第三十話 次なる牙


ダンッ!! ダンッ!!!!!


「待ちやがれ!コラッ!!!!」


陣外さんの言葉には怒気なんてものはこもっておらず、これから起こるかもしれない僕たちの殺害という行為を心から楽しんでいるようで、その顔は狂気の一言に尽きる満面の笑顔だった。


僕たちは全力疾走してどうにかして逃げ切らないといけないが、初めて来るこの場所じゃ地の利が向こうにある。


仮にキエさんの家まで逃げきれたとしても、今度はそこにいる純平くんやまだ目を覚ましていない恵里菜と朔矢を巻き込んでしまうかもしれない。


どうにかしてここいらで撒いたり出来ないかと作戦を立てたいが良い方法が思いつかないし、何よりそんな余裕がない..!!


しかし一つラッキーだったのは、陣外さんは歳のせいか僕たちよりは足も遅く体力も劣る。そしてキエさんが言っていた銃の腕前は半人前以下というセリフは本当だったようで、今のところ僕たちにまともに当たったのは一発も無い。


とは言え向こうは地形を完璧に把握しているので、距離を離しても逃げ切れる保証は無いし、いずれ行き止まりに追いやられる危険性もある。


どうする...!?ここで異能を解放して追いやるのは簡単だけど、逆上させるかもしれないし、何より陣外さんがその事実を集落の皆に話してしまったら、それこそ僕たちはお会いしたい方々の汚名を晴らすどころか、更なる不信感を集落の方に植え付けてしまう...。


迷いながら走っていると、急に持っている水筒がキラッと光った気がした。


「んっ...?」


よく見ると、水筒から僅かに糸が伸びているのが見える。


これって、晴樹くんの水生糸アクア・フィールム...!?


僕は晴樹くんが水筒を渡してくれた際に力強く握ってから僕に渡したのを思い出した。


もしかしてあの時に術を展開していた...!?


糸は目を凝らさないと見失ってしまうぐらい細く真っ直ぐ伸び、茂みの方へ繋がっていた。


この糸がどこに繋がっているかは分からない。でも今は晴樹くんを信じてやるしかない...!!!



「みんな!!こっち!!!!!」


僕は勢い叫んで茂みに飛び込む。祐葉たちは僕の突然の行動に驚きながらも後に続いてくれた。


「なっ......!?」


陣外さんは驚きの声を上げる。後ろを振り返ると生い茂った木で陣外さん姿は完全に見えなくなった。


僕は祐葉たちに「詳しいことは後で!!」と言うぐらいの余裕しかなく、今はただ晴樹くんが託してくれた水筒から出る糸を辿って必死に走る事しか出来なかった。










ーーーー陣外視点ーーーー



「クソッ!!どこ行きやがった!?」


私は完全に奴らを見失ってしまった。


ただ道を逃げるだけなら繋がっている先も分かるし、いずれ袋小路に追い込み一人ずつ殺るつもりだったが、茂みに入るのは予想外だった。


これではどこから出てくるか分からない上に、迂闊に追えばあっさり背後を取られる可能性もあった。


「まぁいい。遅かれ早かれヤツらは伊斯波の所へ行くだろう」


挨拶に来た時も伊斯波はヤツらにくっついていた。間違いなく協力者だ。ならばそれを逆手に取り、伊斯波さえ見つける事が出来れば自然とヤツらもそれに釣られてやって来るだろう。もしくは同じく協力者だと思われるキエさんの家に行けばヤツらは必ずそこへ戻って来るだろう。


私は目的を変更し、ゆっくりと歩き始めた。


「んっ...?」


少し遠くに誰か立っているのが見えた。ここからでは遠すぎて誰だか分からんが、こちらを警戒している感じは無かった。


まぁ怪しい行動をしたところでこちらには猟銃がある。いざとなったらーーー


私はそういった覚悟を持ち合わせ、ゆっくりと足を進める。


「あぁ、なんだ。警戒して損したよ」


私は近づいて行く内にすぐにそんな言葉を漏らした。


だってそこにいたのはよく知る集落の住人だったのだから。


「ちょうどいい。アンタに聞きたい事がある」


私は要件を話そうとするが目の前の人物の違和感に気付いた。



奴の顔が見る見る変化していくーーー




この世のものとは思えない異形な姿にーーー!!



「な、なんだお前は!!!!」




バンッ!!!! バンッ!!!!




私は慌てて猟銃を構えて2〜3発放つ。しかしーーーーー




「な、なにっ...!!!!!!???」



奴が何かを唱えた瞬間、

弾はすんでのところで勢いを殺される。


これは人間じゃない...!!まさか、コイツが...獣人......!!!??


「チッ...!!クソがっ!!!!!」


私は後ろに下がりながら何発も弾を撃ち込んだ。


しかし奴の見たこともない力によって弾は勢いを失い、全て地面に転がり落ちていく。


「よせっ...!!止めろっ......助けてくれぇ...!!!」


私は全ての弾を使ってしまい、恐怖のあまり弾の補充もおぼつかず、目の前で予備の銃弾がボロボロと落ちていく。



獣人は遊びは終わりとばかりにゆっくりと歩みを進める。








「うっ.....うわぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!」








刹那、私の視界は突如として光を失ったーーーーーーー

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