いきれないって。つまりゼロでは無くとも、限りなくその可能性はゼロに近いんだ」
「ここに来て言い回しがややこしいよ...」
僕は思わずクレームを入れてしまった。
「多分別の住人だと思うがな。あれだけ鮮やかに見つからずに殺しまくってるんだ。ここに来て誰かに見つかるヘマをするとは考えにくい」
「まぁそれは確かに......」
「けど貴船、どうしてここへ来ていきなり分かったんだよ?」
澁鬼の質問には僕も賛同した。
「この事件の結び目は所々あるが、それを紐解くための
「「石?」」
「あぁ、それは恐らく楠河さんが残したダイイングメッセージだ」
「え?獣人に抵抗するために投げたんじゃないの?」
僕の意見に貴船は首を振る。
「そんな軽くて小さい石よりも、脇にある盆栽とか脚立とか、そういう重い物を投げた方がよっぽど武器になるだろ?」
「そっか...ってことはこれは何かの暗号ってこと?」
「死の間際に暗号なんて考える暇なんてない。せいぜい名前が精一杯だ」
「名前?」
「あぁ、ちょっと一旦話はここまでだ。詳しい話は後にする。とりあえずここからは未知なる獣人との戦闘に入る事になる。俺も獣人の目的や、これから更に犠牲者が出るのかは正直分からないが、今のうちに打てる手は打つ。澁鬼、
「お、おぅ」
澁鬼は少し慌てた様子で刀を地面に突き刺す。多分澁鬼も状況が上手く飲み込めてないのだろう。
「
ビュゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンン!!!!
一瞬甲高い音が鳴った後、澁鬼の刀を中心に、地面に波紋が高速で広がっていく。
予め澁鬼が刀でマーキングをつけた相手に対してのみ、数キロ先でも自身の伝達を可能とする技、こちらから話しかけるのは不可能だが、澁鬼が伝えられる言葉や時間に限界は無い。
「よし、届いたぞ」
数秒後、澁鬼は刀を地面から抜き、僕たちを見る。
「じゃあ、いよいよ反撃開始だな」
貴船はゆっくりと空を見つめ、息を吐いた。
「全ては、一本に繋がった」
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