第二十七話 訪問ツアー佳境


「全く、本当に分かりやすいヤツだよ」


キエさんは大きくため息をつく。僕たちは今 次のお宅へ向かって移動中なのだが、先程の陣外さんが一切名乗らず部屋に戻ってしまったので、キエさんが変わりに説明してくれた。


「ヤツは陣外じんがい洋輔ようすけ、ここの集落じゃアタシの次に年寄りだ。アタシと同じようにハンターでね、狩猟のために一緒に山に登った事もあるが、正直狩りの腕前は半人前以下だ。それで非を認めない上に自分より年下のモンには強く出るプライドの塊のどうしようもないヤツだよ」


後半は完全にただのディスりなのだが、まぁさっきの印象からあながち間違って無さそうな感じがしたので触れないでおいた。


そして僕たちは次のお宅へ到着した。

今回はかなりこじんまりとした如何にも一人暮らし用というサイズの家だった。


「さぁ着きましたよ。ここが楠河くすかわさんのお宅です」


晴樹くんは恒例の紹介からのドアノックで楠河さんを呼ぶ。


「んン〜?何の用だ伊斯波?」


すると中から170cmには届かないぐらいの小太りの50代ぐらいの男性が出てきた。頭頂部の毛は完全に無く、側頭部から後頭部にかけて髪は生えてるがその毛もかなりパサパサだった。


「おはようございます楠河さん、朝早くからすみません。実はですね〜......」


晴樹くんは相変わらず誰に対しても態度を一切変えずに接する。これはこれで中々出来ない事なので僕は軽く感心の領域に入っている。


楠河さんは話を聞いてかなり渋っていたが、この場にキエさんがいること、そして地主さんである宍戸さんの許可を貰っている事もあり、「ぐっ...」と声を漏らすだけでこちらに対して反対の言葉を述べる事は無かった。だが......


「分かった...ただ一つだけ条件がある」


楠河さんはそう言うと雪姉ぇの方を見てニタァといやらしい笑みを浮かべた。そして雪姉ぇを指さしたかと思えば......


「私は君たちが普通の人間かどうかは話だけではイマイチ信じられんのでね。そこで監視として君を私の家に置くのであれば滞在を許可しよう。なに、色々と確認したいだけさ」



「「「「「うわぁ.........」」」」



僕たちは全員ドン引きの声を思わず漏らしてしまった。完全に邪なこと考えてるじゃん...。


そんな僕たちのリアクションを無視して楠河さんは雪姉ぇに近づく。


「私は楠河くすかわ武雄たけおと言う。しかし君は中々良い身体をしているじゃないか。前後の発育は物足りない気もするが、このスレンダーさは申し分無い。どうだいお嬢ちゃん今夜にでも早速ーーーー」


そう言って楠河さんが雪姉ぇに触れようとした瞬間、



「ぐぁっ!?いでででででで!!!」


雪姉ぇは楠河さんの腕を掴んだかと思ったらそれを楠河さんの背中に回し、関節技を決めていた。


雪姉ぇは僕ら7人の中で一番腕っぷしが強く、大人の男性にも引けを取らない。


まぁなんてったって普段から自分の背丈を軽く越える斧を振り回してるからねぇ。


雪姉ぇは表情の無い冷たい声で楠河さんに告げる。


「さっきからニタニタニタニタと声だけじゃなく顔もやかましいのよこのエロ河童。このまま隻腕の住人にでもなる?」


「痛い痛い痛い痛い!!!分かったスマン冗談だ許してくれ〜〜!!!!」


楠河さんは情けない声を上げる。その際にタップでギブアップをアピールしようとしたが、地面の変わりに雪姉ぇのお尻を触ろうとしたので雪姉ぇから背中に強烈な蹴りを喰らい2〜3mぐらい吹っ飛んだ。あんな状況でもめげないとは...。


「クソッ...!!まぁいい。こういう強情な女ほど調教しがいがあるってもんだ...!君が泣きながら私に跪く姿を想像するだけで震えが止まらないよ」


「なんつー精神力だよ...」


祐葉はドン引きながらもその言葉からはやや尊敬の面も感じられた。まぁ僕もここまで来ると一周回って拍手を送りたくなる。絶対送らないけど。


とりあえずこれで楠河さんへの挨拶は終わったので最後のお宅へ向かおうと歩き始めたその瞬間ーーーーーーー





「きゃぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!」









甲高い女性の叫び声が集落中にこだました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る