第三十一話 兄弟姉妹


ーーーー佐斗葉視点ーーーー



僕たちは草木が生い茂る茂みの中を無我夢中で走っていた。晴樹くんが残してくれた糸を辿り、決して足を止めること無く。


それからしばらくして、僕たちは茂みを抜け一本の道に出た。


辺りを見渡すと見覚えのある光景が飛び込んでくる。


「晴樹くんの家だ!!」


水筒から出る水の糸は、晴樹くんの家のワキにある井戸に繋がっていた。


僕たちは急いで晴樹くんの家に向かい、扉をノックする。


ドンドンドンドンドンドン!!!!


「晴樹くん!晴樹くん!!」


何回も叩くが返事がない。


先に戻って行ったはずなのに...。もしかして何かあったのかな...?


そんな不安が一瞬頭をよぎったが、すぐに後ろから声が聞こえてきた。


「佐斗葉クン!!」


びっくりして後ろを振り向くと、そこには息を切らして膝に手をつく晴樹くんの姿があった。


晴樹くんは僕たちの顔を見るとホッとしたような安堵の表情を見せた。


「良かった...!無事だったんですね佐斗葉クン...」


「晴樹くんこそ...先に行ったハズなのに家にいないから、何かあったのかなって心配したよ」


「ごめんなさい、銃声が聞こえたから佐斗葉クンたちが心配になって...でも、ここにいるって事は、ボクの水筒に気付いたんですね」


晴樹くんは嬉しそうな顔で水筒を指さす。正直これに気づかなかったら本当に危なかったと今でも思う。


「ボクは水と水を糸で繋げる事も出来るので、今後も もし何かあった時のために持っておいて下さい」


僕たちは晴樹くんに感謝してもしきれない。本当に良い人だなぁと思いつつ、先ほど僕たちは陣外さんに銃撃を受けた事を晴樹くんに話した。


「そうですか...さっきの銃声はやっぱり陣外さんだったんですね......あの方は少々極端な考えをお持ちなので、暴走したらホントに大変で、抑えられるのはキエさんぐらいなもんです」


僕たちはこの集落の年功序列の力関係をどことなく感じた。


「そういえば...」と雪嶺が切り出し、 晴樹くんに質問する。


「晴樹はどうして私たちがこっちにいるって分かったの?銃声が聞こえたから一旦そっちの方へ行ったのよね?」


「あぁそれは、銃声のする方へ走ったみたら、陣外さんが誰かを探すようにキョロキョロしていたのを遠目で見かけたんですよ。だから今は目標ターゲットを見失った状態なんだと判断しました。それで、陣外さんは佐斗葉クンたちに対して危険な事も言ってたので、今狙われてるのは佐斗葉クンたちだとすぐにピンと来ました」


そして晴樹くんは水筒を指さす。


「万が一の事があった場合、佐斗葉クンたちはこの土地に慣れてないから、陣外さんから逃げ切るのは相当不利だと最初から思っていたので。それでも陣外さんが見失っていたって事はボクの水筒から出てる糸を辿って、ボクの家へ行ったんじゃないかって思いまして、慌ててUターンしてきたんですよ」


本当にどこまでも考えてる人だ。感心通り越して最早怖いぐらい。


とりあえず晴樹くんの家に入って一息つく事にした。


「晴樹、ちなみになんだが、宍戸さんが殺された時にいたあの二人の姉妹の事を聞いても良いか?」


貴船の質問に僕たちも賛同した。恐らくあの二人がキエさんが言っていた北條ほうじょう姉妹で、宍戸さんの遺体の第一発見者だ。


あの時はバタバタし過ぎててゆっくり話す暇が無かったからここで聞いておきたい。


すると晴樹くんはゆっくり話し始めた。


「二人は本当に仲のいい姉妹で、いつでも二人で必ず行動しています。お姉さんの きよかさんはいつも勝ち気でツンケンした所はありますが、妹さんに対して深い愛情を持っていて、過保護なまでに妹さんの身を常に案じています」


「あの女...俺を『くろチビ』なんざ呼びやがって...後でぶっ飛ばしてやろうか全く...!」


祐葉はブツブツ言っているがとりあえずスルーした。身長の話は祐葉の前ではタブー中のタブーだ。


晴樹くんは何となく察したのか、祐葉には触れずに話を続けた。


「妹のすみかさんは儚げのあるとても優しい方なのですが病弱で、万が一体調を崩してしまったら危ないとの事で一人で外出する事はほとんどありません。そういった事もあって、きよかさんは妹のすみかさんに対して過保護気味に接してしまう訳です」


僕は何となく自分と祐葉を重ねてしまった。僕は能力を使うと過去に封印してしまった辛い記憶を呼び起こしてしまう副次作用がある。


祐葉はそんな僕のために無能力者だと僕に嘘をつき、前線に立たせず、辛い思いをさせないようにした。


だけどその気遣いや繕いや嘘もきっとどこかで気付く瞬間は来る。それでも兄の思いを汲み取って、本人の前では決して言わないのが弟ってものだ。


もしかしたら妹のすみかさんも姉のきよかさんにそんな事を考えているんじゃないかな...。





僕がそんな事を考えていると突然ーーーー








ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!





まるで僕たちに何かを知らせるかのように、誰かが吹いた鹿笛が、集落全体に大きく響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る